『モーニングバード』朝日放送
―― はい、じゃあ、反論してください、孫崎さん。孫崎:日本が発展途上国とやるときに、ISD条項は入ってます。これは一般的な理念は、発展途上国だから、法整備がまだキチンと出来てない。裁判制度も十分でない、ということであるから、それを補完するために、司法裁判所みたいなものをつくりましょう、と。でも、日本の例えば法律制度、日本の裁判過程が、十分でないという状況じゃないですよね。EUとアメリカが同じような自由貿易協定を結ぶときにも入ってくるんですが、今、みんな、深刻に影響を懸念してるのは、自分たちの法律、環境だとか、生命とか、こういうのが、企業利益でもってやられるんじゃないかと。―― 要するに先進国と途上国じゃなくて、先進国同士であるなら、ISD条項なんかいらないんじゃないかと…孫崎:そうそう。―― アメリカの中にだって、EUから訴えられるの嫌だ、って考えてる人がいるってことですね。孫崎:そうです。そうです。法律が整ってないところも含め…全部で大体3000くらい、条約があると、これは日本もたくさん持ってますから、そうだと思うんです。モンゴルとか、そういうところとのあいだでISD条項が入るのはしょうがないですよ。ところが日本という国には、法律があって、慎重に民主主義で審議されて、これをちゃんとできる裁判制度がある。にもかかわらず、その主権をオーバールールするかたちまでして、国際ルールを新たにつくる必要はないと、思うわけです。―― 主権というのは、「その国家自身の意思によるほか、他国に服さない統治権力。国家構成の要素で最高・独立。絶対の権力』と、広辞苑にも書いてるわけですよ。要は、その国のことはその国で決めるってことなんですよね。たとえば、アメリカが「企業利潤優先でやっていくんだ」と言ったときに、そうじゃなくて日本が「環境とか安全のために制度はあるんですよ」と…この二つが戦ったときに、ISD条項の中には、そういう安全とか環境は入らないわけですよね。それが孫崎さんは心配なんだと。さらに、国家を超えた大きな傘があって、その中で、利潤と健康と、そういう両方の観点を合わせ他裁判所が決めるんだったらいいけども、そういうものが今ないと。ない段階なのに、こういうISD条項なんかやるな、とそういうわけですね。古賀:あのー、ちょっと誤解があるんですが、ISD条項っていうのは全てに適応されるわけではないんですよ。基本的に、21分野あるうちの投資協定、投資の部分の約束と、サービス部分の約束に限られるんです。「環境とか安全にも適用しろ」という声がアメリカでもあったんだけど、基本的にはそれ以外は対象にならないんですよ。だから、個別品目…だからこの食品の品目を認める、認めない、っていうのをTPPで議論することもないし、今、よく言われてる遺伝子組み換え、このラベルをどうこうとか…これ、アメリカも議論しないってハッキリ言ってるんです。なのになんでそういうことばかりが、出てくるのか、結局それは、農協だとか、医師会だとか、既得権グループがどんどん宣伝するんですよ。結局ね、反対っていうのは、TPPだけじゃなく、日米構造協議のときもそうだったんですが、既得権を守ろうという人たちが反対のためのデマを流すので、それで議論がものすごくおかしくなって、すごく不安になってくると…アメリカ側が言ってきてることに、日本は決して言いなりなんかじゃなくて、むしろ、僕が日米構造協議なんかに出て感じてた事なんですけども、官僚の後ろに既得権を守ろうとする人らが控えてて、アメリカの言うことを却下してきてるって場面が随分あって…まあ、いろんなカルテル、競争を制限して、結託した一部の層の利益だけを考える制度っていうのが、例えば海運では船の数を増やさないようにしようとか…普通なら独禁法にかかるところなんですが、それが官僚が理屈にならない理屈を言って認めらさせてきた。それをアメリカが交渉の場で「おかしいじゃないか」言ってくれたことで、緩和されたケースもあったりするんですね。あるいは審議会があって、これが昔から閉鎖的で何やってるかわからない。結論だけ出して、それを隠れ蓑にして変なことをやる。これもね、公開にしてくれってずいぶん言ったんですけど、これも嫌だ嫌だってずいぶん逃げ回って、結局、会議自体の効果はできなかったんですが、今でも、今やってる規制改革会議っていうのは公開されてない。あの時でも、アメリカにもっと強く言ってもらって、審議会公開法なんていうルールつくっとけばよかったな、と思いますよ。孫崎:私も、少し通産省に出向してたことがあるんですが、通産省の官僚は大変優秀なんですよ。ただ、問題点は、通産官僚の見る視点は、経済効率を追求するということ、が大切なんですよ。だけど、社会の秩序を保つにはそれだけじゃなくて、生命や健康、それに場合によったら所得格差の是正、という問題もあるかもしれない。TPPでいま、農業とかがダメになりますよね。それに当てはまる人っていうのは、65歳以上で片手間でしかできないような農業をやりながら、しかし、ある程度の所得を持って安定するという、つまり社会の秩序をどうするのかという問題。「経済で効率を追求するのことが一番正しいんだ」ということになるなら、おそらく、古賀さんの仰ってることが当たる場合が非常に多いと思うんです。だけど、日本の法律というのは、経済効率だけじゃなくて、社会の安定というものもあるので、そこに着目すると違った答えも出るかもしれない。―― 結局、アメリカとどう付き合うかっていうのが、このTPPでも本質じゃないかと思うんですが。孫崎:古賀さんが仰ってるのは古き良き通産省だと思うんですよ。今はもう…たしかに昔はガンバった。今はもう米国の言われる通り。最近の交渉見てみても日本の交渉なにも実現してませんから。だから、古き良き時代の古賀さんと新しい時代の官僚は違うということです。安全保障の問題でもね、オスプレイにしても、米国が好きな場所に好きなだけの期間、基地を置く。米国に言われたことを跳ね返す力が今の日本にはほとんどない。―― 要するに日本とアメリカで条約を結んでても、日本は主権の一部をアメリカにとられたままなんじゃないかと、そういうことですね。孫崎:そういうことです。たとえば、オスプレイのことにしても、「我々はこの配備のことに関しては何も言わないことになってます」と。いうことですから、条約を結んでも日本が主張を何か言えるかというと、そうじゃない体質なようですね。古賀:まあ、軍事とか、安全保障のところでは私もかなり同意するところはあるんですが、まあ、これからアメリカとの付き合い方は変えていかないといけないし、経済はだいぶ変わってると思うんですね。是々非々でいくと。TPPの交渉に出ればよくわかると思うんですが、過去そうであったように、アメリカも好きなことを言うんですよ。でも、世界の常識というのがありますから、出した提案をひっこめたりだとか、そういうのはどんどん出てきてます。アメリカと二国間になるとなんか、アメリカの言いなりになりそうだ、っていうんでもね、世界の情勢を見ながら、アメリカにも良いものはイイけどダメなものはダメだというのをやっていくというね、そういう姿勢に変えていく必要がありますよね。そこが、そうなりきれてないだろうというのが孫崎さんの懸念されてるところなんでしょうけども。まあ、安部政権で入場料払うような感じで、自動車で譲歩したりとか、ありますけども、まあ、保険はあれでいいと思ってるんですけども(笑)、要するに、簡易保険というのが政府の保護のもとで民業を圧迫してるので、アメリカの言うのが正しいと思うんですけども、まあ、それ以外のところでも譲ってるんじゃないかとか、なんか、それを国内向けに取り繕って発表してるところもあるんですよ。そうすると、ますますみんな不安になるので、正々堂々と議論して、こんな変なこと向こうは言ってきてるというね、それはビシッとはねつけます、と言えばいいんです。国際的な議論ですから、おかしなことがドンドン押しつけられるなんてことは全然ないです。―― 孫崎さんは経済効果についてはどう思われてるんですか。孫崎:そんなのは全然ないですよ。よく言われるのは関税が低くなるからメリットがあると言われてますが、アメリカは相対的に2%から3%のの関税しか今はないですから、経済効果は非常にない。それからもっと重要なのは、日本の輸出のマーケットというのは、今度TPPに入る国ではなくて…アメリカは今輸出が15.5パーセントだとすると、中国、韓国、香港、こういうところの東アジアは38.5%くらいですから、でもそこがTPPに入ることはない。ということは、経済効果も言われるほど大きくはない。古賀:日本の最大の問題は、これから農業をどうするかっていうこと、全然、計画してないんですよ。ウルグアイラウンドでやったときのまんまなんです。あの時も寝っ転がっちゃって、世界に恥をさらした感じだったんですけど、700%以上の関税を取って、それで安泰ですから、何もしなくていいですよ、ってなって、それで農業はどんどん衰退してきた。農業を輸出産業にするっていうなら、それは関税で守られるなんて世界とまったく違いますから、そういう計画をまず立ててから、それから、それに沿って譲れるところと譲れないところを決めていかなきゃいけない。このままだと、何だかわからないけどなんでも反対、と見られてしまいますよ。
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黒いTPPと、白いTPP〈Ⅱ〉
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