■住民投票と民主主義
朝日新聞 2015年6月22日◆政策、市民が決める重み
「140万人もの投票はすごい。
有権者は『もう関係ない』じゃなく、大阪の政治をずっと見ていく」
19日夜。
安全保障関連法案をめぐる意見で、再び注目を集めていた橋下徹大阪市長(維新の党最高顧問)は、市内のホテルに集った1千人超の後援会員や支持者を前に、そう語った。
1カ月前の5月17日。
「大阪都構想」の是非を問う住民投票は、投票率が66・83%に達し、結果は0・77ポイントの小差で反対票が上回った。
橋下氏は
「日本の民主主義を相当レベルアップした。
大阪市民の皆さんが、おそらく全国一、政治や行政に精通している」
と述べた。
39回開かれた市の説明会はほぼ満席。
のべ3万2千人余りが耳を傾け、約1300の質問や意見が寄せられた。
大阪維新の会のタウンミーティングも昨年から700回近くを数えた。
都島区の女性看護師(43)はデビューの2008年知事選も、市長に転じた11年大阪市長選も、都構想推進に向けた14年の出直し市長選も、橋下氏に投票した。
「高齢者にこびる政治家が多い中、この人なら変えてくれる」
と感じた。
ただ、今回の橋下氏には不満が残った。
「今まではマイナス部分もきちんと話していた。
でも今回はプラス面だけ。
マイナス面がないはずないのに」
新たにできる特別区の財源、住民サービスの維持、住所変更に伴う住民負担……。
説明会では
「良い点も悪い点も正確に言って」
との指摘が出た。
橋下氏は何度もこんな説明をした。
「僕の問題意識を聞き、役所を一から作り直そうとなれば賛成。
問題意識すら納得できない、役所を作り直す必要まではない、と考えるなら反対となる」
自分たちの生活に痛手となるのでは。
看護師は迷った末、反対票を投じた。
(野上英文、太田成美)◆原発再稼働、県民に委ねるか
有権者が政策の是非を直接選択する住民投票。
ただ、都構想をめぐる大阪市の投票は、橋下徹市長が自らの政策に信任を求めた形で、特異な例だったと言える。
一方で、住民側から命や暮らしに関わるテーマを問いかける試みはどうか。
原発や米軍基地問題などを抱える地域住民の「自己決定権」を考える。
各地で住民投票を求める動きがあっても、実現していないテーマがある。
原発の再稼働だ。
中部電力浜岡原発がある静岡県では2012年8月、住民団体が16・5万人分の署名を集め、再稼働の是非を問う県民投票の実施を川勝平太知事に直接請求した。
知事は賛同する意向を示したが、県議会は住民投票条例案を否決した。
ただ、議会側の思いは住民投票を頭から否定するものではなかった。
最大会派・自民改革会議の県議、天野一・元議長は、当時否決した理由を
「中部電力は再稼働を国に申請しておらず、時期尚早との判断もあった」
と説明しつつ、将来の可能性に含みを持たせる。
「もし事故が起きれば、人が住めなくなるかもしれない。
そんな重大なことを議会だけで決めていいのか。
間接民主主義では決めきれない課題が出てきた時、県民投票はすごく大事なものだ」
川勝知事も、今月8日の定例会見で住民投票について「基本的には賛成だ」としつつ、「差し迫った課題ではない」と語った。
住民投票の可能性は否定しないが、いまは時期でない――。
そんな姿勢を見せる議会や知事の念頭には、電力会社が再稼働する際に立地自治体の「同意」を得る枠組みがあるようだ。
安倍政権は、政権発足後の再稼働第1号と目される九州電力川内原発で、地元自治体の首長や議会から同意を得た。
中部電力はこれまでに原子力規制委員会に浜岡原発3、4号機の審査を申請。
結論はまだ先だが、政権が同じ手順を踏むなら、静岡県や立地自治体などの議会や首長は厳しい判断を問われる。
12年に直接請求をした住民団体の共同代表、佐久間章孔(のりよし)さん(67)は
「議会や首長が○×を付けられない時に住民に委ねるのはありだと思う。
熟議の期間を設けた上で住民が決めることには意義がある」と言う。
(関根慎一)◆自ら決める権利、沖縄探る
英国では、昨年9月にスコットランドの独立の是非を問う住民投票が行われた。
結果は賛成45%、反対55%。
英国からの独立は認められなかった。
だが、独立をめざすスコットランド民族党(SNP)は存在感を高め、自治権拡大を掲げた今年5月の英国総選挙では、スコットランドに配分された59議席のうち56を獲得し、第3党に躍進した。
スタージョン党首は、総選挙の結果について「スコットランドの要求を(中央政府に)しっかり理解させる機会をもたらした」と自信を見せる。
この動きに、日本が抱える問題を考える手がかりを見た人がいる。
スコットランドの研究をする島袋純・琉球大教授。
昨秋、住民投票を迎えた現地を訪ねた。
戸籍制度のない英国では、自治体が毎年選挙人登録を行う。
SNPや独立推進派団体は、登録から漏れがちな貧困層の人らにも働きかけた。
公民館や教会などで集会も開き、独立や自治権拡大に理解を深める話し合いも重ねた。
印象に残ったのは投票日の光景だ。
特に賛成派は投票者を独自にチェック。
来ていない人の家を訪ねて投票を呼びかけた。
「欧米の民主主義は国民が自らの人権と自己決定権を勝ち取り、内外に宣言してきた歴史だ。
日本ではピンとこないかもしれないが、スコットランドで見たのは自らが決める権利を勝ち取る運動の姿だった」
島袋氏が暮らす沖縄県では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、政府と県との対立が続く。
昨年の県知事選や衆院選を通じて辺野古移設に反対する民意が示されたが、国は移設推進の政策を変える姿勢を見せていない。
その沖縄で昨年、普天間閉鎖と県内移設阻止などを求める超党派の運動体「島ぐるみ会議」ができた。
共同代表は県内建設大手の経営者らが務め、政財界人や島袋氏ら学識者らが発起人に名を連ねた。
結成文には「沖縄のことについて沖縄の人々が決める権利」の一文が盛り込まれた。
島袋氏は語る。
「沖縄はまだスコットランドに遠く及ばない。
でも今、基地反対の声は自己決定権を求める動きと合流しつつある」
(渡辺志帆=ロンドン、秋山訓子)
基地問題は国の安全保障の問題だ。
ちまた言われるような、日本から独立したいなら、スコットランドのようにそういう住民投票やればいい。
しかし、基地がいるか、いらないか、なんて住民投票やり出したら、一体、どこの地域の住民投票で賛成が通る?
原発もそう。
個別の地域で賛否を問うのではなく、原発自体の存続を問うのであればいい。
個人的にも、反対に票を入れる。
それで太陽エネルギーはじめ、他のエネルギーを真剣に考えるきっかけになればいいと思う。
基地にせよ、原発にせよ、今までないところに新たにつくるというなら、住民投票あってもいいが、
今まであるものを止めるのに住民投票するのは違うと思う。
もし、沖縄基地で住民投票するなら、
辺野古基地をつくるか、つくらないかですべき。
そして、その結果、「つくらない」となった場合、
普天間基地継続で、何があってもその結果を甘んじて受け入れるしか、ないだろう。
それも嫌だというなら、『沖縄』独立の住民投票をホントにすればいい。
シビアな現実をスコットランド同様、確認できるだろう。
現実の『基地必要』論を「上から目線だ」とヒステリックに叫んで聞く耳持たず、不毛な時間を単に過ぎるより、
冷静に、政府から示談金をふんだくることを考えてはどうか。
むろんそれは、例によって一部だけが潤うものでなく、
例えば、『消費税ゼロパーセント』とか、ケイマン諸島みたいに『タックスヘブン』の島にして、日本はおろか、世界中の会社事務所が集まるようにするとか、県民皆が潤える政策を考えればいい。
こんだけ頑張ったんだ。
ある意味、政府にどんな要求でも飲ませられるチャンスではある。
もはや、駆け引きなら、その時は過ぎた。
本気で『沖縄独立』の住民投票でもやらかして、結果が『ノー』となってからでは、貰える見返りは目減りする。