味覚の不思議~調味料の組み合わせ~
「美味しい料理を味わっていただきたい」という思いは、食事に関わる専門職の共通の目標です。
料理には「愛情が大事!」「鮮度が良ければ美味しくなる」という声も聞きますね。もちろんその通りですが、専門職が行う「調理」は「理にかなって味を調える」ものでなくてはなりません。今回は、理論として裏付けされた味付けのテクニックを見てみることにしましょう。5つの基本味
「味」とは、どのようなものを指すのでしょうか。
国語辞書では、「飲食物を舌にのせた時に起こる感じ。飲食物が舌の味蕾(みらい)を刺激して生じる感覚。→味覚 」以下、「―が良い」「―をつける」「―を見る」「おふくろの―」と続きます。つまり、舌で感じる物が「味」なのです。
現在では、いろいろな味のうち「甘味、苦味、酸味、塩味、うま味」の5つを「基本味」と呼び、それ以外の味と区別しています。基本味は味蕾を構成する味細胞によって受容されますが、それ以外の味は、味細胞を介しません。例えば、辛味は、味細胞を介しません。痛覚に近い感覚です。その味細胞の受容体はたんぱく質でできています。味は、舌の味細胞に呈味物質が届かないと味がわかりません。とろみ付け、ゼリー化などによって味細胞に味が届きにくくなることがあります。また、呈味物質は水溶性なので、油脂でのコーティングなどによっても同様の事が起こります。味を示す主な物質・環境・甘 み ─ 糖、アルコール、グリコール、など・苦 味 ─ アルカロイド、有機塩類など・酸 味 ─ クエン酸・腐敗・塩 味 ─ ミネラル・うま味 ─ アミノ酸・核酸味蕾は糖や脂肪の多い食物を素早く感じますが、これらは、生き物として生存するにあたって大切な栄養素となり、敏感に反応するようになっています。
調味料の効果・作用
砂糖・甘みを付ける ・溶水性 ・保水性 ・保存性 ・マスキング効果
・酸味と苦みを和らげる ・つやを出す塩・塩味をつける ・食材を軟らかくする ・たんぱく質を固める ・脱水作用
・色止めをする ・保存性 ・食べ物を冷やす酢・酸味を付ける ・塩味を和らげる ・香りを付ける ・発色作用 ・色止め作用
・たんぱく質を固める ・保存性しょう油・うま味を付ける ・味を強くする ・香りを付ける ・生臭みを消す
・味を和らげる ・風味を引き立てる ・色を付けるみそ・香りを付ける ・味を付ける ・匂いを吸着する ・接着作用がある ・保存性酒・生臭みを消す ・香りを付ける ・食材を軟らかくする ・つやを出すみりん・きつね色に仕上げる ・てり、つやを出す ・生臭みを消す ・味がしみ込みやすい
・煮くずれを防ぎ身をしめる ・アルコールと糖の相乗作用で腐りにくくする
味の効果
相乗効果甘み、旨みに関しては、同じ種類の味を持つ、2つ以上の呈味物質を混ぜ合わせた時、それぞれの味の強さ以上に強くなる場合があります。
昔から、だしをとるのに、昆布とかつおぶしを使いますが、旨み物質のグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸の間には相乗効果が見られます。グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸を混ぜたもののうま味は割合によって異なります。50%ずつの時が最大値を示し、グルタミン酸ナトリウムだけの時に比べ、7.5倍になります。対比効果もとの味とは異なる味を少量加え、もとの味が強まることを「対比効果」と呼びます。例えばスイカに塩を振りかけて食べる、しるこに少しの食塩を加える方法などです。ほんの少し塩を加えることで、甘みを強調する効果を生み出すので甘みが強まったように感じます。
うま味と塩味についても、スープを作るとき、だし汁だけで味わうより少量の食塩を加えることによって、旨みを強く感じ、味のよしあしがはっきりとします。このように、2種類の異なった味を混ぜる場合は、同時対比と呼ばれます。時間的に対比する場合は経時対比と呼びます。例えば、甘いものを食べた後、酸味のあるものを食べると酸味を強く感じます。その他、牛乳と塩せんべいを一緒に食べると牛乳は甘く感じますが、甘いクッキーと牛乳を一緒に食べると牛乳に塩味を感じます。抑制効果対比効果とは逆に、2種類の味を混ぜた時に、もとの味の一方または、両方の味が弱められる場合を「抑制効果」といいます。「調味料の効果と作用」の欄にもあるように、砂糖は酸味と苦みを和らげます。レモン汁にシロップを加えたり、グレープフルーツに砂糖を加えるのは、酸味が抑えられるからです。また、コーヒーに砂糖を加えると苦味が弱くなります。
「塩なれ」とは、塩味を示す物質の変化を言います。料理の食塩の塩辛さは、うま味成分のグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸を加えることによってやわらげられることを表します。
調理の知恵 その1 「かくし味」
かくし味は日本料理に古くから伝わる調理用語です。
料理の個性の演出をする際、非常に効果的で、少量の違った呈味物質を加えて、味を良くする方法です。かくし味に使われる主な食材・日本酒 ・しょう油 ・みそ ・みりん ・塩 ・酢 ・かつおぶし ・昆布 ・七味唐辛子
・しいたけ ・ねぎ ・山椒 ・生姜 ・梅酢や梅肉 ・柚子 ・橙など甘味 + 酸・カフェイン → 甘味が和らぐクエン酸 + 砂糖・塩 → 味が弱まる苦味 + 食塩 → 味が弱まる
調理の知恵 その2 「マスキング効果」
マスキング効果とは、二つの音が鳴っている時、片方の音にもう一方の音がかき消されて聞こえなくなる現象を言いますが、聴覚に限らず、味覚・臭覚・視覚などにも起こります。
嫌いな味を抑える効果としては、塩辛くなったものにグルタミン酸を加える。金属味など刺激味がするものに砂糖を加えるなどがあります。
また、あえ物も調理方法としては有効です。マスキング効果のある主な食材・コリアンダー ・ミント ・わさび ・生姜 ・にら ・ねぎ ・くるみ ・たで ・からし
キーワード 煮物
こつ 酒はだし汁だと思ってふんだんに使う
煮物で酒の果す役割は、けっこう大きいものです。酒は材料の臭みを消したり、材料を柔らかくしたりします。特に、魚介類、肉類には欠かせません。野菜を煮るときも、コクをつけ、よりおいしくしたいのならば酒を使ってください。もったいないようですが、思いきって使って下さい。飲み残しの酒があれば料理用にとっておきましょう。市販の料理酒を使うよりずっと味がよくなります。こつ いもやかぼちゃの甘味は砂糖
野菜の煮物にはあまり砂糖は使いませんが、いもやかぼちゃを煮るときは例外です。じゃがいも・さといも・かぼちゃを煮るのに、甘味の調味料がみりんだけでは少しもの足りないのです。砂糖を使って下さい。グッと味が引き立ちます。でも、使いすぎには注意。素材の持ち味をころしてしまいます。砂糖にもいろいろな種類がありますが、上白糖がよいでしょう。こつ みりんにはほのかな甘味・うま味・香りがある
甘味の調味料というと砂糖とみりんの二種類がありますが、甘さは全く違います。みりんは砂糖の約半分です。みりんは単に甘いだけでなく、特有のうま味と香りを持っていて、料理によい風味を与えます。また、みりんにはアルコール分があります。ですからみりんと砂糖はちゃんと使い分けて下さい。みりんは主として、全体をまろやかに仕上げたいときのかくし味や、照りをつけたいときに使って下さい。注意してほしいのは、みりんの使いすぎは、素材の繊維をしめるのでひかえめにということです。みりんをあまり使わないという人は、ぜひ使ってみて下さい。
こつ さっぱりした甘味は酒だけでつけてもよい
酒はご存じの通り米からできています。だから、糖分を含んでいます。つまり、砂糖やみりんほどではないにしても、甘味があるのです。さっぱりめの甘味が必要ならば、ぜひ酒で味つけして下さい。この場合、料理酒ではなく、パック酒でいいので本物の酒を使って下さい。酒は立派な調味料です。
こつ 蒸し煮は目を離しても安心な煮方
家庭ではあまりしない方法ですが、蒸し煮という料理法があります。直接鍋で煮たのでは、煮くずれしやすい材料に味をつけるときにします。煮汁を合わせ、下ゆでした材料を入れ、そのまま蒸気の充分に上がった蒸し器に入れます。味がつくまでに時間はかかりますが、煮汁が沸騰しないので材料が躍らず、煮くずれしないのです。いも・かぼちゃ・かぶらなどを煮るときに向きます。蒸し器の湯には注意して下さい。空炊きしないように。
こつ 煮物の材料に合わせて鍋を選ぶ
煮物をするときに、材料の分量に合った鍋を使うということはとても重要です。鍋が大きすぎると、必要以上にだし汁や調味料を使ってむだが出たり、逆に鍋が小さすぎると、味つけがきちんとできないで料理にならなかったりします。家庭では、鍋の種類も数も限られているので、苦労があるかもしれませんが、料理に合った鍋を使うということはおいしさへの第一歩です。料理は、ちゃんとした道具がないとうまくできません。魚一匹を煮つけるときには、深さよりも底の広い鍋が必要ですね。いもを煮るには、広さよりもある程度の深さがないと、煮汁がどんどん蒸発して味がつきませんね。いいたいこと、分かってもらえますか。こつ 長期保存したいときは数回に分けて煮詰める
煮物を長期保存する場合に必要なのは、味をしっかりとつけることです。さっと煮たのでは、味が濃くても腐ってしまいます。味をある程度つけては、火を止め、冷まし、また、味をつけては、冷ます。これを繰り返して煮詰めて下さい。こうすることで味がしっかりとつきます。味というのは、煮ているときよりも冷めていくときに、ジワーと入っていくのです。だから、冷ますということを何度か繰り返したほうがいいのです。お正月の煮しめものなどがよい例です。煮詰めて味をつけることで、保存効果も出るのです。
こつ いかはサッと煮て濃度をつける
いかの身というのは、煮れば煮るほど身が固くなり、味がつきにくくなります。この場合、身はようやく火が通ったくらいにしておいて、煮汁に片栗粉か葛粉を溶き入れて濃度をつけます。こうすれば、いかの身に煮汁がからみつき、中まで味が染み込んでいなくても、おいしく食べられるのです。こういった煮物を葛粉の産地の名を使って「吉野煮」といいます。車えびを煮るときも同じです。いかには、細かな包丁目を入れておくと、より煮汁がからみやすく、また、食べやすくなります。こつ 煮くずれしやすい野菜は、油で揚げてから煮る
いも・かぼちゃなど煮くずれしやすい野菜は、いったん170℃くらいの油で揚げ、表面を固めてから煮ると、煮くずれしにくくなります。これを揚げ煮といいます。油で揚げることで水分も多少抜けるので、味ものりやすくうま味もつき、煮汁で煮ただけとはひと味違ったおいしさになります。特に、夏バテしやすい暑い時期に向くでしょう。野菜は油と相性がよいので、揚げたり、炒めたりして料理するとコクがついておいしくなります。こつ つけ合わせの青味野菜は、ぼんやりの味つけでよい
煮物のあしらいの青味野菜は、しっかりと味を入れず、素材の味を残し、ほのかな味つけにします。あしらいものには、口直しの意味もあるので、味つけは薄めがいいのです。こういった野菜は、主に、ほうれん草・菊菜・きぬさや・三度豆などです。色も薄めのつけ汁につけ、せっかくの青い色が飛んでしまわないように気をつけましょう。
こつ 脂の多い魚や肉は大根おろしであっさりと
大根おろしには、魚や肉のしつこさを消したり臭みを抜いたりする効果があります。しかし、大根おろしは、仕上げに入れて、長く煮すぎないようにして下さい。煮すぎると、せっかくの大根の香りが飛んでしまいます。クセのある魚の場合は、一度油で揚げてから大根おろしを入れるとより効果的です。このように、大根おろしを使った料理を「みぞれ煮」といいます。こつ 豚の角煮は、おからでゆでて脂抜き
豚の角煮をする場合、まず、箸で切れるほど柔らかくする必要があります。肉の大きさにもよりますが、2~3時間ゆでます。このとき、鍋の中におからを入れて下さい。おからは、豆腐屋さんで売っています。最近では、デパートでも見ます。おからと一緒にゆでることで、豚肉の臭みと余分な脂分が抜けます。昔から、真新しい漆器の臭いを取るときに、おからを詰めてしばらくおけばよいといいます。この場合、おからがにおいを吸収するのです。ゆで上がった豚肉は、流水にさらし、おからをきれいに洗い流して下さい。しょうがの薄切りを入れてゆでるとより効果的です。
こつ 椎茸を煮るときは戻し汁を使う
干し椎茸を煮るときに、あらかじめ水につけて戻します。最低でも半日はつけないと充分には戻りません。こうして戻した椎茸のつけ汁には、椎茸の香りやうま味が出ています。捨てずに煮るときに使いましょう。戻し汁だけだと味も強すぎるので、だし汁と半々で使って下さい。椎茸を煮るコツは、気長にあわてずに煮ることです。中までじっくり味を染み込ませて下さい。こつ ぜんまいは油で炒めて水分と臭いを取る
ぜんまいを料理するときは、必ず油でよく炒めて下さい。炒めると水分が抜け、味のつきもよくなり、また、特有の臭いも抜けます。とても油と相性がよい材料なので、薄揚げや厚揚げなどを使って煮たりもします。味が淡白なので、油で調理するとコクもつきます。こつ こんにゃくは、空鍋でバリバリと煎ってから
こんにゃくの成分の大半は水分です。だから、そのまま煮たのでは、味がなかなか入りません。味をつける前に、包丁で切り込みを入れたものを空鍋でよく煎って水分を抜きます。音が激しくするほど煎って下さい。中心が熱くなるまで時間をかけて火を通すと、こんにゃく特有の臭いを抜くこともできます。こつ 煎り卯の花は、煮る前にしっかりと油で煎る
料理で卯の花といえばおからのことです。おからは上手に煮ると、だれにでも喜ばれるおいしいおかずに変身します。さて、そのポイントは、充分に油で炒めることです。木杓子を使ってパラパラになるまでよく煎って下さい。油は、サラダ油でも、香りの強いごま油でもお好みで。おからに油を吸わせ、水分を抜くのです。それから他の具を入れて軽く炒め、だし汁や調味料を加えて下さい。とにかく前もってよく煎ることが大切です。ところで、実際の卯の花は、4月頃にきれいな白い花を咲かせます。おからに卯の花とは、なかなか粋な名前をつけたもですね。
こつ 「たけのこは酒飲み」といわれるほど、たっぷりの酒で煮る
たけのこを煮るときは、酒をたっぷりと使って下さい。酒の上品な甘味と香が、たけのこによく合います。野菜を煮るときは、たいてい酒を加えますが、たけのこの場合はとくに多めに使って下さい。酒がなんともいえないコクをつけてくれます。自分だけでなく、たけのこにも酒を飲ませてやって下さい。おいしく食べるコツですよ。
こつ 甘露煮は素焼きした魚を「水切り蒸し」にする
あゆ・もろこなどの川魚を、濃いめの味で煮て、最後に水あめを加えてつやよく仕上げる料理、これを甘露煮といいます。煮る前に、魚をこんがりと焼く素焼きをし、そして水切り蒸しをして下さい。水切り蒸しの目的は、読んで字のごとく、水分を抜くためです。強火でしばらく蒸すことで、水分が抜けて味が入りやすくなり、骨も柔らかくなります。野菜では、いも・かぼちゃ・大根など、味が入るのに時間がかかるものは、下ゆでしてからこの水切り蒸しをし、それから煮ると、味が入りやすくなります。こつ あわびは瞬間煮か気長にゆっくり煮る
あわびは貝類では王者的なものです。大変高価食材なので、失敗しないように料理しないといけません。あわびといえば、独特の歯応えを楽しむために、生が一番という人が多いでしょうが、煮物にしても大変おいしいのです。薄くそぎ切りにした身を静かに沸騰している煮汁に入れ、さっと煮ます。瞬間煮というやり方です。あわびには前もって、片栗粉を全体に薄くつけておいて下さい。煮汁がよくなじみます。生の身は固いですが、これならば瞬時に柔らかくなります。丸ごと煮る場合は、大根の輪切りしたものと一緒に2~3時間ほどゆでます。信じられないくらい柔らかくなります。それから煮汁を合わせ煮て下さい。それはそれは柔らかくて、おいしいあわびの煮物ができますよ。こつ 冬瓜の煮汁には鶏皮を加えてコクをつける
冬瓜は冬という漢字が名前の中にありますが、旬は夏です。新鮮なものは表面が白っぽいので、霜が降りたように見えるところからついた名前だとか。冬瓜料理はあまり好きではないという声をよく聞きます。冬瓜そのものにはしっかりした味はないので、外側から充分に味をつけないとおいしくありません。冬瓜を煮るとき、鶏の皮を一緒に入れて下さい。煮汁にコクが出てとてもおいしくなります。野菜全般にいえることですが、肉類と取りあわせて料理するとコクがつき、いっそうおいしくなるのです。それから、冬瓜の皮は、色目を気にせず厚めにむいて下さい。表面が青いと固いですよ。
こつ 合鴨の抱き身は、80℃で中をピンク色に仕上げる
合鴨というのは、鴨とアヒルをかけ合わせたものです。最近は、スーパーマーケットでも売っていますから、簡単に手に入ります。合鴨の抱き身は一般に、合鴨ロースと呼ばれていますね。この肉を料理する場合、煮るときも焼くときも、火を通しすぎないことが大切です。鴨肉は完全に火を通してしまうと、固くしまってしまうのです。中心は、少し生かなというくらいで止めるのがおいしく食べるコツです。煮物にするときは、温度計を使って煮汁を80℃に保ち、約20分煮て下さい。中がピンク色で柔らかく仕上がります。こつ 鶏肉の柔らか煮はぜひ骨つきもも肉で
鶏肉の柔らか煮は、もも肉を箸でも簡単に切れるくらいに柔らかく煮上げる料理ですが、この場合、ぜひ、骨つきのもも肉を使って下さい。この方が身くずれの心配がありません。また、骨からおいしいだししが出て、いっそううま味がつきます。時間はかかりますが、味はだんぜんよいです。魚でも肉でも、骨つきの方がどんな料理をしてもおいしいですね。こつ きんぴらは油で炒めて完全に火を通す
きんぴらごぼうは、おそうざいの代表です。ご飯によく合い、とてもおいしいですね。きんぴらを作るときは、ささがききにしたごぼうを、まず、油で炒めて下さい。そして、ここで完全に火を通して下さい。そうしないと、調味料を加えたとき、水分が出て味が薄くなってしまいます。油で炒めで完全に火を通すと歯切れもよくなります。こつ 昆布巻きは、まず酢水でゆでる
昆布巻はお節料理によく使われます。やわらくおいしい昆布巻きを作ろうと思ったら、煮汁で煮る前に、あらかじめ酢水で煮て下さい。酢には、酸味をつけるだけでなく、ものを柔らかくするという効果もあります。長時間煮れば、小魚の骨なら歯にあたらないくらい柔らかくなります。昆布巻きも、まずは酢水でゆで、充分柔らかくなったところで煮汁で煮て下さい。
こつ ゆりねや長いもは焼き目をつけると香ばしく、くずれにくくなる
ゆりねや長いもは、下ゆでしたとき、とてもくずれやすいものです。火を通しすぎると、見る見るうちにくずれていきます。これを防ぐ方法は、皮をむいてから焼き目をつけること。焼き目がつくと表面がかたくなるので、くずれにくいというわけです。こうすると、香ばしくさも加わり、見た目のアクセントにもなります。こつ 骨切りをしたはもは、葛粉の薄化粧で煮る
はもという魚は、何といっても、骨切りという作業をしなければ料理はできません。名人は、一寸(約3㎝)の幅に、24~25回包丁を入れるといいます。家庭でむりならば、魚屋さんにたのみましょう。さて、はもを煮るときですが、はけを使い、葛粉の粉末をうっすらとつけておいて下さい。こうしておけば、はものうま味を逃すことがなく、また、食べたときの口当たりも大変よくなります。手間ですが、骨切りした身の間にもていねいにつけて下さい。もちろん皮目にも。ごてごてつけずに、うっすらと。
こつ 生節は皮を焼いてくせを除いてから煮る
生節(なまぶし)は、かつおを蒸し、半乾きの状態にしたものです。豆腐と一緒に煮るとおいしいです。その下処理ですが、血合い骨・腹骨を除き、固いうろこが残っていれば取り除いて下さい。そのあと、皮目を強火で焼きます。これはくせを取るためです。かつおですから、あじ・さばのように特有のくせがあります。焼くことで香ばしさがつくのです。かつおのたたきを作るとき、表面を焼くのも理由は同じです。生節は皮目を焼いたら、切り身にし、たっぷりの煮汁で煮て下さい。あまり長い時間煮ると身が固くしまるので注意して下さい。こつ あら炊きにはごぼうをつけ合わせる
あら炊きというのはとてもおいしい料理です。中でも鯛のあら炊きは最高ですね。この料理にはごぼうをよく取りあわせます。ごぼうの香りがあらにうつり、また、あらのうま味がごぼうに入ってどちらもおいしくなります。うど、ふきなども使いますが、ごぼうが一番合うでしょう。ごぼうは太い方から四つ割りにして、長いままで鍋の底に鍋肌に沿わせて敷いて下さい。それからあらを並べます。長いままの方が取り出しやすいのです。ところで、ごぼうは、土のついたものの方が、香りがあっておいしいです。使うときは、洗うだけで絶対に皮を取らないで下さい。ごぼうの香りは、皮にあるからです。こつ おでんの材料は少しずつでも種類は多くほしい
おでんというのは、家庭でよく作る煮物です。寒いときは、特に喜ばれる料理でしょう。おでんの味というのは、何種類もの味がミックスされたおいしさですね。だから、中に入れる具は、多ければ多いほどよいのです。数より種類の多さが大切です。肉・魚介類・野菜・練り製品など、なるべく多くの種類を入れて下さい。それは、混声合唱団さながら(!?)。それぞれが持ち味を出し合って全体のおいしさがひきたちます。こつ おでんのだしは最初は薄いのがベスト
おでんは、長時間煮込みます。だから、煮汁の味つけは、最初は薄めにします。初めからちょうどよい味加減にしてしまうと、煮込んでいくうちにからくなってしまいます。長く煮込む場合、仕上がりの味を考えて、最初は薄くしておきます。これは味つけの基本です。薄すぎるかなと思うくらいがちょうどよいです。多くの種類を食べられるように、味は薄めのほうがよいのです。もしにコクをつけたいならば、酒を多めに使ったり、かつおだしに鶏のだしを混ぜて使うとよいでしょう。
こつ えびは殻つきのまま煮て、盛るときにむく
えびは殻つきで煮て下さい。煮る前に背わたを取らなくてはいけませんが、殻つきの方が形よく、また、味も逃げないのでおいしく仕上がります。焼くときでも、甲殻類は、殻つきで料理した方がおいしくなります。冷凍えびを煮るときは、しょうがの薄切りを数枚入れて煮て下さい。しょうがの香りが冷凍えびの臭みを取り、おいしくなりますよ。サッと煮て火が通れば、火からはずしてそのまま冷まして下さい。冷めるときに味が入っていきます。そして、盛りつけるときに殻をむいて下さい。こつ 魚は煮汁が沸騰してから入れる
白身魚の煮つけは、あらかじめ煮汁を沸騰させ、この中入れ下さい。煮汁が沸騰していない中に入れると、魚の生臭みが煮汁の中にうつってしまうからです。あとでいくら沸騰させても臭みは消えません。また、煮立った煮汁に魚を入れると、表面が急に固くしまって煮くずれを防いでくれます。魚を煮汁に入れたら、落とし蓋をして、火が通るまで煮て下さい。仕上げにしょうがの絞り汁を入れると、いっそうおいしくなります。こつ 魚の煮つけは煮上がったときが一番おいしい
野菜は煮て火からはずし、味を含ませるためにしばらくおきますが、魚を煮つけた場合は、その煮上がりどきが一番おいしいのです。煮上がってから時間がたつと身の中に煮汁が染み込んでしまい、色が黒くなり、味も香りもなくなってしまいます。身も固くしまるので、おいしくないですよ。煮上がったそのとき、すぐに器に盛りつけて下さい。こつ いいだこの胴と足は時間差をつけて煮る
春先のいいだこは子を持ち、料理屋でもよく煮物に使います。いいだこといわれるゆえんは、胴の中に卵がびっしりと詰まるからです。こういうものを煮るので、時間はどうしてもかかります。まず、胴と足を切り分けて下さい。そして、胴の中にある墨袋などの余分な内臓を取り除いて下さい。つまようじで胴の元を止めると卵が出なくなります。胴から先に煮汁に入れ、八割ほど火が通ったら、足を入れます。このように時間差をつけて煮ると、胴と足が同時に煮上がるようになります。こつ 湯葉は濃度をつけた煮汁でさっと煮る
湯葉(ゆば)は豆腐を作るときにできるものです。豆腐を作るのにまず、豆乳という液体を作ります。これを鍋で煮詰めると表面にまくができます。このまくを「湯葉」というのです。昔から京都ではよく使われていた食材です。湯葉は水分の含み具合でいろいろな段階に分け売られていますから、用途によって使い分けて下さい。さて、煮物にする場合ですが、煮汁を合わせ、これに片栗粉か葛粉で濃度をつけ、そして湯葉を入れて下さい。湯葉そのものには強い味はないので、煮汁の味をからめることでおいしく食べられます。湯葉は長い時間煮ると風味がなくなるので、濃度をつけた煮汁でさっと煮るという方法を取るのです。こつ 肉じゃがは煮くずれないとおいしくない
肉じゃがを知らない人はいないはず。それほどポピュラーな料理です。肉じゃがの場合、じゃがいもの形を気にせず、煮くずれるくらいまで煮た方が、味がしっかりと入っておいしくなります。料理というのは、形を気にするばかりがいいのではありません。やっぱり味のことが第一です。肉じゃがのじゃがいもは、ひねのものをつかうのがよいでしょう。新しい出始めのじゃがいもは、水分が多いため、煮くずれるまで煮ていると形がなくなってしまうからです。こつ ひろうすは充分に揚げて手早く煮る
ひろうすは市販されていますが、自家製だと、具に変化をつけられたり、思う通りの大きさに作ることもできるので楽しいでしょう。まず、豆腐を水切りしてつぶした中に、数種の野菜、きくらげ、おの実、場合によってはえびを入れて混ぜます。この生地を丸く取り、油で揚げます。揚げ方が不充分だと煮ている間にくずれてきますから、完全に火が通るまで揚げて下さい。揚がればざるに取り、熱湯をかけて油抜きをし、そして、合わせた煮汁の中入れてさっと煮て下さい。油で揚げてありますから、ひろうすの中は軽石のように「す」だらけ。すぐに味が入ります。こつ ひじきは油炒めか空煎りをしてから煮る
ひじきは栄養があって安いので、よくお惣菜に使われますね。乾燥状態で市販されていますから、まず水につけて充分戻します。それから水気を切り、よく油で炒めるか、空煎りをして下さい。油で炒める方が一般的でしょうか。油で炒めるとひじきの水分が抜け、コクがついていっそうおいしくなります。ひじきだけを煮るのでなく、鶏肉や豚肉などの肉気のものとか、野菜を入れて煮ると立派なおかずになります。こつ 煮豆の砂糖は少しずつ加える
煮豆を作るとき、豆が指で軽く押してつぶれるくらいになったら砂糖を入れます。でも、このとき一気に入れないで下さい。一度に入れてしまいますと豆が急に固くなったり、豆にしわが寄ったりします。2~3回に分けて約10分間隔で入れると味がよく染み込みます。煮物の基本として、おいおいに調味料を加える場合は、一つの調味料でも一度に入れず、2~3回に分けて入れるのがおいしく作るコツです。ひかえめ、ひかえめで加えて下さい。
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味覚の不思議~調味料の組み合わせ~
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