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検証・『小泉改革』2/郵政民営化の毒

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転載元
細川一彦のオピニオンサイト

■郵政民営化の強行は危険である
2005.6.15

●郵政民営化の強行は危険である
小泉純一郎氏が首相になる前年、平成12年(2000)に、あるシンポジウムで郵政民営化論について氏の持論を聴いた。
それによると、論拠は3点である。

1 全国に宅急便が行き渡っているから、郵便は民間に任せても大丈夫

2 郵便貯金が民間の金融機関を圧迫している

3 郵貯の巨額の金が財政投融資に回って問題を起こしている。

この3つである。

問題解決には財投のあり方を抜本的に見直す必要があり、それには郵政を民営化しなければならないというのが、小泉氏の主張であった。

ところが、首相になった小泉氏が郵政改革を実行に移す段階になると、矛盾が目立ってきた。
いま小泉―竹中政権は、問題点の説明もせずに、郵政民営化を強行しようとしている。
これは尋常ではない。
この動きの背後には何があるのか。
関岡英之氏が明らかにしたように、郵政民営化とは、アメリカが平成7年(1995)から「年次改革要望書」によって、日本に要望し続けていることなのである。
ちなみに小泉氏が『郵政省解体論』を公刊したのは、アメリカが郵政民営化を要望項目に挙げる前の年だった。
ほぼ同じ時期である。

郵政民営化には、推進論も反対論もさまざまあり、極めて分かりにくい状況になっている。
問題を初めて整理してくれたのは、東谷暁(さとし)氏の『民営化という虚妄』(祥伝社、平成17年3月刊)という本である。

小泉氏は平成6年(1994)に『郵政省解体論』を公刊した。
氏の民営化論は「郵貯=財政投融資=特殊法人の赤字」という図式を前提にしていた。
郵貯と簡保の資金は大蔵省(当時)の資金運用部に預託され、預託金は採算の取れない特殊法人の赤字補填に使われるという図式である。

ところが、東谷氏は、その当時、郵貯と簡保は合わせても、財投の資金の6割程度に過ぎず、また財投の資金のうち特殊法人に回っているのはその半分以下だったと指摘する。
「郵貯=財政投融資=特殊法人の赤字」
は、ひどく誇張された図式だったのである。

実は、郵貯で集めた金を大蔵省資金運用部に預けるさいの「預託金利」は、昭和62年(1987)に国債の市場に連動化されている。
平成5年には郵貯の金利も市場金利に連動し、民間の銀行に比べて有利ではない水準に定められた。
郵貯が民間銀行を圧迫しているとは単純に言えなくなった。
平成13年(2001)には、公社化を待たずに、郵政が郵貯や簡保で得た資金を全額自主運営することが決まった。
郵貯・簡保の資金が直接財務省に預託される構造は改められた。
財務省は財投債を発行し、郵政は市場においてこれを購入するという形に変わった。
つまり、郵貯・簡保の資金は、この時点ですでに財投から切り離されたのである。
また、これまで預託されていた残高は平成19年度(2007)までに全額返されることになっており、着々と返済されている。

こういう改革が行われてきたうえに、平成15年(2003)4月1日に、郵政公社が発足した。
このように、かつての小泉氏の「郵貯=財政投融資=特殊法人の赤字」という図式は、まったく成り立たなくなっていることが、東谷氏によって明らかにされている。

もちろん郵政公社になって問題がすべて解決したわけではない。
郵便事業の債務超過解消の目処は、立っていない。
郵貯と簡保の収益は、政府保証と国債での運用という「官業」に支えられている。
しかし、小泉氏が当初掲げていた論拠のうち、小泉氏が当初掲げていた論拠のうち、

2 郵便貯金が民間の金融機関を圧迫している
3 郵貯の巨額の金が財政投融資に回って問題を起こしている

という点は、既に改善が進んでいる。

本当にいまでも民営化が必要なのか。
民営化が最善の方法なのか。
民営化による弊害・問題点をどう解決するのか。
「民営化ありき」ではなく、こういう議論をしなければならないのである。
現在の法案は、時間をかけて再検討すべきだと思う。

小泉―竹中政権の郵政民営化案には、とにかく郵政公社を株式会社にする、
郵貯・簡保345兆円を市場に出す、
という姿勢が露骨になってきている。
このままアメリカの要望にそう形で、民営化が強行されれば、国民の貴重な資産はアメリカに奪われる。
特に簡保はアメリカの保険業界の餌食となる。
再検討しなければ、日本が危ない。

●米国は郵便を民営化してない

郵政民営化論は、民間で出来ることは民間へ任せる、官業が民業を圧迫してはならない、だから郵政公社を株式会社にすべしという思想に基づく。
これは、市場万能・自由競争至上主義の考え方である。
わが国は、いよいよこのアメリカ流の考えの構造改革を本格的に進めようとしている。
その一大焦点となっているのが、郵政改革である。

冒頭に書いたが、小泉首相の当初の郵政民営化論では、

1 全国に宅急便が行き渡っているから郵便は民間に任せても大丈夫、
ということが、論拠の一つだった。
しかし、郵政公社は、全国一律のユニバーサル・サービスを行っているが、民間企業となれば当然、公益性より収益性を追求する。
手間や経費がかかる山間離村へのサービスは、切り捨てられる可能性が高い。
郵便局も収益の上がらない局は、どんどん廃止されるだろう。

ドイツでは、民営化によって、郵便局の数が半数近くに激減した。
基本法(憲法)でユニバーサル・サービスを義務づけたにもかかわらず、なお局数が減り続けた。
当然、サービスの質の低下は避けられず、国民の不満は高まっているという。

実は、世界はもう単純な民営化の時代ではなくなっている。
単純に民営化するだけではうまくいかない問題がいろいろ出ているからだ。

郵便事業に関して言うと、全面的に民営化している国もあることはある。
先ほどのドイツはその一例である。
ドイツでは、郵便・郵貯・電気通信の3事業に分割して民営化した。
しかし、郵便事業を担うドイツ・ポストは、民営化後も独占状態を維持している。
独占で得た利益で、物流会社のDHLを買収し、国際市場に参入して、利益をあげている。
株式の多くは政府や公的機関が保有しており、一種の国策会社となっているのだ。
もっとも郵貯会社を切り離したのは、間もなく失敗だったことが明らかになった。
郵便の業務には、直属の金融機関がないと資金調達等に不便なことがわかったのである。
結局ドイツ・ポストは、ポスト・バンクを子会社化している。

イギリスでは、かつてサッチャーが労働党政権で国営化された企業の民営化を進め、イギリス病を克服した。
しかし、郵政では、民営化は失敗だった。
伝統あるロイヤル・メールの名称を捨ててコンシグニアと改め、株式会社として出発したのだが、わずか1年7ヶ月で看板を下ろした。
業績不振やスト頻発のためである。
結局、名称をもとに戻して、やり直しをすることになった。

民営化していない国もある。
フランスの郵便事業は国営であり、カナダでは公社である。
欧米諸国がすべて完全民営化しているわけではないのである。

小泉―竹中政権は、郵政民営化の一環として、郵政公社を窓口会社、郵便会社、郵貯会社、簡保会社の4つの株式会社に分割しようとしている。
しかし、郵便事業のあり方についても、上記のようにいろいろなやり方があるわけである。
わが国においては、本当にどういうやり方がいいのか、民利国益を根本において、主体的に検討することが必要なのである。

郵便・郵貯・簡保等の分割民営化は、相当手を講じても、郵便のサービスの低下を招く。
郵便局の数の激減、郵便と金融の分離による決済のしにくさなど、国民に不便をもたらす可能性が高い。
それに十分注意すべきは、現代世界では、郵便と物流ビジネスの境目がなくなってきていることである。
郵便を単純に民営化すれば、郵便会社のライバルは、クロネコ・ヤマトや佐川急便等の国内の宅配業者だけではなくなる。
DHLやFedExなど、外資の物流会社も本格的な競争相手になる。
その時に勝ち残れるだけの企業経営を確立しておかないと、新会社は途端に外資の食い物にされるおそれがある。

大体、日本に郵政民営化を迫っているアメリカでは、どうか。
郵便は株式会社になどしていないのである。
USPS(ユナイテッド・ステーツ・ポスタル・サービス)は国営の独立行政機関であり、職員は公務員である。
この公社は、信書・書状・広告郵便物・定期刊行物などを独占している。
自由主義経済の権化のようなアメリカ自身は、郵便事業を官業でやっているのである。

アメリカに言われるから、なにがなんでも民営化ということであれば、それは国民を欺くものとなろう。

●郵便貯金が狙われている
郵政改革で最大の問題は、金融部門である。
郵便貯金は、全国各地にある郵便局の窓口で預けられる。
少額でできる簡易で安全な貯蓄手段となっている。
元利払いを国が保証していたから、金が集まった。
簡易保険も同様の理由で人気があり、簡保に預けられている保険金は、国内の保険会社の合計額にほぼ匹敵する。
かくして、日本の国民の個人金融資産1400兆円のうち、約4分の1が、郵貯と簡保に預けられている。
郵貯が228兆円、簡保が117兆円、合計で345兆円である。

この大切なお金が、アメリカに狙われている。
安易な民営化は、国民の資産に外資が食いつけるよう、市場に引き出すものとなる。

郵政公社はいまでも、世界最大の金融機関である。
郵貯の預金高は、日本国内の銀行の総預金高にほぼ匹敵する。
郵便・保険・窓口とともに分割して株式会社にすると、世界最大のメガバンクの誕生となる。
その規模たるや、シティ・グループの4倍である。

竹中郵政民営化担当大臣は、郵貯・簡保の資金を市場に開放することが、日本経済の活性化になるという。
しかし、新銀行の誕生には、さまざまな懸念が出されている。
これに対し、竹中氏はまっとうな説明をしていない。
郵政民営化への反対論が高まるのは当然である。

郵貯銀行は、それ自体が、外資のM&Aの格好の対象となるだろう。
韓国では、IMFの管理下に入ってから、激しい吸収・合併によって主要銀行は3行のみとなった。
そのうち2行は株の7割を外資が保有する。
残り1行も6割近くが外資の保有となっている。
日本も、来年、三角合併が解禁となると、東京三菱・三井住友・みずほですら、買収されないとは限らない。
そして、外資にとって、最大の獲物となるのが、新しい郵貯銀行ということになるだろう。

別の懸念としては、郵貯銀行の資金運用を完全に自由化した場合、大量の金が市場に流れるということがある。
あり余った金は、投資先として株式や土地に向かい、新たなバブル現象を引き起こすかもしれない。
また、郵貯銀行が無制約の運用を行うと、財投で購入しつづけて保有している膨大な国債を売却するかも知れない。
これは、国債の暴落を招き、国家財政に重大な危機を生じるだろう。

これまで、郵貯の資金が財政を支えてきたといういびつな構造が続いた。
かつては資金が直接、財政投融資に回っていた。
その約4割程度とはいえ、巨額であることは間違いない。
現在も財務省が発行する財投債を購入する形で、郵貯が財政の相当部分を支えている。

郵貯228兆円、簡保117兆円は、国営であるから、実態は国債と同じことで、国の債務なのである。
この郵貯・簡保の資産が、財政投融資によって、かなりの部分が特殊法人の赤字補填にまわされてきた。
郵貯銀行の資金が国債・公債の購入に回らなくなると、日本の財政は途端に逼迫するのである。
そして、日本経済が弱体化し、企業や銀行の株価が下がりきったところを、アメリカの投資家が、次々に掌中に収めていく。
濡れ手に粟とはこのことだろう。
その時、狙われている最大のごちそうが、民営化された郵貯銀行株式会社ということになる。

小泉―竹中政権は、日本国民の大切な郵便貯金を外資に差し出す愚行を進めているとしか、私には思えない。
簡保については、もっとそうである。

●民営化に米国保険業界の要望あり

簡保に預けられている保険金は、国内の保険会社の合計額にほぼ匹敵する。
この大切な財産に、アメリカが目をつけている。

小泉―竹中政権は、郵政民営化を強行しようとしている。
その背後には、アメリカ保険業界の要求がある。
日本生命、住友生命、明治安田生命など、わが国の保険会社は、不良債権と低金利の影響で経営が厳しくなっている。
そこへ、アフラック、アメリカンホーム・ダイレクトなど、アメリカの保険会社がすごい勢いで進出してきた。
毎日何回となく、テレビ・コマーシャルが流れ、日本の保険と比べていかに有利かが視聴者の脳裏に刷り込まれる。
自動車保険や医療保険など、どんどん顧客は外資に流れている。
そういう中で、日本の保険業界にとどめをさすことになるのが、郵政民営化なのである。

アメリカの保険業界は、日本の郵貯・簡保に対して敵意を剥き出しにし、官業としての優遇措置を廃止せよと圧力をかけてきた。
とりわけ簡保を解体して、日本の保険市場を垂直統合しようと図っている。

米国は、郵便事業と簡保を切り離して完全民営化し、全株式を市場で売却しろと要求している。
竹中大臣は、米国政府及び米国保険業界を代弁しているに過ぎない。
規模の大きすぎる簡保は独占禁止法違反だとして、分割・解体することまで、米国は要求している。
わが国の政治家は、こういうことを内政干渉だと言えないから、中韓の内政干渉(靖国・教科書等)にも、はっきり反論できないのだろう。

米国は監督官庁を移せとも要求している。
郵政3事業は総務省管轄だが、民営化すれば簡保は純粋な保険会社になる。
だから、金融庁の管轄下に移管せよというのである。
公正取引委員会を内閣府に移させたのも、米国資本の進出の際に、政府機関を使って揺さぶりをかけるための布石だった。
平成12年(2000)の要望書で、所管庁を総務省から内閣府に移すよう要求した。
総務省は郵政事業を管轄しているため、同じ傘下にある公正取引委員会が郵政民営化において中立に動くか疑わしい、というのが理由だ。
要望の出た3年後に、公取委の所官庁が変わった。

国民にこういった事態を知らせないまま、小泉―竹中政権は、日本の将来を左右するような郵政民営化を強引に決定しようとしている。
反対派の方も、綿貫民輔氏を中心とする郵政事業懇話会など、郵政族の行動は、既得利権や票田を守るためでしかないように見える。
マスコミも表面的な報道が多く、最も核心となるところを国民に明らかにしていない。

郵政事業が分割民営化されれば、切り離された新簡保会社は、一番先に外資の餌食になるだろう。
アメリカの保険会社は、新簡保会社をM&Aによって傘下におさめることができる。
不良債権で含み損の多い日本の保険会社は株価が安い。
株式交換による三角合併なら、手に入れるのは、苦もないことだろう。

●アメリカ主導の郵政民営化はやめよ
小泉―竹中政権になって以来、アメリカの要望が、ほとんどそのまま日本政府によって実行されるようになっている。
日本政府は米国政府の出先機関かと見まがうばかりである。
国の指導者が進んで、アメリカに日本を身売りするかのような、おかしな政策を行っている。

一方、小泉改革への「抵抗勢力」には、既得権益に固執し、国の資産にたかっている守旧派が多い。
大衆は小泉氏の表面的なパフォーマンスのみ見てこれを支持し、マスコミは「抵抗勢力」イコール守旧派というような単純な報道を繰り返してきた。

しかし、明らかにしなければならないのは、郵政民営化はアメリカの要望であるということである。
そして、米国の圧力や「年次改革要望書」「対日投資会議」などすべての背景が、国民に知らされねばならない。

郵政改革の議論は、単に郵政改革をどう行うというかという範囲で論じられているのでは、意味がない。
郵政改革を通じて、特別会計を国民監視に置くことが目指さなければならない。
言い換えると、国家財政の透明化である。

本来の財政は一般会計と呼ばれ、国会で予算・決算が審議・議決される。
これ以外に、31の特別会計がある。
特別会計とは、財政法によって、国が特定財源を使って特定の事業をする場合や、特定の資金を保有し運用する場合などに限って、設置を認められているものである。
しかし、いまや特別会計は一般会計の数倍に膨れ上がっている。

一般会計は約82兆円。
その中には、特別会計への繰入額47兆円が含まれる。
これを差し引くと、一般会計の歳出は35兆円。
これに比べて特別会計は、232兆円もある。
6.6倍である。
その途方もない金額を、国会の承認を必要とせずに、官僚が勝手に使っている。

特別会計は、一般会計で認められなかったような事業を、官僚・族議員・業界の三者が組んで行う仕組みになってしまっている。
ここに、各省の既得権の温床がある。
各省各部局は、独立した帝国のように振る舞っている。
首相でさえ、財政の全体を掌握・統括できない。
そして、それぞれの族議員は、特別会計に隠された利権から利得を吸い上げている。
この構造の全体像を明らかにし、抜本的な改革を行わなければならない。

財政改革の第一歩として、特別会計の透明化、合理化は急務である。
郵政改革は、こういう大きな課題の一部として進められなければならないものである。

改めて言うと、私は現在の郵政民営化論に反対である。
慎重に時間をかけて再検討すべきである。
小泉―竹中政権の郵政民営化案は、郵政公社を株式会社にし、郵貯・簡保345兆円を市場に出すことに絞られて来た。
これが強行されれば、国民の貴重な資産はアメリカに奪われる。

現在の郵政民営化案は、「アメリカによる日本改造」に手を貸すものでしかない。
政治家も国民も目を覚まさなければならない。
特に国民の代表である国会議員の役割が問われている。
党利省益や私利私欲ではなく、日本の運命、日本の将来という観点から、判断を誤らないようにしてほしい。

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