英紙の安倍首相発言報道 通訳の補足説明で誤解!?
産経新聞 1月25日
【ロンドン=内藤泰朗】安倍晋三首相がスイス・ダボスでの会見で、日中関係について第一次大戦前の英国とドイツの関係と「類似性」があると発言した-と英紙などが報じた問題で、首相が述べていない内容を通訳が補足説明していたことが分かった。
会見に記者が同席していた共同通信が24日、報じた。首相は日本語で発言し、通訳は「われわれは似た状況にあると考えている」との文言を英語で補足したという。中国などが反日キャンペーンを展開する中、海外への情報発信の難しさを浮き彫りにした形だ。
首相の発言については、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のコラムニスト、ラックマン氏が22日、ブログ記事で「安倍氏は現在の中国と日本の間の緊張状態を第一次大戦前の英独の対立関係になぞらえ『(当時と)同じような状況』と述べた」とし、日中紛争が避けられないかのような印象を与えた。
報道を受け、菅義偉(すが・よしひで)官房長官は「(首相は)第一次大戦のようなことにしてはならないという意味で言っている。事実を書いてほしい」と反論していた。FT紙は24日付の論説記事でも、「1914年の欧州との比較は恐ろしく、扇動的だ」と批判した。
日本に詳しいFT紙のアジア担当、ピリング記者は「第二次大戦などでも日本に問題があるとの見解が欧米では根強い。日本の知識がない記者ほど、その流れで書く傾向が強い。センセーショナルに書く風潮もある」と指摘した。
一方、日本外交筋は「欧米での報道は一部を除き、事実を伝えるものが多かった。ただ、英国にはかつて反日ジャーナリズムがあった。記者たちが中国によるプロパガンダの影響で反日に走らないよう注意している」と述べた。
情報を発信すれば、それを逆手に取られる恐れがつきまとう。しかし、英国の有識者の間からは、「第二次大戦以降の日本の歩みは胸を張れるものだ。歴史論争の罠(わな)に落ちないよう気をつけながら、恐れず真摯(しんし)な態度で未来志向の発信をしていくべきだ。歪曲(わいきょく)されたものは必ず後で暴かれる」(エクセター大のブラック教授)といった意見も聞かれる。首相発言、欧米で波紋
日中関係、大戦前の英独例に説明朝日新聞デジタル 1月24日
安倍晋三首相が、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での各国メディア幹部らとの会合で日中関係を問われ、第1次世界大戦前の英独関係を引き合いに出して説明した。大戦を教訓に、衝突を避ける手段を構築すべきだという意味合いだったとみられるが、欧米メディアが「日中間の緊張が極度に高まっている」と受け止めて報道し、波紋が広がっている。
菅義偉官房長官は24日午前の記者会見で「真意をしっかり伝えたい」と述べ、大使館を通じて発言の意図を海外メディアに説明する方針を明らかにした。
会合は22日に主要メディアの幹部ら約30人が出席して開かれた。安倍首相は質問に日本語で答え、通訳が英語で伝えた。
安倍首相は「日本と中国が尖閣諸島を巡り武力衝突する可能性はあるか」との質問に、「軍事衝突は両国にとって大変なダメージになると日中の指導者は理解している」と説明。そのうえで「偶発的に武力衝突が起こらないようにすることが重要だ。今年は第1次世界大戦から100年目。英国もドイツも経済的な依存度は高く最大の貿易相手国だったが、戦争は起こった。偶発的な事故が起こらないよう、コミュニケーション・チャンネル(通信経路)をつくることを申し入れた」と述べた。
この発言を通訳が伝える際、英独関係の説明に「我々は似た状況にあると思う(I think we are in the similar situation)」と付け加えた。首相が英独関係を持ちだした意味を補ったとみられる。この通訳は、日本の外務省が手配した外部の通訳だったという。日本と中国は開戦前夜なのか」
安倍首相発言に欧米メディア衝撃J-CASTニュース 1月24日
真意が伝わらなかった?
安倍晋三首相が欧米メディアの記者に向けて発言した内容が、波紋を呼んでいる。関係悪化が続く日本と中国について、第1次世界大戦前の英国とドイツになぞらえた部分が大きく取り上げられたのだ。
政府は「第1次大戦のようにしてはならないとの趣旨だ」と説明し、誤解を解こうと躍起だ。だが欧米メディアは、日中関係が大戦前の英独のような緊張状態と受け止め、「日中は戦争に進むのか」と題した記事を配信したところもある。■FT「軍事衝突が起こるなど問題外、とは言わなかった」
スイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席した安倍首相は2014年1月22日、海外メディアを招いて懇親会を開いた。その席で中国との関係について説明した発言が、報道陣を驚かせた。
英フィナンシャルタイムズ(FT)紙の記者は、1月22日付の記事冒頭、「安倍首相に日中間での戦争はあり得るかを尋ねた。興味深いことに、その種の軍事衝突が起こるなど問題外だ、とは言わなかった」と書いている。
続けて、今日の日中の緊張状態と第1次大戦前における英国とドイツの競争関係を比較して、「似た状況」と述べたという。当時の英独には現在の日中同様、強固な経済関係があったが、これが1914年の軍事衝突につながる緊張状態を防ぐことはできなかった。この事実に基づいて安倍首相は、英独と日中を比較して説明したとなっている。
英BBCニュースの記者は、安倍首相の話が「面白いが少々恐ろしかった」と報じた。「日中の悪化した関係は、今から100年前、第1次大戦前の英国とドイツの関係を思い起こさせる」としている。これが「コメンテーターならともかく、日本のリーダーが話しただけに衝撃が強い」と評した。
記事は続く。当時の英独関係と同じく、日中も膨大な相互利益をもたらす貿易パートナーであり、平和こそが両国および周辺地域の繁栄のための防波堤となる。だが中国が防衛予算を年間10%増加させている点を、安倍首相が挑発的だととらえたのは明白だとしている。
米ニューヨークタイムズ紙は、FTと同じく今日の日中関係と過去の英独関係が「似た状態(similar situation)」との表現を用いた。さらに「安倍首相は、1914年の英独における強い経済関係は、今日の日中間の経済的な相互依存とよく似ていると述べた」と書かれていた。
ゴシップ紙が扇情的に報じたのではなく、主要メディアが流した記事だけに「安倍首相が日中関係を、第1次大戦前の英独関係に例えて話した」との内容は、首相のねらいとは別に、高い信用度を持って日中の緊張が強まっていると世界に広めてしまったことになる。
「衝突や摩擦が思いがけず、偶発的に起きるかもしれない」
19世紀末ごろの英独関係は悪いものではなかったが、20世紀初頭にかけて両国海軍の軍拡競争が激しさを増していく。その後ドイツが外国への影響力を強めるため鉄道の敷設に乗り出すと、英仏露がこれに強く反発。最終的にはドイツとオーストリア、イタリアによる「3国同盟」と、英仏露の「3国協商」を軸とした対立に発展し、最悪の事態へと進んでいった。
安倍発言は、100年前の「悪夢」が日中間で再現される恐れがあることを匂わせたものかと、欧米メディアがいきり立ったわけだ。米タイム誌電子版の1月22日付記事の見出しは、「日本と中国は戦争へと向かうのか」と刺激的だ。「衝突や摩擦が思いがけず、偶発的に起きるかもしれない」という首相の言葉を引用。アジアのふたつの大国に横たわる緊張を緩和する策は持ち合わせておらず、「残念ながら、(問題解決への)明確なロードマップはない」と話したと続けた。一方で、両国の防衛当局間で連絡体制を確立することが、事態の打開につながるかもしれないとの趣旨を口にしたという。
菅義偉官房長官は1月23日の記者会見で、安倍首相の発言の真意は「日中関係を第1次大戦のようにしてはならないという意味」と説明した。100年前の英独は経済関係があったにもかかわらず戦争へと進んでしまった。決して同じ轍は踏んではならず、日中間で問題があるときには相互のコミュニケーションを緊密にすることが重要とも強調した。さらに各国大使館を通じて、発言の意図を海外メディアに説明する方針だという。1月24日付の朝日新聞夕刊によると、懇親会の席で安倍首相の発言を通訳が伝える際に、英独関係の説明で「I think we are in the similar situation.(我々は似た状況にあると思う)」と付け加えたそうだ。
日本側が中国との衝突を望んでいるわけでは、もちろんないだろう。だが欧米メディアが、首相発言をこうした形で配信したのは事実で、各国で「日中関係がこれほど緊迫しているとは」と驚かれたに違いない。
景気が悪くなると、白人はアジアでの戦争を望みだす。