『ワイドスクランブル』1月26日
公務員の給与には、『トンデモ手当』と呼ばれる、民間では考えられないさまざまな手当てがある。
そのひとつが、職を求める人が集まる窓口(ハローワーク)――
そこには『窓口手当』なるものがある。
窓口で仕事を求める人に対応する職員は、月およそ1万円の手当がもらえる。
『棒給の調整額』という名で支払われる窓口手当。
これは全国のハローワーク窓口で、職員が障害者などを対応した際、支払われるというもの。
「失業者に接するため、精神的緊張が強いから」というのがその理由だが…
ハローワークを所管する厚労省はこれについて、
「一般職の職員の給与に関する法律に基づき、職務の複雑、困難性等を認められているので、妥当だと認識しています」
公務員の手当てに詳しいジャーナリスト・若林亜紀氏は、
「窓口手当というのは、市民と接する際の不快…不快で困難な作業をした職員へ支給される手当、『不快手当』ということで支給されることになったんです。
それはちょっと市民をナメてるっと思いますし、民間でいえば当たり前の仕事だと思われるのが、公務員は民間や常識との比較ではなく、「自分たちの方が大変だ」とお互い主張しあって手当てが増えていきました」
かつて実際に「トンデモ手当」をもらっていたという地方都市の元市役所職員が、我われの取材に応じてくれた。
「『賦課徴収手当』というのがありまして、税の取り立てを行うというのは他の課の職員よりも精神的苦痛が著しく大きいということが理由として挙げらてれるんですが…それでもってまあ、上乗せで手当がもらえました」
税金の徴収はあくまで通常業務なのだが、在籍しただけで1日400円、月およそ8000円が支給されたという。
さらに、こんな抜け道も――
「普通に机でボーっとしてるだけでも賦課徴収手当っていうのは自動的に入ってきます」
納税者の元へ出向こうが出向くまいが、課の全員一律に付いていたという。
さらに取材を進めると…
海外で働く外務省職員には様々な手当てが支給されているが、それは配偶者にも及ぶ。
『マダム手当』――
この手当はアメリカ勤務の一等書記官の場合、同行する夫人にも、なんと月額7万880円のお手当が付く。
馴れない異国の地で生活費などを補てんするためだという。
北国が寒いのは当たり前だが、『寒冷地手当』(11月~翌年3月まで)というのもある。
しかし、北海道で勤務する職員、あるいは北海道と同等の気象条件の地域に広く支給されているのがこの手当だ。
冬の間、暖房の燃料費などに月およそ2万円が支給される。
徐々に見直しが図られてきているが、過去にはさらにとんでもない手当が存在した。
「ワサビ栽培を見に言って疲れた」――
『ワサビ栽培作業手当』(05年廃止)は、静岡県職員が伊豆市のワサビ田の現場に足を運ぶと支給される。日当360円。
「このメガネにあってますか」――
2年に一回購入したメガネの半額が補助される『メガネ手当』(05年廃止)、
上限2万5000円でどんなメガネにも利用できたという。
前出の地方都市市役所の元職員の話:
「目が悪くなるのは公務員の職業病だそうです。
多少苦情が出ても役所に入ればみんな仲間ですから、みんな同じ穴のムジナと思ってしまえば、よそから何言われても、痛くも痒くもないんです。
最初の同期会のときに、みんなで何をしゃべるのかというと、『絶対辞めれねー』と(笑)、『石にしがみついてでもこんな楽な仕事辞めてたまるか』と、それで『エイエイオー!』とやるワケです」
さらに公務員には、職員が組織する互助会と呼ばれる団体から支給される福利厚生面での手当ても存在する。
『仙台市職員互助会』では、職員会費に補助金というカタチの公費を使い、職員が入院した際の手当などを支給してきたが、少しずつ公費投入を減らすなど見直しを図っているという。
仙台市職員互助会・伊藤徹事務長:
今も公費で賄っている部分はあります。
平成23年度は結婚祝い金(5万円)、出産祝い金(2万5000円)、入学金(2万円)、卒業祝い金(2万円)。
公費の助成というのは半々で行っています」
仙台市の互助会は来年度から公費の投入はやめるという。
伊藤:
「まあ、今年度は市から支給してもらって実行しますが、来年からはなくなるので市民はくみ取ってほしいと思います」
トンデモ手当にすがる公務員たち。
その驚くべき本心とは――
前出の地方都市市役所の元職員の話:
「俺たちが3年5年オイシイ思いしたって、何がお天道様に悪いことがあろうかという…
よく市役所の中で言われてたのが、『自分たちはバブルの時代に民間が贅沢するのをヨダレを垂らしながら指をくわえて見てた』。
だから今度は俺たちの番だと(笑)。
民間の人たちは10年オイシイ思いをしたんだから、オレたちが3年や5年オイシイ思いしってイイじゃないかと」
大手結婚情報誌のネットアンケートによると、今、20代30代に聞いた結婚相手の職業は、
5位が金融機関、4位IT関連、3位弁護士、2位医師、そして1位が公務員となっている。
給料が良くて、つぶれない、老後も安心――
安定感を求める女性に人気の職業となっている。
その他のトンデモ手当として――
仙台市では『独身手当』として、38歳から42歳の互助会に入って20年の職員には6間年の一時金が支給される。
なぜか結婚手当の5間年より1万円多い支給となっている。
『出生困難手当』、別名〝わたり〟と呼ばれる。
給与の水増し、つまり、肩書よりも給料を多くもらうこと。
これは例えば、同期が5人いても昇進するのは一人か二人だけ。
その間に格差が出る――
このことに公務員が大変な不公平感を持ったり、不満に思ったりさせないために、係長でも課長並みの給料を支給する。
これは数年前から総務省が是正に乗り出してはいるが、実態を把握しきれておらず、この手当を残したままの地方自治体はまだかなりあるという。
『地域手当』
民間の賃金の高い地域に勤務する職員に支給される手当で、
大阪府内で本給の10%
東京23区で本給の13%――
大阪府の職員が大阪府庁に勤務してるだけで、月およそ4万円のこの手当が付くという。
猪瀬直樹・東京都副知事:
「東京はこの手当を半分にしました。これは美濃部さんの時代に美濃部さんだけなくて、高度成長の時代に賃金がどんどん上がってきて、正規の給料だけじゃなくて色んな手当をつけていったワケです。
それがたまっていって財政を圧迫するようになってきた。
それを整理しようということで石原知事になってから、10年で半分近く、手当てを減らしました。
今、大阪の橋下市長が、このスタートラインについたとこなんです。
共産党が橋下市長に反対したのは、自民党と共産党が一緒になるなんて大阪以外では考えられないですけど、それはこういう既得権益があるからなんですね。
ただ、手当を全部なくせ、と言ってるんじゃないんすよ。
妊婦さんの救急医療のときとか…インセンティブを与えるような手当は残した方がいいと思います。
変な手当てをなくせということです。
廃止されたこれまでのトンデモ手当――
【平成13年度廃止】
女性相談センター業務手当
心身障害者センター業務手当
児童相談所業務手当
【平成15年度廃止】
狂犬病予防業務手当
動物園飼育作業等業務手当
高齢者施設業務手当
教務手当
福祉事務所現業手当
不規則勤務者業務手当
海外事務所勤務手当
【平成18年度】
清掃業務従事職員特殊勤務手当
中田宏の『政治家の殺し方』より
市長になって、まだ1カ月も経っていないある日、私の部屋に職員が1枚の用紙を持ってやってきた。
見てみると、出張手当と書いてある。
「あれ?どこかに出張行ったっけ」
不思議に思ってよく見ると、行き先が東京となっている。
「横浜から東京に行くと出張になるの?」
職員に訊くと、答えはイエス。
横浜から東京まで電車で30分程度。
車でも1時間だ。
横浜から東京へ、東京から横浜へ、毎日通勤してる人も多い通勤圏内エリアである。
それでも手当が出る。
東京だけではない。
さらに近い川崎市に行っても、鎌倉市に行っても手当は出ていた。
要するに、横浜市役所の仕事は横浜市内であって、市外に行く場合は出張扱いになるという考え方だ。
100㌔以上は1700円、100㌔未満なら半額の出張費と決まっていた。
仕事で横浜市を一歩出ただけで850円がもらえたワケだ。
もちろん日帰りの業務だ。
県で行われる他市との会議、東京での国との折衝、毎日職員は出張している
ことになる。
その経費たるやバカにならない。
もちろんその後、廃止したが、職員から嫌われることになったのは言うまでもない。
一般的に、給与の明細を見ると、本給以外に諸手当の欄がある。
これは民間でも同じことだが、自治体で横行していたのが特殊勤務手当というものだ。
言葉通り素直に理解すれば、「特殊な勤務をする人に手当てする」ということになる。
法律上も「著しく危険、不快、不健康または困難な勤務その他の著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要とし、かつ、その特殊性を棒給で考慮することが適当でないと認められる者に従事する職員に、その勤務の特殊性に応じて支給されるもの」となっている。
趣旨そのものは賛同できるが、実際はそうではなかった。
私が市長になった02年時点で、横浜市役所の同手当は55種類あった。
例えば、放射線取り扱い手当とかいうものならばわかる。
だが、『保育手当』、『給食業務手当』というのはどうだろう。
もちろんそれぞれの仕事には苦労もあるだろうが、保育士は子どもの保育ををするために採用されているのであって、保育手当を支給するのはおかしい。
学校の給食調理員は調理をするために採用したのであって、その業務に手当てが付くのはおかしい。
特殊な業務でもなんでもない。
住民票を発行する戸籍課窓口の職員が『戸籍登録事務従事者手当』をもらっていることなど、住民票を取得してきた市民にはゆめゆめ知らなかったことだろう。
見直しにはかなりの反発があったが、04年半分の27、05年に23、06年には原則全廃した。
これにより、年間29億円以上の経費を削減することができた。
また、ほかの自治体の話だが、『徒歩手当』という項目が設けられてるところもあった。
電車で通勤している人が通勤手当をもらっているのに、歩いて通勤する人に何の手当てもないのはおかしいということらしいが…
04年12月、それまで見て見ぬふりをしてきた総務相がようやく腰を上げ、全国的な特殊手当の見直しが始まったが、その見直しでは274の自治体でこの徒歩手当が支給されていたことが明らかになっている。