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浅羽祐樹 反日判決の根拠1

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「反日」化する韓国司法
なぜ「解決済み」の問題が蒸し返されるのか


韓国司法による「反日」判決

この7月、韓国の高裁は相次いで、新日鉄住金と三菱重工業に対し、戦時期に徴用された韓国人労働者に賠償を命じる判決を下した。
この判決は、日韓の過去の問題をめぐる訴訟において、個人に請求権を認めた韓国でも最初のもので、画期的である。

この2つの件について、日本では最高裁が、請求権問題は個人も含めて法的には解決済みであるとして、それぞれ2003年と2007年11月に棄却している。

新日鉄住金はすでに大法院に上告していて、三菱重工業も後に続くという。

しかし、どちらの件も大法院からの差し戻し控訴審であるため、上告審の結果はほとんど自明である。

一部報道によると、高裁判決が大法院でそのまま確定すると、新日鉄住金は賠償に応じるという。


この一連の判決について、日本では、「解決済み」の問題がまた蒸し返されたとして、うんざりした感じが広がっている。
それだけでなく、個別の人物や政策ではなく、「韓国は真っ当な国なのか」という国の成り立ちそのものに対する不信感や嫌悪感が、在特会やネトウヨなど一部のサークルにとどまらず、閾値を超えつつある。

公式には、「韓国は我が国と、自由と民主主義、市場経済等の基本的価値を共有する重要な隣国である」(外務省ウェブサイト)と規定されている。
「基本的価値」の共有が高らかとうたわれているのは、米国を別にすれば、韓国だけである。

韓国の司法が日本で注目されるようになったのは、2011年8月30日の憲法裁判所の判決である。
憲法裁判所は、慰安婦問題において個人請求権の解釈をめぐって日韓の間で「紛争」(日韓請求権協定第3条第1項)があるにもかかわらず、韓国政府が当事者同士の「外交上の経路」(同上)や第三者による「仲裁」(第3条第2項)といった日韓請求権協定の規定通りに「作為しない」のは違憲であるとした。
これ以降、大統領の対日外交政策は司法によって制約されるようになり、それまで歴史問題に対して微温的で、「親日」とも評価された李明博前大統領は、「責任ある措置」や「政治的な決断」を日本政府に対して求めるようになった。

この他にも、ソウル高裁は、今年1月、靖国神社を放火した中国人に対して「政治犯」であると認定し、日韓犯罪人引渡条約があるにもかかわらず、日本に引き渡さず中国に帰国させた。

さらに、2月、大田地裁は、対馬の寺院から盗まれた仏像について、日韓両国が加入している文化財の不正輸出入禁止に関するユネスコ条約があるにもかかわらず、日本に返還しないという仮処分決定を下した。

「反日」化の理由

韓国司法が「反日」化したのはなぜなのか。
よく挙げられる理由について、一つひとつ検討してみよう。

第一に、韓国政府の介入。
これはありえない。
韓国政府はこれまで、慰安婦はともかく、徴用工については、日韓請求権協定で個人請求権は消滅し「法的には解決済み」という日本の政府や司法と同じ法的立場に立ってきた。

第二に、大統領だけでなく司法ですら「反日」世論に迎合したという説明。
韓国は憲法や外国との条約の上位に不文律の「国民情緒法」があり、法的安定性が確保されていないというわけである。
一見もっともらしいが、こういったー何でも説明できるマジック・ワードは、実は、何も説明していないし、現状をきちんと分析し、対応策を練る上では、まったく役に立たず、むしろ有害である。

第三に、大法院は「親北朝鮮の盧武鉉政権が任命した裁判官で構成された、いわば『負の遺産』」で、客観的かつ公正な司法判断は期待できないというある自民党議員の主張。
これは、そもそも事実誤認に基づいており、
大法院長以外、残り13名の法院官はすべて、李明博政権期に任命されている。

とはいえ、人的構成の変化というのは、十分ありうる理由で、例えば、韓国社会で最も進歩的な「386世代(2002年の大統領選挙当時、1960年代生まれで80年代に大学に通った30代で、現在は40代から50代前半)」が今では高裁の統括判事に就いていて、判決の傾向に何らかの影響を及ぼしている可能性はある。


「反日」がビルトインされている韓国憲法

そもそも、「反日」は韓国の憲法そのものにビルトインされているため、それに基づく司法が「反日」化するのは、遅かれ早かれ、ある意味、論理的帰結にすぎない。

高裁に差し戻した2012年5月24日の大法院判決(ソウル高裁に差し戻した判決文と釜山高裁に差し戻した判決文を精査してみよう。

まず、「『強制徴用』以前に、そもそも『日帝強占(日本による韓国統治は帝国主義によって強制的に占領されたもの)』自体が大韓民国憲法の核心的価値と全面的に衝突」するという。

そのため、1910年の韓国併合条約は「強占」ではなく双方の合意に拠るものであるという日本の法的立場をそのまま承認したことになる下級審の判断には、法的瑕疵があると断じた。

その上で、「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や、植民地支配と直結する不法行為による損害」に対する個人請求権は、日韓請求権協定によって消滅していないだけでなく、韓国政府による外交保護権も放棄されていないという判断を示した。

憲法自ら、「3・1運動によって建立された大韓民国臨時政府の法統」を「継承」(大韓民国憲法前文)しているとうたっている以上、1919年に起きた「3・1運動」が抗った「日帝強占」はそもそも不当かつ不法であり、それ以降の国家総動員や戦時徴用も当然、「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為」、あるいは「植民地支配と直結する不法行為」となる。

つまり、問題は、「戦時」徴用ではなく、それ以前からの「日帝強占」そのものにあるというのである。

「もはや無効」という賢慮は「もはや無効」なのか

一連の「反日」判決は「反日」がビルトインされている韓国憲法に由来し、この点にこそ、日韓の歴史認識が正面から食い違っている根本がある。

日本とすれば、「両締約国及びその国民(法人含む)の財産、権利及び利益並びに、請求権に関する問題」は、日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」(同協定第2条第1項)として、「法的には解決済み」という立場を政府も司法も一貫して堅持してきた。
同時に、個人請求権も消滅しているとみなしているのは当然である。

その個人請求権について、今回、慰安婦だけでなく徴用工についても、消滅していないと韓国の司法が認めた。
韓国政府は今のところ公式見解を示していないが、高裁判決が大法院でこのまま確定すると、慰安婦の場合と同じように法的立場を変更する蓋然性が高い。

「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争」(同協定第3条第1項)が存在することは、もはや明白である。
だとすると、いみじくも慰安婦問題について韓国の憲法裁判所が指摘したように、「まず、外交上の経路を通じて解決」(同上)を図り、当事者同士で解決できない場合は、第三者の「仲裁委員会」(同協定第3条第2項)に付託するシナリオがいよいよ現実味を増してくる。

1965年に、日韓国交正常化を成立させ、今日までおよそ半世紀の間、日韓関係を安定させてきたのは、日韓基本条約と日韓請求権協定など付随する諸協定、そして日韓紛争解決交換公文という法的枠組み自体である。
それが、今、日韓関係をむしろ不安定化させているのである。

日韓請求権協定はそもそも「サンフランシスコ講和条約第4条(a)」(同協定第2条第1項)に基づく「特別取極」(同条約第4条(a))である。
サンフランシスコ「講和」条約は、敗戦国として、戦勝国である連合国との「戦後」処理の法的枠組みであり、その締結をもって日本は「主権回復・国際社会復帰」を果たした。
同時に、「朝鮮の独立を承認」(同条約第2条(a))し、「台湾及び澎湖諸島」(第2条(b))、「千島列島並びに(略)樺太の一部」(第2条(c))、「国際連盟の委任統治制度」(第2条(d))などに関する「すべての権利、権原及び請求権を放棄」(同条(a)~(d))した。

その「独立」以前の「朝鮮」の法的性格をめぐって、日韓は、国交正常化交渉で熾烈に争った。
日本は、韓国併合条約は合法で、敗戦とともに失効したとみなしていた反面、韓国は、「日帝強占」はそもそも不法であると主張していた。

韓国とすれば、日本との国交正常化にあたって、焦点は「戦後」処理ではなく、あくまでもポスト「日帝」、つまり日本による植民地支配の謝罪と清算にあった。

そもそも、韓国は日本と戦争したわけではなく、当然、連合国でもなければ戦勝国でもない。

この韓国併合条約の法的効力の解釈に関する日韓間の紛争は、当時は、両国の政治リーダーによる「賢慮(prudence)」で解決された。
当時の佐藤栄作総理と朴正煕大統領は、韓国併合条約は日韓基本条約でもって「もはや無効である(이미 무효)(already null and void)」(同条約第2条)とした。
これは「合意できないということに合意する(agree to disagree)」の典型で、双方それぞれ都合よく解釈し自国民向けに異なる説明をしても、相互に干渉せず、外交問題にもしなかった。
言うまでもなく、佐藤元総理は安倍晋三総理の大叔父で、朴元大統領は朴槿恵大統領の父である。

このメタレベルの「合意」は、2013年の今、それこそ「もはや無効」なのか。
韓国の司法は、「日帝強占」が「そもそも不法かつ無効(ab initio null and void)」という立場であることはもはや明白である。
韓国政府は、当然、その法的制約を受けていて、朴槿恵大統領がとりうる政策空間の幅も限定されている。
こうした中、安倍総理は、一体、どのようなリーダーシップを示すことができるのか。


to be continues.  

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