「2つの壁」
人羅 格 毎日新聞論説委員
[2013.07.12]5年にわたる迷走
国家公務員の人事体系をめぐる制度改革論議が再浮上している。
安倍内閣は秋の臨時国会で関連法案を提出する構えだが、民主党政権時を含めた5年にわたる迷走の結果、この問題をめぐる与野党の「熱気」は実際はかなり冷めている。
政治主導の導入というかけ声をよそに過去3度関連法案が廃案となり、今や「決まらない政治」の象徴的テーマにすらなりつつある。
中央官庁のタテ割り打破や能力主義導入など本来の目的もかすみかねない。
「何のための公務員制度改革か」が問われている。
政府の国家公務員制度改革推進本部(本部長・安倍晋三首相)が6月28日に決定した基本方針は各省の幹部人事を一元管理するための「内閣人事局」を14年春に設置し、首相が任命する「国家戦略スタッフ」制度を新設することや、女性の積極登用方針などが盛りこまれた。
関連法案を秋の臨時国会に提出し制度化を図るが、内閣人事局に与えられる具体的な権限や制度設計は示されず、参院選後に結論を先送りした。
もともと公務員制度改革は官僚の天下りへの批判が強まる中、「省あって国なし」とまで言われる中央官庁のタテ割り意識や硬直的な人事体系の是正に向け第1次安倍内閣が手がけた。
そして福田内閣の08年、自民、民主、公明3党が賛成し国家公務員制度改革基本法が成立した。
同法は各省の幹部人事について官房長官が複数の候補名簿を作成し、内閣官房に「内閣人事局」を設置し一元管理する方針を定めている。
あくまで改革の工程を定めたプログラム法なので、制度化には別途立法措置が必要となる。
ところが自公政権下で1度、民主党政権で2度、制度化に向けた関連法案は国会に提出されながら廃案に追い込まれた。
5年の歳月が空費され、政府の推進本部も7月に設置期限が切れる。
改革全体をお蔵入りさせるかどうかの判断を迫られる中、基本方針が策定されたという訳だ。「人事院」「基本権」で難航
公務員制度改革がこれほど迷走した背景には2つの大きな要因がある。
ひとつは内閣人事局の権限、機能の決定にあたり人事院からの権限移譲の調整が鬼門となっている点だ。
人事院は各省職員の給与ランク別に定数を決める「級別定数」と呼ばれる重要な権限を握る。
自公政権は麻生内閣当時この権限や総務、財務両省の一部機能も人事局に移行させることで、幹部人事に限らず各省人事全般を統率できる「強い人事局」を設置しようとした。
だが、当時の谷公士人事院総裁はこの方針に公然と反旗を翻した。
政府は今回も基本方針に麻生内閣案に準じた権限移譲を盛り込む方向だった。
だが、やはり人事院の同調は得られず与党側からも慎重論が出されたため人事局の権限明記は最終段階で見送られた。
制度改革が進まないもうひとつの要因は公務員の労働基本権回復問題が絡む点だ。
国家公務員労組は争議権に加え、使用者側との労働協約締結権も制限されている。
基本法は成立当時に民主党の協力が必要だった事情もあり、「国民理解のもとに自律的な労使関係制度を措置」するよう定め、基本権回復の方向を示した。
このため民主党政権は公務員労組に協約締結を認める法整備の同時決着を目指した。
だが、自民党はこれに反対しており、改革全体が暗礁に乗り上げたのである。
今回もまた、この2課題が調整に影響する。
基本方針で級別定数の移管の明記が見送られたため政府・与党内には「人事局の機能は幹部人事の一元管理に限定されるのではないか」との見方が早くも出ている。
法案策定に向け、政府・与党内調整の難航は避けられまい。問われる能力重視の幹部起用
労働基本権問題は棚上げされる方向だが、火種は残る。
政府は2014年3月まで復興財源対策として国家公務員給与を7.8%カットする時限措置を人事院の勧告とは無関係に実施している。
仮に2014年春以降もこうした措置が継続されれば、労働基本権制限の代償措置と位置づけられる人事院勧告の存在はいよいよ形骸化してしまう。
「労働基本権を制限したまま人事院の権限を奪うことは、基本権侵害につながりかねない」という人事院の主張に論拠を与える可能性もある。
あくまで「人勧尊重」の原則に立ち返るか、それとも労働協約を活用した機動的な給与決定方式を模索するかどうかの判断をいずれは迫られる。
幹部人事の一元化機能をどう具体化するかも課題だ。
タテ割りを廃し、優秀な人材を登用する「政治主導」の官僚人事にどう客観的な「納得感」を与えられるかが問われる。
公平、客観性という原則を維持しつつ、能力重視の幹部起用を行うためのシステムの制度設計は実際はまだこれからである。
安倍内閣の下で今夏行われた各省の事務次官人事は多くのケースで官邸の意向が影響したとみられている。
各省の人事権者は閣僚だが、局長級以上は官邸の正副官房長官で構成される人事検討会議の了承が必要なためだ。
「官邸の意向をある程度人事に反映したいのであれば、今の制度でも十分ではないか」との声も中央官庁にくすぶっている。
人事院との権限争いや労働基本権問題で揉まれ、迷走するうちに改革の存在感は埋没、国民の関心もかつてほど高いとはいいがたい。
必ずしも強い推進力が働かない環境の下で官僚の人事体系をどう再構築するか、原点に立ち返った議論が求められている。古賀茂明「日本再生に挑む」
官々愕々
公務員改革の茶番
『週刊現代』2013年7月20日号より
公務員改革をめぐって、政府による世論誘導が始まった。
安倍政権による官僚顔負けの巧みな「騙しのテクニック」。
悲しいことに、それを見破って国民に正しい情報を伝えるべきマスコミが真っ先に騙されているのをご存知だろうか。
例えば、6月29日の日経新聞朝刊記事の見出し。
「内閣人事局 懸案残す」「来春設置へ仕切り直し」「秋までに具体案」と書いてある。
内容は、前日に開催された国家公務員制度改革推進本部(本部長安倍総理)で、内閣人事局という組織を来春に設置することが決まったが、具体化に向けていくつかの課題があるという紹介である。
マスコミの記者は、殆ど勉強する間もなく1~2年で担当が替わる。
官邸サイドから彼らを操るのは非常に容易だ。
今回の新聞の見出しを見た国民は、あたかも、安倍政権が公務員改革に新たに取り組み始めたと思うだろう。
そして、公務員改革は難題だから、調整が大変なのだと理解する。
それが安倍政権の狙いだ。
08~09年にかけて公務員改革事務局の審議官として、官僚や自民党議員の行動をつぶさに見て来た私には、安倍政権の意図がよくわかる。
私が記者なら、
「公務員改革4年前に逆行」「首相主導演出のため課題先送り」
と書いて、安倍政権の演出を批判して改革に追い込もうとしただろう。
どういうことか解説しよう。
内閣人事局の創設は、08年に成立した国家公務員制度改革基本法に書いてあった。
その狙いは、現在各省ごとに行われている公務員人事、とりわけ幹部官僚の人事を官邸内に新設する内閣人事局でまとめて行う。
これにより、縦割りの省益を重視する官僚が評価されて出世する仕組みを止め、全国民的利益を実現できる官僚を抜擢しようというものだ。
実は、この基本法を受けて、4年前に自民党麻生政権は既に今議論している内容を盛り込んだ公務員法改正案を提出している(民主党の反対で廃案)。
法案作りの段階で争点になったのは、
第一に、人事院、総務省、財務省などが持つ公務員の人事や組織に関する権限を内閣人事局に移すこと、
第二に、内閣人事局長を政治家にやらせる条文を入れること、
第三に、幹部官僚を成績の相対評価で降格させられる条文を入れることなどだ。
官僚と自民党議員はいずれにも反対した。
今回、新聞各紙が報じた「残された課題」は、この三つである。
しかし、これらは、4年前に決着済みだ。
渡辺喜美氏(現みんなの党代表)が自民党を離党して以来、党内の殆どの議員が改革に反対する中で、我々が、マスコミと世論を味方につけて何とか提出までこぎつけた。
ただし、その内容には不十分な点も多く、特に幹部官僚の降格規定については私は担当から外され、完全に骨抜きにされた。
実は、これを批判して、みんなの党が2010年に幹部公務員の降格を自由に行えるようにした先進的な法案を作ったのだが、野党だった自民党はこの時共同提案者となっている。
本来は、その法案を出し直せばよいのだが、安倍政権は、4年前の法案に戻そうとしている。
それは、官僚たちへの配慮だ。
つまり、とんでもない後退なのだが、それを何とか「前向きな」改革だとアピールしたい。
そこで、党内の議論を4年前に戻してわざと紛糾させ、これを報道させる。
最後に「安倍総理の裁断」で守旧派を押し切ったことにして、「強力なリーダーシップを持つ改革派安倍総理」を演出するという企みだ。
「後退」を「改革」と錯覚させる愚劣な茶番劇。
国民は、安倍政権とマスコミに騙されてはいけない。
公務員改革と国会議員の定数削減。
さまざまな行革も言えばキリはないが、せめて自らをも切る覚悟を示してもらわねば、そんな政治家が何を言っても信用できるものではない。
それが出来ないうちの消費増税がいつのまにか既成事実化してしまってる。
今度の選挙、争点がないとマスコミは言うが、それは連中が消費増税に荷担する報道をしたからで、増税条件だった景気が、やや良くなりつつあるのかどうかしらないが、いや、それすら疑問視する声もあるが、それ以前の国民との約束はどうなった?
どうなったんだ!