橋下徹vs香山リカ「アナタは病気」場外舌戦!
『アサヒ芸能』02年2月4日次の「敵」を見つけた橋下氏
橋下徹市長誕生から1カ月――公務員相手にバトルを演じてきたが、“敵”があまりに弱すぎたのか。今度は学識者たちに「エゲつない」言葉でケンカを吹っかけ始めた。荒ぶる市長に学者はどう対応するのか?「場外舌戦」のゴングが打ち鳴らされた!政治家に求められる資質の一つに「発信力」なるものがある。自分の考えを大衆に伝える力なのだが、橋下徹大阪市長(42)の場合はズバ抜けている。市政担当記者が言う。
「市長就任から1カ月でテレビ出演は17回。『改革』の腹案を市幹部に指示した翌日には、マスコミの前で話してしまうので、職員は困り果てています。3月末までの早期退職希望者が前年の2倍、650人に上るなど、市役所の混乱はしばらく続きそうです」目下の「敵」である市職員は右往左往するだけで、敵前逃亡者まで現れた。橋下氏の完全勝利も近い。
そして、「発信力」を駆使して、橋下氏は次なる「敵」をさっそく、見つけ出した。今年に入ってから、橋下氏はつぶやき投稿サイト「ツイッター」上で、学識者6人の実名をあげ、口汚く罵り始めたのだ。
例えば、1月11 日には、こんな罵詈雑言があった。〈香山氏は、一回も面談もしたことがないのに僕のことを病気だと診断してたんですよ。そんな医者あるんですかね。患者と一度も接触せずに病名がわかるなんて。サイババか!〉橋下氏に槍玉にあげられたのは、精神科医で立教大学現代心理学部教授の香山リカ氏だ。
橋下氏が勝手に診断されたと騒いでいるのは、香山氏が共著者として名を連ねる「橋下主義(ハシズム)を許すな!」(ビジネス社刊)の中の次のくだりと思われる。〈(バトルの構図で二者択一を迫る)ふるまい方というのは、(中略)ある種の危機や不安を抱いている病理のひとつの証拠だと思えてしまいます〉これが、〈診断〉なのか。本誌は香山氏に取材を申し込むと、こんなコメントを寄せてくれた。
「“直接診ていない人”であっても、為政者や教祖など社会的影響力を持った人物本人やその人を受け入れる民衆について分析する手法が、精神医学の一分野として伝統的に存在します。それにのっとって、いわゆる『橋下現象』を分析してみたまでで、橋下氏という個人を診断したわけではありません。本人に頼まれてもいないのに、しかも無料で診断するようなサービス精神は私にはありません」香山氏は橋下氏が代表を務める「大阪維新の会」が打ち出した「教育基本条例案」に一貫して反対の立場を表明してきた。先の市長選でも、平松陣営の応援演説にも立っている。
多分に、橋下氏の香山氏に対する怒りの原因は別のところにあるように思えるが、香山氏は意に介することなく、こう続ける。「学者や識者の批判を拒絶する橋下氏は、少々批判されると黙っていられないほど繊細で脆弱な神経の持ち主なのかと、それこそ“診断”したくなってしまいます」この「大舌戦」の第1ラウンドは、大人の対応を見せる香山氏の勝利か。「紫色の髪の毛」発言は撤回
そもそも、この橋下氏の学識者批判は1月3日のツイッターから始まった。最初の標的となったのは、同志社大学大学院教授の浜矩子氏だった。〈浜とかいう大学教授のおばはんに、みんなのために働いてもらうために税金で橋下を養っているんだと言われたよ。あんた何様なんだ?〉事の発端は、昨年12月28日に放送された番組「キャスト」(朝日放送)で2人が共演したことだ。
橋下氏のつぶやきによれば、自身が出演していなかった番組前半に、「(橋下氏は)自分だけ幸せを感じている人」と論評されたことをあとから知り、激高している。そして、つぶやきは徐々にエスカレートする。〈あなたの紫色の髪の毛とその眉毛、そのために国民はあなたに税金を投入しているんじゃないですよ〉さすがに、この発言は妻にいさめられたとして、橋下氏はのちに撤回、謝罪している 。ところが、橋下氏はしだいに批判の対象を広げていく。〈暇で、時間があって、ギャラが安くて使い回しの効く文系大学教授がコメンテーターで好き勝手なことを言ってる。本来コメンテーターなんてその道のプロじゃないとできないはず〉〈自分からは具体的な提案は何もできない。批判するだけ。政治や行政の経験も何もないのに政治や行政を偉そうに語る〉橋下氏の学識者批判の特徴は、深夜や早朝の短時間に、140字以内と決められたつぶやきを執拗に繰り返すことだ。そして、対象は違えど、批判の内容はほとんど同じ。簡単に言うと、以下のようになる。“私立大学にも交付金という形で税金が投入されている。なのに、税金で養われている教授連中は人の批判ばかり。現場に来て、仕事をしてみろ”。同様の理屈でボロクソにけなされたのが、北海道大学大学院教授の山口二郎氏と同大学大学院准教授の中島岳志氏の2人だ。
1月8日のつぶやきにはこう記されている。〈税金で養われている北海道の中島とかいう教員はどうしようもない。「改革は一気にやるものではない。色が徐々に変わるようなグラデーション的にやるものだ」と(中略)は~っ??だから??税金で勉強させてもらっていてこの程度のコメントか?〉〈(中島氏の)師匠が山口とかいうこれまた税金で養われている役立たず。この人達は、単に僕のことが嫌いなだけ〉そして、〈改革の1つでもやってもらいたい〉と挑発。〈(中島氏に)大阪市の特別参与と言うポジションを与えるからさ〉とまで言った。そして、橋下氏は浜氏を含めた3人を〈日本三大役立たず教授だね〉とバッサリと斬ってしまう。罵倒された山口氏も黙っていられなかったのか。1月15日に放送された「報道ステーションSUNDAY」(テレビ朝日系)に出演し、橋下氏に論戦を挑んだ。
前半こそ、「教育改革」で激論が戦わされた。しかし、最終的には橋下氏に、
「現場を知らないですね」
と学者批判を展開されてしまう。
山口氏はツイッターで、こうつぶやいている。〈橋下を相手にテレビでしゃべるのは難儀なこと〉“テレビ慣れ”の面では、やはり元タレント弁護士のほうが一枚上手のようだ。場外バトルはテレビへ移行!
橋下氏の学識者批判は大学教授だけにとどまらない。作家の村薫氏も思わぬ“口撃”をされている。
1月11日の橋下氏のツイッターには、村氏に対して、こんな記述がある。〈何をしている人なのか全くわからない。作家らしいが、毎日新聞で時事ネタに関して非建設的な意見だけを述べる。(中略)僕が光市母子殺害事件弁護団に対するテレビ発言で、弁護団に訴えられ一審敗訴の時に、「痛快!」とタコメント〉
〈その後、僕が最高裁まで争って僕の言い分が通ったときには、何もコメントを出さない。その程度の人〉こうなったら、クソもミソもない。まとめてかかってこいと言わんばかりだ。
それもそのはず、橋下氏はツイッター上で、田原総一朗氏にこう呼びかけている。〈僕のことを嫌いな大学教授と直接討論させて下さい!〉そして、これが実現してしまった。1月27日の「朝まで生テレビ」(テレ朝系)で、「激論!『独裁者』橋下市長が日本を救う(仮)」なるテーマで放送される予定なのだ。橋下氏の公務の都合もあり、番組は事前収録となる。本誌が発売された頃には、収録が終わっているが、出演予定の帝塚山学院大学リベラルアーツ学部教授の薬師院仁志氏はこう話す。「橋下氏のこれまでの発言などを見ていても、相手に対してというより、基本的に学問や学者、特に文系の知識人を嫌悪しているのではないかと思えてきます。とにかく、先にテレビで討論されていた山口先生の時のように、『学者は世間知らず』と議論をすり替えられては、市政の議論にはならないので、注意しなくてはと思っています。橋下氏が本格的なテレビ討論の場に出てくるのは珍しいことですから、きちんと議論してくれると思い ますが‥‥」とはいえ、薬師院氏は山口氏からアドバイスを得て、傾向と対策も万全だ。「山口先生には『論点をすり替えてくるから、一般論ではなく1つのテーマにしぼれ』と言われました。私は政治学者ではなく社会学者です。しかも、生っ粋の大阪市民でもあります。市民の目線で論戦しようと思っています。それでも、『学者は世間知らず』だと言ってくるのであれば、『橋下さんは豊中市民でしょう』と言い返してやりますよ。大阪市内の商店会の人が『助成金が減らされた』とボヤいているのに、一方で、マスコミで橋下氏をさも改革者のように祭り上げるのは、大阪以外の人が多い。大阪で生活している市民の現実はどうでもいいと考えているのか、橋下氏にはしっかり答えてもらうつもりです」(前出・薬師院氏)橋下氏が一方的にまくしたてていた「大舌戦」。テレビに場所を替えて、本格バトルに発展しそうなのだ。学者は「夢見る子羊」なのか
もう一人、橋下氏の標的となった学者がいる。神戸女学院大学名誉教授の内田樹たつる氏だ。「日本辺境論」など多数のベストセラーを持つ内田氏には、ファンも多い。
ところが、1月13日のツイッターで、橋下氏は執拗に内田氏批判を繰り返したのだ。つぶやいた回数は22回。しかも、午前2時過ぎから始まったつぶやきは、午前3時に中断。起床後と思われる午前7時35分から再開してまで批判する念の入れようなのだ。
〈大学教授がいかに夢見る子羊、空想をめぐらすだけで、物事を実行する人ではないことの象徴記事が出ていました〉こんなつぶやきから、内田氏批判が始まった。橋下氏の言う〈象徴記事〉というのは、1月に新聞に内田氏が寄稿した論文2つを指す。それぞれ別のテーマで書かれた論文の内容を細かく否定している。
しかし、橋下氏の怒りの根源は、論文の内容にあるのではないようだ。
というのも、この日のつぶやきの最後が本音と読めてしまうからだ。〈内田さん、特別顧問の時に、大阪市内に父的リーダーを誕生させる何か一つのアイデアでも実行したら良かったんだ(中略)しかし学者は何もしない。人に文句を言うだけ。ほんと気軽、無責任な商売だ〉学者批判というだけでなく、平松邦夫前市長(63)の特別顧問だったことが気に入らないご様子なのだ。
その証拠に、何度も〈特別顧問だったのに、何も実行しなかった〉とつぶやいている。さらには、〈平松前市長とシンポジウムとかそんなんでくっちゃべっていただけ〉とまで放言する。本誌は反論してもらおうと、取材を申し込んだ。しかし、内田氏はこう言うのだった。「私もツイッターをしているのですが、橋下さんをフォローしていないので、正確に何を言われているのか知りません。今まで、私も橋下さんに関して、好き勝手に書いてきたのですから、私のことを書かれてもしかたないことでしょう。それに、私は誰とも論争しない主義なのです。ましてや、橋下さんも私も誰でも読めるネット上に書いているわけですから、読んでくれた方が情理をはかればいいのです。わざわざ、私がコメントして、〝ミスリード〟する必要はありません」橋下氏は常に「敵」とのバトルを演じて、大衆を引き付けてきた。議会を制圧した今、市職員からの反撃もない。ただ、目に見える「敵」が欲しくて、学識者にケンカを吹っかけているのかもしれない。
ならば、反論せずに聞き流すのが、橋下氏に対する「最大の攻撃」となるのは間違いない。
橋下は売られたケンカを買ってるだけだ。