桜宮高 生徒・保護者が初告白
「バスケ部と家庭の真実」大阪市立桜宮高校のある生徒が意を決してこう語る。「Aは亡くなったとき、実はバスケ部員たちは、『先生の体罰が原因じゃない』と言っていた。Aには他にもっと悩んでいることがあったから」これまで桜宮高校で起きた自殺の原因の問題は、すべて「体罰が原因」と報じられ、橋下徹大阪市長などもそう主張してきた。桜宮高校バスケットボール部で、K顧問が部員に手を上げる指導、つまり「体罰」が行われていたことは、K氏本人も認めている通り事実である。(略)しかし、冒頭で告白をしたのは、自殺したバスケ部キャプテンA君の同級生で、日常的に深い付き合いがあった生徒である。A君の悩みとはなんだったのか――(略)「市長が『桜宮は腐っている』と煽るので、運動部と関係のない普通科の子までが桜宮というだけでバスに乗せてもらえなかったり、通学途中に罵声を浴びたりしておるんです。校舎の窓には投石され、自転車も嫌がらせでパンクさせられるといういわれのない差別がある現状を知ってほしい」(桜宮高校関係者)(略)橋下市長の主張通りに、桜宮高校の今春の体育系の募集はなくなり、代わりに「普通科」が受け皿となることになった。一連の体罰問題とは何も関係ない。受験生にまで影響は拡大した。これには批判の声も上がっている。市教委で唯一、「体育科」の存続を主張した長谷川恵一委員長はこう語る。「桜宮高校内でのアンケートによれば、普通科も体育科も体罰の数は変わらない。だから、体育科をなくして生徒を普通科に入れるのは辻褄が合わないんです。子どもらの目線からしても、今回の措置は根本的な解決にはなっていない」「夜回り先生」こと、水谷修氏も、橋下氏の姿勢について疑義を呈する。「短絡的に学校すべてを否定し、子どもを巻き込む彼のやり方には納得できない。これは虐待です。罪もない子どもたちの幸福権を奪うのは基本的人権の侵害ですよ。本当に弁護士なのか、と思うくらいです」前出の桜宮高生徒も橋下市長には言いたいことがあるという。「バスケ部の保護者、生徒が前々から大阪市議を通じて橋下市長に面会を申し込んでいるんですが、受けてもらえていない。Aのご家族に会うのは当然だけど、どうしてもう一方の当事者のK先生やバスケ部員には聞き取りをしないのか。両方の話を聞いていないのに、それでよく桜宮のことを腐ってるなんて言えるなと思います」橋下市長はテレビ朝日の番組で、桜宮高校には「報道されていない問題がある」という旨の発言をしたが、具体的な内容を問われると、「ネットに書かれている。ネットをを見てください」と無責任な逃げ方をした。果たして橋下市長は、桜宮高校の実態を本当にわかったうえで、入試中止の要請など、重大な決断を下しているのだろうか。(略)桜宮高校バスケ部は、過去5年間で3度インターハイに出場するなど、大阪屈指の強豪として知られる。K顧問はその指導力を買われ、昨年から16歳以下日本代表のアシスタントコーチも兼任している。「K先生にバスケを教わりたくて入学する部員がほとんどですね。もちろん指導が厳しいことは中学生にも知れ渡っているし、いわゆる体罰があることも周知の事実やった。それでも桜宮に行きたい、という子が集まっているんです」(バスケ部OB)A君もそのうちの一人だった。「A君のお母さんはバスケ経験者で、K先生の一種の信奉者でした。保護者のあいだで、K先生の指導法を一番と言っていいほど容認していました。他のお母さんが『一発でも、手を出したら体罰じゃないの』とK先生に抗議しようとしたとき、『桜宮のバスケ部に入ってきた以上、覚悟があるでしょう』『厳しい指導は承知で入部してきたんじゃないの』などと先頭に立って諌めたこともあります」(同前)橋下市長の発言や一連の報道を見ていると、K顧問は粗暴な暴力教師にしか思えないが、実際に接してきた人達の印象は違うようだ。バスケ部関係者が言う。「先生は『勝利至上主義』みたいに言われてますが、実際は『たかがバスケ』という考え方の人。『僕はバスケを教えたくて教師になったんじゃない。教師になりたいから教師になったんです』が口癖で、どちらかと言えば自主性を重んじるタイプの指導者です。試合ではベンチ入りメンバーも選手同士で決めさせたりするし、テスト前になると、『勉強も頑張らなアカン』って言って放課後の練習時間を割いて皆で勉強させられます」では、K顧問はどのようなときに体罰を加えていたのだろうか。「ウチは公立なので、とくに才能のある選手が集まるワケではないんです。それでもエリート校に本気で勝つには、細かいプレーでも全力でやるしかない。なので、ちょっとサボったり、気を抜いたプレーをするとパンって飛んできますね。でも先生が手を出すのは上級生だけ、それも理不尽に叩いたり、気分ですることは絶対にありません。叩かれるときは、自分も『うわ、バレた』って感じのときなんですよね。だから、体罰とは思っていなかった」(前出OB)昨年、大阪府の新人戦でチームが優勝した際、K顧問は保護者を前に、涙ながらにこう述べたという。「今回、結果が出せたのは、試合に出られずとも、試合に出るメンバーを陰で支えてくれた子ども達のおかげです。彼らなくしてこの結果はなかった」そのK顧問が次に部員たちの前で涙を見せたのは、皮肉にも昨年12月24日、A君の通夜の会場だった。出席者が現場の様子を明かす。「K先生はA君のお父さんのご挨拶が終わったあと、お母さんに御霊前に来るように言われ、謝罪を要求されました。『体罰だと言え!』と何度も何度も怒鳴られて、大きな声で『体罰でした、すみませんでした』と2回、3回言わされ、土下座させられた。その後、低血糖症で倒れてしまい、校長先生と教頭先生がK先生の両脇を抱えて引きずるように車に乗せ、帰っていきました。会場の入口付近に部員が何人かいて、先生が出て行く際、彼らに向かって『ごめんなあ、ごめんなあ』って何度も謝っていた。その姿を見て、ある部員は『悔しい!先生は悪くないのに!』って泣き崩れていました」「先生は悪くない」とはどういうことか。まず、A君がバスケ部のキャプテンになった昨年10月に遡ろう。新チーム発足のミーティングの際、A君は自ら、「俺、やりたい」と立候補したという。(略)「正直、レギュラーになるには苦しい実力だったけど、それでも『キャプテンやりたい』って言ったのは、お母さんの教育方針だったと思います。キャプテンになると進学に有利だってAは考えていたから。部員は『お母さんに言われたからか』って茶化したりしていたけど、キャプテンは怒られ役だったりして重荷でもあるので、『やってくれるんなら、じゃあ』って感じでAに決まった」(前出・生徒)A君には兄がいる。福岡のバスケ強豪校から早稲田大学に推薦で進学。A君は憧れの兄と同じく、「早稲田か同志社に推薦で行く」と周囲に語っていた。「お母さんはとても熱心な方で、毎試合必ずビデオで撮影し、家に帰ったA君と一緒に何度もそれを見て反省会をしていたそうです。息子を早稲田が同志社に行かせたい、とすごく期待もしていた。A君も期待に応えられるよう頑張っていましたが、『ビデオを正座で見せられるのが嫌で、家に帰りたくない』って部員に漏らしたこともあったそうです」(前出・バスケ部関係者)しかし、A君はキャプテンとして高い壁にぶつかることになる。「技術的にはまだ発展途上ということに加えて、A君は口下手だから、思ったことを周りにきつく言っちゃう、というか、上から言うところがあった。去年の冬、そのことをチームメイトみんなに強い口調で咎められたことがあった。そういうこともあり、キャプテンなのに部内でもちょっと浮いた感じになってしまっていた。K先生も最初は『意見をぶつけ合うことは大事だ』と言ってたんですが、12月中旬には『キャプテンを替える』と決めたそうです。『このままだとAがつぶれてしまって、バスケができなくなってしまう。それじゃ意味がないから』と」(同前)A君本人もその頃には、「もうキャプテンはやめたい」「部をしばらく休みたい」と親しい友人に打ち明けていたそうだが、母親からは「自分から立候補したのに、自分から降りると言ったら信頼をなくするよ」と忠告されていたという。「12月16日、K顧問が部員に『キャプテンをどうするか。皆で話し合って決めなさい』と言いました。それで『どうしようか』と皆で話している最中に、Aが一人で先生のところに『続けさせてください』って直談判しに行った。18日にもAはK先生と話し合ったけど、話し合ったけど、うまく自分の思いが伝えられなくて、早稲田に通うお兄さんに高校時代、コーチに思いを伝えるために手紙を書いたことがあるらしく、じゃあAも書こう、ってことになった」(前出・生徒)
息子を殺される前の母親の考えや発言をここに持ってくるなんて、下劣極まりない。
さすが文春。