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漢字でイメトレ

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転載元: 
Japan on the Globe 国際派日本人養成講座 
http://blog.jog-net.jp/
 
 
 
■2歳の幼児が漢字を読んだ!

きっかけは偶然だった。
小学校教師の石井勲氏がこたつに入って「国語教育論」という本を読んでいた。
そこに2歳の長男がよちよち歩いてきて、石井氏の膝の上に上がり込んできたので、氏は炬燵の上に本を伏せて置いた。
その時、この2歳の幼児が「国語教育論」の「教」という漢字を指して「きょう」と言ったのである。
びっくりして、どうしてこんな難しい字が読めたんだろう、と考えていると、今度は隣の「育」の漢字を指して「いく」と言った。
石井氏が驚いて、奥さんに「この字を教えたのか?」と尋ねると、教えた覚えはないという。
教えてもいないものが読めるわけはない、と思っていると、奥さんが「アッ!そう言えば一度だけ読んでやったことがある」と思い出した。
奥さんは音楽の教師をしており、「教育音楽」という雑誌を定期購読していた。
ある時、息子が雑誌のタイトルを指で押さえて、「これ、なあに?」と聞くので、一度だけ読んでやったような記憶がある、というのである。

そんなこともあるのか、と半信半疑ながら、ひょっとしたら、幼児にとって漢字はやさしいのかもしれない、と石井氏は思いついた。
ひらがなは易しく漢字は難しい、幼児に教えるものではない、と思いこんでいたが、実はそうではないのかもしれない。
これが石井式漢字教育の始まりだった。

■漢字学習で幼稚園児の知能が伸びた!

それから石井氏は昭和28年から15年にもわたって、小学校で漢字教育を実践してみた。
当初は学年が上がるにつれて、子どもの学習能力が高まると信じ込んでいたが、実際に漢字を教えてみると、学年が下がるほど漢字を覚える能力が高いことが分かった。
そこで今度は1年生に教える漢字を増やしてみようと思った。
当時の1年生の漢字の習得目標は30字ほどだったが、これを300字ほどに増やしてみると、子供たちは喜んでいくらでも吸収してしまう。
それが500字になり、とうとう700字と、小学校6年間で覚える漢字の8割かたを覚えてしまった。
ひっとしたら就学前の幼児は、もっと漢字を覚える力があるのかもしれない。
そう思って昭和43年からは3年間かけて、幼稚園児に漢字を教えてみた。
すると幼児の漢字学習能力はさらに高いということが分かってきた。
同時に漢字学習を始めてからは幼児の知能指数が100から110になり、120になり、ついには130までになった。
漢字には幼児の能力や知能を大きく伸ばす秘密の力があるのではないか、と石井氏は考えるようになった。

■複雑でも覚えやすい漢字

どんな子どもでも3歳ぐらいで急速に母国語を身につけ、幼稚園では先生の話を理解し、自分の考えを伝えることができる。
この時期に言葉と同時に漢字を学べば、海綿が水を吸収するように漢字を習得していく、というのが石井氏の発見だった。
漢字は難しいから上級生にならなければ覚えられない、というのは、何の根拠もない迷信だったわけである。
同時に簡単なものほど覚えやすい、というのも、誤った思いこみであることが判明した。
複雑でも覚える手がかりがある方が覚えやすい。
たとえば「耳」は実際の耳の形を表したもので、そうと知れば、簡単に覚えられる。
「みみ」とひらがなで書くと画数は少ないが、何のてがかりもないのでかえって覚えにくい。

石井氏はカルタ大の漢字カードで教える方法を考案した。
「机」「椅子」「冷蔵庫」「花瓶」などと漢字でカードに書いて、実物に貼っておく。
すると幼児は必ず「これ、なあに?」と聞いてくる。
そこではじめて読み方を教える。
ポイントは、遊び感覚で幼児の興味を引き出す形で行うこと、そして読み方のみを教え、書かせないことである。
漢字をまず意味と音を持つ記号として一緒に覚えさせるのである。

■抽象化・概念化する能力を伸ばす

動物や自然など、漢字カードを貼れないものは、絵本を使う。
幼児絵本のかな書きの上に、漢字を書いた紙を貼ってしまう。
そして「鳩」「鴉」「鶏」など、なるべく具体的なものから教えていく。
すると、これらの字には「鳥」という共通部分があることに気づく。
幼児は「羽があって、嘴(くちばし)があって、足が2本ある」のが、「鳥」なのだな、と理解する。
ここで始めて「鳥」という「概念」が理解できる。

これが分かると「鶯」や「鷲」など、知らない漢字を見ても、「鳥」の仲間だな、と推理できるようになる。
こうして物事を概念化・抽象化する能力が養われる。

またたとえば「右」、「左」など、抽象的な漢字は「ナ」が「手」、「口」は「くち」、「工」は「物差し」と教えてやれば、食べ物を口に入れる方の手が「右」、物差しを持つ方の手が「左」とすぐ覚えられる。
そう言えば、筆者は小学校低学年の時、右と左の字がそっくりなので、どっちがどっちだか、なかなか覚えられなかった記憶があるが、こう教わっていたら瞬時に習得できていただろう。
    
■推理力と主体性を伸ばす
また一方的に教え込むのではなく、遊び感覚で漢字の意味を類推させると良い。

石井式を実践している幼稚園でこんな事があった。
先生が黒板に「悪魔」と書いて、「誰かこれ読めるかな」と聞いた。
当然、誰も読めないので、「じゃあ、教えてあげようね」と言ったら、子供たちは「先生、待って。自分たちで考えるから」。

子供たちは相談を始めて、「魔」の字の下の方には「鬼」があるから、これは鬼の仲間だ。
こうしてだんだん詰めていって、とうとうこれは「あくま」じゃないか、と当ててしまった。

この逸話から窺われるのは、第一に、幼児にも立派な推理力がある、という事だ。
こういう形で漢字の読みや意味を推理させるゲームで、子どもの論理的な思考能力はどんどん伸びていく。
第二は、子どもには自分で考えたい、解決したい、という気持ちがあるということである。
そういう気持ちを引き出すことで、子どもの主体的な学習意欲が高まる。
そして自ら考えて理解できたことこそ、本当に自分自身のものになるのである。

■漢字から広がる世界

石井式の漢字教育と比較してみると、従来のひらがなから教えていく方法がいかに非合理的か、よく見えてくる。
たとえば、「しょうがっこう」などという表記は世の中に存在しない。
校門には「○○小学校」などと漢字で書かれているのである。
「小学校」という漢字熟語をそのまま覚えてしまえば、近くの「中学校」の側を通っても、おなじ「学校」の仲間であることがすぐに分かる。
「小」と「中」の区別が分かれば、自分たちよりやや大きいお兄さん、お姉さんたちが行く学校だな、と分かる。

こうして子どもは、漢字をたくさん覚えることで、実際の社会の中で自分たちにも理解できる部分がどんどん広がっていくことを実感するだろう。
石井氏の2歳の長男も、お父さんが読んでいる本の2つの文字だけでも自分が読みとれたのがとても嬉しかったはずだ。
だから、僕も読めるよ、とお父さんに読んであげたのである。
このように漢字を学ぶことで外の世界に関する知識と興味とが増していく。
本を読んだり、辞書を引けるようになれば、その世界はさらに大きく広がっていく。
幼児の時から漢字を学ぶことで、抽象化・概念化する能力、推理力、主体性、読書力が一気に伸びていく。
幼児の知能指数が漢字学習で100から130にも伸びたというのも当然であろう。

漢字学習を通じて、多くの言葉を知り、自己表現がスムーズに出来るようになると、情緒が安定し、感性や情操も豊かに育っていく。
石井式を取り入れた幼稚園では、「漢字教育を始めて一ヶ月くらいしたら、園児たちの噛みつき癖がなくなりました」という報告がしばしばもたらされるという。
子供たちのうちに湧き上がった思いが表現できないと、フラストレーションが溜まって噛みつきという行為に出るが、それを言葉で表現できると、心が安定し、落ち着いてくるようだ。
最近の「学級崩壊」、「切れやすさ」というのも、子どもの国語力が落ちて、自己表現ができなくなっている事が一因かもしれない。

NTTと電気通信大学の共同研究では、「かな」を読むときには我々は左脳しか使わないが、漢字を読むときには左右の両方を使っているということを発見した。
左脳は言語脳と呼ばれ、人間の話す声の理解など、論理的知的な処理を受け持つ。
右脳は音楽脳とも呼ばれ、パターン認識が得意である。
漢字は複雑な形状をしているので、右脳がパターンとして認識し、それを左脳が意味として解釈するらしい。

石井氏は自閉症や知的障害を持った子供にも漢字教育を施して、成果をあげている。
これらの子どもは言語脳である左脳の働きが弱っているため、言葉が遅れがちであるが、漢字は右脳も使うので、受け入れられやすいのである。

■漢字かな交じり文の効率性
漢字が優れた表記法であることは、いろいろな科学的実験で検証されている。
日本道路公団が、かつてどういう地名の標識を使ったら、ドライバーが早く正確に認識できるか、という実験を行った。
「TOKYO」「とうきょう」「東京」の3種類の標識を作って、読み取るのにどれだけの時間がかかるかを測定したところ、「TOKYO」は1.5秒だったのに対し、「とうきょう」は約半分の0.7秒、そして「東京」はさらにその十分の一以下の0.06秒だった。

考えてみれば当然だ。ローマ字やひらがなは表音文字である。
読んだ文字を音に変換し、さらに音から意味に変換する作業を脳の中でしなければならない。
それに対し漢字は表意文字でそれ自体で意味を持つから、変換作業が少ないのである。

日本人はこの優れた、しかしまったく言語系統の異なる漢字を導入して、さらにそこから、ひらがな、カタカナという表意文字を発明した。
その結果、数千の表意文字と2種類の表音文字を使うという、世界でも最も複雑な表記システムを発明した。

たとえば、以下の3つの文章を比べてみよう。

朝聞道夕死可矣

あしたにみちをきかばゆうべにしすともかなり、
朝に道を聞かば夕に死すとも可なり

漢字だけ、あるいは、ひらがなだけでは、いかにも平板で読みにくいが、漢字かな交じり文では名詞や動詞など重要な部分が漢字でくっきりと浮かび上がるので、文章の骨格が一目で分かる。
漢字かな交じり文は書くのは大変だが、読むにはまことに効率的なシステムである。

情報化時代になって、書く方の苦労は、かな漢字変換などの技術的発達により、急速に軽減されつつあるが、読む方の効率化はそれほど進まないし、また情報の洪水で読み手の負担はますます増大しつつある。
読む方では最高の効率を持つ漢字かな交じり文は情報化時代に適した表記システムであると言える。
    
■漢字教育で逞しい子どもを育てよう

英国ケンブリッジ大学のリチャードソン博士が中心となって、日米英仏独の5カ国の学者が協力して、一つの共通知能テストを作り上げた。
そのテストで5カ国の子ども知能を測定したところ、日本以外の4カ国の子どもは平均知能指数が100だったのに、日本の子どもは111だった。
知能指数で11も差が出るのは大変なことだというので、イギリスの科学専門誌「ネイチャー」に発表された。

博士らがどうして日本の子どもは知能がずば抜けて高いのか、と考えた所、この5カ国のうち、日本だけが使っている漢字に行き着いたのである。
この仮説は、石井式で知能指数が130にも伸びる、という結果と符合している。

戦後、占領軍の圧力や盲目的な欧米崇拝から漢字をやめてカタナカ書きやローマ字書きにしよう、あるいはせめて漢字の数を減らそうという「国語改革」が唱えられ、一部推進された。
こうした科学的根拠のない「迷信」は事実に基づいた石井式漢字学習によって一掃されつつある。

国語力こそ子どもの心を大きく伸ばす基盤である。国語力の土壌の上に、思考力、表現力、知的興味、主体性などが花開いていく。
そして国語を急速に習得する幼児期に、たくさんの漢字を覚えることで、子どもの国語力は豊かに造成されるのである。

石井式漢字学習によって、全国津々浦々の子供たちが楽しく漢字を学びつつ、明日を担う日本人としての逞しい知力と精神を育んでいくことを期待したい。

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