転載元: 大阪都 ――体制維新(橋下徹×堺屋太一)「鉄のトライアングル」を打ち破れ
都市間競争に勝つために
「大阪都構想」は政治の目的ではありません。あくまでも手段であり、装置づくりです。目的は、世界レベルの都市間競争に打ち勝つこと、住民に近い役所を中心に、大阪市のコミュニケーションの再生を図ることです。今の大阪市内の住民のコミュニティー、様々な地域団体は高齢化の問題を抱えています。町内会、社会福祉協議会、民生委員、防犯協会、青少年指導員…これら地域にとって核となるべき団体のメンバーは、ほとんど同じ顔。そして世代間交代も望めそうにありません。やはり、予算の決定権がある役所が地域の核にならないと、地域活動も活性化しない。今の大阪市の状態は、地域コミュニティーから遠い、すなわち都道府県庁に匹敵する大阪市役所に、地域住民が地域に密着した課題を要望する形になっている。区役所に言ったところで何の予算権もありません。ゆえに、自分たちの活動と行政施策の関連性を実感することが難しい。住民に近い、決定権のある役所が身近に存在すると、住民は自分たちの要望、活動と行政施策の関連性を実感し、自分たちの行動で地域がこうなったということを強く感じることができる。そういう状況になれば、住民が自分の地域活動の意義を認識し、さらに地域活動に力を入れるようになるはずです。地域コミュニティーの再生ということがよく言われ、有識者は小難しい御託を並べますが、一番重要なことは、地域活動がキチンと行政施策に反映されること、自分たちの活動で自分たちの地域が変わったことを住民に実感してもらうこと、これに尽きると思います。だからこそ、僕は、大阪市という大都市内に、住民に近い、そして決定権のある役所、すなわち特別自治区をつくる必要があると考えているのです。大阪都構想は、住民コミュニケーションが希薄化した大阪市内の地域コミュニティーを再生させる起爆剤です。よく誤解されるのですが、「大阪都構想」が実現したからといって、すぐに住民サービスが具体的に変わる、ということではありません。装置をつくる話ですから、保育所が増える、健康保険料が下がる、学校が増える、といった施策の話とは違います。このような施策を住民の皆さんの意向で決めることができるシステムをつくる話です。今の大阪市役所の体制だと、各区長の皆さんの意向だけでは決定できません。平松市長、大阪市役所は、「各区長に予算編成権は渡さない。大阪市の一体制が崩れるから」と明確に反対しています。しかし、この主張は論理として成り立ちません。基礎自治体が提供する住民サービスについて、人口260万人で一体性を保つ必要はありません。全国1700ほどある市町村は、全て独自で住民サービスを決定し、それぞれがある意味バラバラです。大阪府内の市町村もそれぞれが特色ある住民サービスの提供をしています。それが基礎自治体です。住民サービスの選択の仕方が各区でバラバラになる…むしろバラバラになることの方が住民自治・地方分権なのです。基礎自治体が提供する住民サービスのことまで大阪市の一体性を守らないといけないと言うのは、まさに中央集権です。大阪版〝鉄のトライアングル〟
大阪市の人口が多過ぎ、大阪市役所が住民から遠い巨大な役所であるために、市役所への住民の監視が行き届かない問題もあります。大阪市役所は特定の地域団体を支援し補助金を配り、そこが市長選の選挙マシーンとして動いています。その代表的なものが、地域振興会という自治会組織です。地域振興会は市役所から補助金や交付金を受けます。その地域振興会が現職市長の後援会組織をつくるのです。現在の地域振興会は、前回の市長選のときには関・前市長を応援しましたが、関市長は敗れ、平松現市長が当選しました。そうしたら、今度は平松市長の後援会組織に鞍替えです。市役所から補助金や交付金を受けてる団体が、現職市長の後援会となる。市町村である基礎自治体では当然のことなのでしょうか?広域行政体の長である僕の感覚からは信じられません。大阪府が補助金や交付金を出している団体が、僕の後援会をつくると言えば、即座にお断りします。僕の後援会の会員が、府の事業の公募に応募したというだけで色々取り沙汰されましたし…中には、そうした市から地域振興会への補助金が、巡り巡って市役所OBの報酬に充てられていたケースが判明したこともあります。また地域振興会が、公益性のない娯楽ショーを会員の慰労金など目的不明朗な基金約1200万円の補助金の積み立てもあった。そして市公正職務審査委員会がこれらのおカネを取り戻すよう、平松市長に勧告したにもかかわらず、1年間放置。市長選挙が近づき、地域振興会の機嫌を損ねることを恐れ返還請求に及び腰になった、との新聞報道もありました。霞が関では、役所があり、業界団体があり、政治家がいて、政官業の癒着、「鉄のトライアングル」と言われています。大阪市の場合は、市役所があり、業界団体の替わりに自治会組織や地域の団体組織があり、そこに役所からおカネが流れ込むという構造です。地域振興会を通じて、市役所OBに還元することまで行われ、地域振興会の補助金の使い方について極めて疑わしいものがある。地域振興会はその補助金をもらう代わりに市役所を守るため現職市長を応援すると思われても仕方がない。市役所職員の労働組合も組合と市役所を守ってくれる立候補者をフル稼働で応援すると思われても仕方がない。これが、地域団体組織、市役所、市長による「大阪板トライアングル」です。公金を使った「政治活動」
現職市長は、市長選が近づくにつれ、市役所の幹部を連れて各地域でタウンミーティングを行ったり、役所主催の様々なイベントを行ったり、ありとあらゆる地域行事に参加し、地域回りを徹底してやります。その際、市民とのコミュニケーションという名目で、行政活動の一環として、役所の人員や公金を使う。名目はどうであれ、実質は政治活動と同じです。選挙前になれば、行政は相当慎重にならなければいけない。それが政治への配慮です。市役所の運営資金である公金、税金は様々な政治的主張を有する人たちから強制的に集められたものです。大阪維新の会を支持する人たちから徴収された税金ももちろん含まれます。だからこそ、市役所という立場で政治的首長や活動を行ってはならないし、たとえ明確な政治的主張や活動にあたらなくても、そのように疑われる言動も自ら控えなければならない。これが政治と行政の適切な距離感です。僕は府庁組織に対して、政治と行政の峻別を徹底するように指示を出しています。大阪維新の会の活動に府庁が協力していると疑われないように細心の注意を払っています。露骨な地下鉄キャンペーン
大阪市役所の露骨な動きはこれだけではありません。「大阪都構想」には大阪市営地下鉄の民営化が含まれます。その大阪市営地下鉄は今、阪急電鉄や近鉄でもやらないような組織イメージを高めるテレビCMを大々的に流している。市の税金を数億円の投じて「市営地下鉄はこのままでいいんです」という大キャンペーンを張っているのです。加えて、10月・11月・12月の3ヵ月間にわたり、市営地下鉄は割引を行います。厚顔無恥とはこのこと。11月の市長選対策なのは見え見えです。市役所挙げての総力戦と言っていいでしょう。現在の市営体制を守るために必死の防御線に出ているのです。行政は本来、政治から中立でなければならないはず。霞が関の官庁がこれほど露骨に、特定の政党、政治家を支援したら許されるワケがありません。市役所の職員組合が全力で市長をバックアップする。そして職員組合と市役所が一体となる。となると市長は職員に対して厳しい改革などできなくなります。職員や大阪市役所、そして大阪市内の地域組織が一丸となって市長を担ぎ、予算を 食い合う構図になりかねない。これが中之島一家、大阪市役所体制です。大阪市の区役所改革のまやかし
大阪維新の会が11年の春の統一地方選挙で躍進した結果を受けて、さすがに大阪市役所も区長が選挙で選ばれない、区役所が権限も財源もほとんど持っていない問題点に本気で取り組まないとまずいと思ったのでしょう。最近になってようやく、区制を改革し区役所の権限を強化する、と言い出しました。ところが、結局のところ市役所が権限と財源を握っておくというところは変わりありません。市役所が大阪市内の権限と財源を握っておくことを守った上で、どう区役所改革が行われたように見せるかに腐心しています。住民自治のために、市役所の権限と財源を区に渡すという発想は全くありません。まさに地方分権に反対する中央官庁の考え方と瓜二つです。特別自治区設置に反対する大阪市役所の理屈は、地方に権限と財源を移譲することに反対し、関西広域連合に国の出先機関を移譲することに反対する、霞が関の理屈と同じなのです。大阪市役所の区役所改革案の一つに、住民アンケートで区長を評価する制度を導入するというものがあります。このアンケート結果を基に区長の人事評価をするというのです。あくまでも最終決定権は市長、市役所が守ります。2011年春の統一地方選挙前に大阪維新の会主催で大阪市内の各区においてタウンミーティングをやりました。会場に集まった数百名の区民の皆さんに区長の名前を聞くと、数名以外は誰も知らない。区民の圧倒的多数は自らの区長の名前すら知らないのです。選挙で選ばれることもなく、2年の市役所人事で異動となる区長の名前を一般の区民の皆さんが知るワケもありません。こんな状況で評価する住民アンケートに、どんな意味があるのでしょうか。区制会議の欺瞞
さらに、区長を中心に、区政会議という地域住民を集めた会議を新たに開くことにしたようです。しかし、メンバーは市役所・区長が選んでいます。市役所、そして市役所の部下である市役所職員の区長、さらに、これら市役所や区長から選ばれた住民が集まる会議とは、一体誰の代表なのでしょうか?住民代表のワケがない。これは市役所、区役所の行政活動を円滑に進めるための行政会議に過ぎません。この区制会議のメンバーが、住民のために市役所や区役所と闘うワケがない。住民代表とは、最後には住民のために、役所や既得権益と闘う人のことを言います。役所の仕事を円滑に進める人たちは、役所の補助機関です。僕が仮に国家公務員で(あり得ませんが)、大阪府知事に国から派遣された立場なら知事在任中のような活動はしなかったでしょう。いかに国との関係を良好にして、大阪府政が円滑に進むかだけを考えたと思います。しかし、僕は選挙によって大阪府民に選ばれた。だから、府民のためにやらなきゃいけないときには徹底的に戦ったつもりです。結局、市役所による区役所改革とは、現行の制度枠内でお茶を濁す程度のもの。また、市役所は区長の予算を10倍に増やす方針も示しています。それでもたかだか20億円。人口10万人、大きいところでは20万人を超える区もありますが、同じ人口規模の基礎自治体の予算と比べても、小さ過ぎることに変わりはありません。人口10万人の大阪府連池田市の予算規模は約350億円(2011年)なのですから。住民に区長の評価をしてもらう、住民の声を反映させるための区政会議を開く、予算も増やしていく…「大阪都構想」と方向性は近いものがありますが、肝心の区制長公選制は否定し、区長の予算編成権も否定する。区長の人事権や区の予算は市民が握ったまま。似て非なるもの―― とはこのことです。平松市長や大阪市は、国や大阪市に「権限と財源をよこせ!」と言う。僕は地方分権の流れからそれは当然だと思う。しかし、平松市長や大阪市は、区に中核都市並みの権限、財源を渡すつもりはない。大阪市が権限財源を受けるところまでを都合よく地方分権と言ってるだけ。地方分権とは、住民の近くにできる限り権限と財源を移すことです。to be continues.
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橋下市長候補のつぶやき/体制維新(5)
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