須田:藤井さん、桜宮高校の件では、自殺されたお子さんの親御さんが刑事告発に踏み切りましたよね。“指導死”のケースでは、そういった民事・刑事について法律的責任を問われることが多いんですか?共通前提のある閉鎖された空間の中で済んでいた話がいきなり法律での対応になると、二重規範で許されない状況になりませんか?藤井:今の話に通じますが、あとで民事裁判になったり、刑事告発されて刑事裁判になる場合もある。ただ、これがなかなか大きな刑事事件にならず、民事の方が長く続いたりります。学校を監督責任の不履行で訴えるとか、学校の対応が不誠実だったから損害賠償を請求するとか、それから事故報告書を開示させるための情報開示の請求裁判なんてものもあります。色んなことで事実関係を知るしかないわけですけど、そうなってくると、学校の先生や教育委員会は自分たちが負けるかもしれないから、最初から体罰やいじめがあったことを認めたくないんです。最初から認めると、後々の民事裁判で横柄な要求をされてしまう。だって、被害者側は「最初から認めているじゃないか!」ということになる。「ごめんなさい」で済むことは言えるけれど、裁判になりそうなことで急に口をつぐむのは、そういう背景があります。しかし、今回橋下さんは事実関係がよくわからない段階から「責任がある」と言って、処断しました。後々これがどういう風に影響してくるのかと考えてしまいます。裁判の話は、僕の感覚では全体の1割ぐらいの方が民事裁判に持ち込まれ、真相究明をしています。それは、命をお金に換算することしか、事実を究明する方法がないからです。しかし、それでも因果関係が100%認められるのは、なかなか難しい。桜宮高校の件も週刊文春が全然違う視点の記事を出しましたが、例えば、今後もし民事裁判になったら、大阪市側が体罰はあったけれど、自殺との因果関係は認められないという主張をしてくるかもしれない。ここは、これから遺族側が二重三重に苦労をされるところです。それぐらい因果関係の立証性というのは難しい。宮台:子供たちの置かれている状況は以前とは違います。例えば個人の問題で言うと、なにか引き金があったら自傷や自殺に踏み込みかねないような状況に置かれている子供が、かつてよりも増えているかもしれない。そういう時に体罰が行われれば、引き金になって死んでしまうことがある。完全に火薬が入っているから、引き金を引くと玉が出る。一般には、「火薬が充填されたのはなぜか?」「きっかけがあったら、死んじゃうような状態に追い込まれたのはなんであるのか」に注目するのが正当ですね。しかし、以前とは違ったことが起こってしまうかもしれない状況にあるのに、引き金になり得るような要因をたくさん残しておくのは良くないでしょ?だから、因果性の問題は別として、体罰はよくないわけですよ。以前は、容認できるような条件があったかもしれないけど、今はそういう条件が無いというのは、そういうことでもありますね。大谷:神奈川県の男性から質問が届いています。「私立でこの事件が起きたら、学校が潰れるという意見を聞きますが、本当ですか?」宮台:あまりそういうことは関係ないと思います。どういう船か分かっていながらあえて乗っているんだから、あとでツベコベいうのはどうなのかなと。今は学校がどういう環境なのか、完全情報化するなんてありえない。少なくとも、みんながそう思っているという状態もありえません。私立学校出身者だからよくわかるのですが、例えば、さっき言った世界観でいえば、昔はこの私立学校は“こういう学校”だったのかもしれない。それは正しいかもしれないし、みんなそう思っているだけの可能性もある。でも、今この学校がどういう学校なのかについて定かなことを、みんなが納得できるように言える人ってほとんどいませんよ。確実に言えるのは、以前とはどうも違ってきてしまっているということ。それが多くの場合「あの学校、昔はよかったのになあ」という話になっています。そういう人間達が、むしろ私立の場合にノスタルジーゆえに体罰を擁護したりする可能性があり、外から権力が入らない限り温存されている可能性さえある。藤井:私が書いた『暴力の学校倒錯の街(朝日文庫)』の舞台になった学校は私立ですが、この学校は事件後に名前を変えて普通に存続しています。そして、名前を変えた直後に亡くなってはいないけれど傷害事件になった、体罰事件を起こしているんですね。だけど、生徒の募集は相変わらず続けているし、募集をかけたら子供たちはちゃんと来る。学校にはそれほど大きなダメージにならないような気がします。「問題のある学校だから、子供を入れるのはやめよう」という親より、「子供には厳しいほうがいい!」と思考停止している親のほうが、層として圧倒的に多いと思うんですね。それは、公立でも私立でもほぼ関係ないような気がします。
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ハシズム・スプラッシュ/昔の理屈では体罰はなくならない3
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