“ケンカ上手”橋下市長の「慰安婦制度は必要」発言はわざとなのか?
Business Media 誠 5月21日(火)窪田順生の時事日想:
橋下徹市長が全方向からボコボコに叩かれている。5月13日、退庁時のぶら下がり会見で、「慰安婦制度は必要だった」と発言したことが大炎上してしまったわけだが、一連の報道を見て、マスコミの“世論誘導力”の高さにただ関心している。橋下氏と記者のやりとりを改めて読み返してみても、大騒ぎするほどのことは言っていない。例えば、橋下氏は慰安婦制度についてこう述べている。「軍を維持するとか軍の規律を守るためには、そういうことが、その当時は必要だったんでしょうね」日本の軍隊に慰安所があったのは、さまざまな歴史資料や当時の証言から見ても動かし難い事実だ。存在したということは、当時の軍隊が必要だと思ったからつくった。なにも間違ったことは言っていない。橋下氏に「世界各国の軍は活用していたというが、それは具体的にどこの国が?」なんて調子で、必死に失言を引き出そうとしていた記者たちは知らないだろうが、彼らの先輩もそんな「現実」を目の当たりにしている。朝日新聞の木更津支局長だった明石清三さんの『木更津基地――人肉の市』(洋々社)には、「慰安制度が必要だ」と訴える米軍将校3人が1945年9月12日、木更津市長室に武装して押し掛けた、と記されている。そしてその将校は「女を提供してもらいたい。すぐ血液検査をする。30人以上」などと迫ったという。このままだったら何をされるか分からんということで、戦時中に海軍の飛行機搭乗員を得意客としていた「海軍慰安所」の女性たちが引き受けることになった。話が決まると、警察署長は「この町の治安維持のため唐人お吉※と同じ働きをされるのです。お願いします」とあいさつをした。
※唐人お吉(とうじんおきち):幕末、日米条約締結のため伊豆下田に来航したハリスの愛妾として仕えた。
2013年の人権感覚からすればまったく許されざる行為だが、これを拒否するという選択は敗戦国・日本にはなかった。慰安婦制度はなにも日本軍だけではなく、占領軍も必要とした。このような「過去の現実」について橋下氏は言及しただけだ。
●「言葉狩り」は昔からあった
しかし、そんなさして特筆すべきでもない歴史認識も“ニュースの職人”たちの手にかかると、国際問題に発展する暴言に早変わりする。ダラダラとしゃべる発言の一部分を切り出して、ちょんちょんとカギカッコでくくれば、あっという間に「女性蔑視の国粋主義者」のできあがり。河村たかし名古屋市長が南京市の人間に、「南京大虐殺事件はなかった」とケンカを売るような発言をした、という一連の報道とまったく同じスキームである。ただ、だからといって橋下氏が気の毒だとかは思わず、むしろここまでやられっ放しなことに違和感を覚える。こういう「言葉狩り」は今に始まったことではなく、もうすいぶん昔から続いており、政治家などからすればかなり知られた手法だ。そんなベタベタな罠に、朝日新聞の社長にわび入れさせたほど口ケンカ上手の元弁護士がひっかかるというのもかなり釈然としない。たとえるなら、総合格闘技の選手がプロレス技の「足四の字固め」をキメられているような違和感だ。元「従軍慰安婦」だと主張する韓国人女性と面会する予定も控えていたので、最近めっきり影の薄い「維新」と自らの存在をアピールするため、わざと炎上騒ぎを起こしたのではないか、なんて勘ぐってしまう。そう思うと、確かに「伏線」から怪しかった。「国際感覚がない」とご本人は釈明していたが、米国人に風俗を活用したらどうだ、というのは無知をとおりこしてもはやケンカを売っている。米軍は公娼制度というものをかなり早くにやめている。女性の人権というものが早くから確立していたのだが、もちろんこういう美談には「裏」がある。女性の人権保護を高らかにうたいながら、軍人はこっそりと「私娼制度」を活用する、というのが暗黙のルールだった。つまり、フリーの売春婦である。もちろん、お金は介在するが、「建前」としては自由恋愛となる。だから、兵士たちは娼婦と一夜を過ごしても「ガールフレンドだ」と言い張った。こういうウソのツケは必ず出てくる。あまり知られていないが、第二次大戦中、米軍兵士の性病感染率はずばぬけて高い。イギリス軍やオーストラリア軍も売春宿を利用していたが、それをちゃんと公に認めていたので衛生管理を徹底した。それをもっとシステム化したのが、法律的に認められた娼婦、「公娼制度」である。これを活用していたのがドイツ軍と日本軍だ。つまり、敗戦国は“合法な娼婦”を活用し、戦勝国は“違法の娼婦”を活用したという構図である。なんて醜悪な連中だ、おまえらには人としてのプライドはないのか、なんて説教を垂れていた連中が、実はこっそりと娼婦を利用して、おまけに性病まで―― 。これほど格好の悪いことはない。橋下氏の「風俗活用」話を、普天間の司令官が「もうこの話題はやめよう」と打ち切ったのは、あまり突っ込まれると、「米軍は兵士の下半身がコントロールできない」という過去が掘り返されてしまうからだ。
実際は“プロ”のお世話になっているくせに、かたくなまにでシラをきりとおす――。なぜそこまで「建前」に執着するのかというと、実はこれは彼らのアイデンティティにも関わる大問題だからだ。米国の歴史の1ページ目は、平和にのんびり暮らしていた500万人のネイティブアメリカンを大虐殺したところから始まらなくてはいけないが、「フロンティアスピリッツ」なんて言い換えている。こういう人から「建前」をとったら、もう何も残らない。だからムキになって反撃にでる。AP通信やらワシトンポストが「大阪市長は『戦時性奴隷は必要だ』と言った」とホニャララ新聞の記事をかなり盛った形でぶちまけた。こうなると、「おいおいなにが戦時性奴隷だ」と愛国心のある人たちが立ち上がる。橋下氏が論点にしたかったという「レイプ国家と批判されていることに断じて違うと言わなくてはいけない」というリングに好む好まざるとにかかわらず多くの人があがらされている。そこまで計算したうえでの、あの発言なら本当にケンカの天才かもしれない。
[窪田順生,Business Media 誠]
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橋下慰安婦舌禍騒動/米国にとっての不都合な真実Ⅵ
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