「藤浪(晋太郎)なぁ、やっぱエエよ。ホンマにエエ。今回、初めて生で見たけど、力の入れ方もボールの伸びもエエ。去年の春のセンバツからまだ10ヵ月やろ。これだけ劇的に良くなった18歳なんて他に知らんよ。具体的な魅力? とにかくタマに力がある。それに尽きるわ。高3の甲子園で春夏連覇してるけど、春は大谷(翔平、日本ハム)のほうが評価が上やったんと違うかな。まぁ、まだまだ荒削りやったよ。ところが4ヵ月たって夏になったら見違えた。ぎこちなくてバラバラやったフォームがスムーズになってたんでビックリしたわ。去年の春しか知らん人が今の藤浪を見たらビックリやで。数段上の状態やな。俺が阪神にいた時に井川(慶)や藤川(球児)が入ってきたけど、完成度が全然違う。比較にならんくらいや」こう熱っぽく語るのは、阪神の春季キャンプ(沖縄県宜野座村)を視察中の岡田彰布元監督(55)だ。阪神で二軍監督を4年、一軍監督を5年歴任した筋金入りの〝虎将〟に今季の新戦力について尋ねると、飛び出すのは黄金ルーキー・藤浪への賛辞ばかりだった。
―― 細身なので、体力面の不安が指摘されています。
「でもな、ピッチャーとして最高の体型をしてると思うで。上背があって手も長い。これは持って生まれたもんやな。まだ現時点で華奢に見えるんは、しゃあないよ。井川も藤川もだんだんプロの体になっていったんや。自然と体は大きくなるから、周りがガヤガヤ言ってもしゃあない。練習してたら腹が減るんやから、そら、だんだん大きくなるよ」
―― 岡田さんが監督だったら、どのような起用法を考えますか?
「そら、あのボール見たらローテに入れなしゃあないよ。それぐらいの力がある。能見(篤史)、岩田(稔)、メッセンジャー、スタンリッジの次くらいやないか。ということは、5~6番手くらいの力があるってことよ。でも、仮に開幕ローテに入ったとしても、1年間(ローテ投手として)やっていけるかは分からんよ。これまでは高校生やから、春と夏の大会に照準を合わせる調整をしてきて、それがガラッと変わるわけや。まぁそれでも二ケタは勝てるんちゃうか。新人王? 当然獲れるやろ」
―― では、抑えについて。藤川が務めていた守護神の座は久保(康友)が引き継ぐことになります。
「俺が監督でもそうするわな。久保は器用なことが仇になってたと思うよ。長いイニングを投げるから、どっかで抜いてしまう部分があったんやね。
藤川だって元々は先発しとったんや。でも球数が多くなると、どうしてもガクッと球威が落ちたりしてな。だから藤川にはよう言ってたんや。『ボールの種類は3つでエエ。7~8種類もいらん。1イニング(に投じるの)は15球よ。自信のある3種類だけ5球ずつ投げたらええねん』ってな。
久保も短いイニングの方が合う。しかもこれまでよりも三振を取れるわ」
―― 藤川の穴は十分に埋まる、と。
「でも俺が監督やったら、藤川を引き留めてたけどな(笑)。まぁ、俺が監督の時から『メジャーメジャー』って言ってたんやから、どうせやったら一番良い時にメジャーに行かせてやりたかったって思いもあるけどな」
―― 野手陣に目を移すと、このオフは例年以上に補強に力を入れていました。
「そら、補強は12球団で一番やな。ゆうても藤川や平野(恵一)、城島(健司)もおらんようになって、抜けたんが多いからな。だから今シーズンは福留(孝介)や西岡(剛)なんかの新加入組がカギになるやろ。福留は6年ぶりに日本復帰? メジャーに行ったんは一番良い時やったからな。そのままの力で帰ってきたとは思わん。やっぱり力は落ちてるよ。どのくらいキャンプで良い状態を思い出すか。そのへんやろな」
―― 西岡はいかがですか?
「まだ若いしな。ある程度はできると思うで。福留よりも、やるんやないか。ロッテ時代の西岡には、ものすごいやられた印象があるんよ。俺が監督してた '05 年の日本シリーズとか、そら散々やったし。(※阪神は0勝4敗で惨敗)
当時のような〝いやらしさ〟を発揮したら、そりゃあ戦力よ。でも心配なのは守備やね。ロッテ時代も本拠地は人工芝やったし、土のグラウンドはしんどいんちゃうか。エラーが増えるやろな」
―― この二人はともに〝統一球〟の経験がないのも気になりますが……。
「でもな、ボールも飛ぶようになってるんやで。バッターの対応もあるやろうが、ボールそのものも変わったと思うで。詳しくは言えんけどな。導入1年目の春先はホンマに飛ばんかったなぁ」―― メジャー帰りの二人に、新外国人のコンラッドが三塁スタメンだとすると、生え抜きはショートの鳥谷(敬)とセンターの大和だけになりますね。
「ずーっと弱ければ、若い選手をある程度は目を瞑ってでも使うこともできるんよ。俺の時もそうやけど、ずっと優勝争いをして、ちょっと勝てるようになってくると、即戦力が欲しくなんねん」
―― 昨年9月に就任した中村勝広GMのチーム作りはどう見ていますか?
「補強が成功やったか失敗やったかは、シーズンが終わった時に初めて分かることやからな。まだ結果が出てへんうちは、なんとも言えんよ。結果が伴わんかったら、そらアカンわな。
まぁ、野手でいえば最大の〝補強〟は新井(貴浩)の復活やと俺は思うで。現状、4番タイプの打者がいないんやから、早い時期に新井を一塁に固定して、4番にしたらええんよ。俺が監督してた時は一塁でゴールデングラブ賞も獲ってるんやで。それが、俺が監督辞めた次の年に三塁にコンバートされて、もう打撃不振よ。右肩の故障がスローイングに影響を与えて、打撃まで狂わせとった。せやから一塁にドンと据えれば、復活すると思うで。野手でチームを引っ張っていけるのは新井と鳥谷しかおらんしな」
―― その鳥谷はWBCでは二塁でのスタメン起用が濃厚です。
「どこ守っても大丈夫やろうけど、怖いのは、これまで代表になった選手はその年のシーズンがダメやったことやな。能見なんかはキャンプ序盤から投げ込みすぎやろ。特にピッチャーは負担が大きいんや。WBCでは一回失敗したら、次の登板チャンスがなくなる奴も出てくる。そら、短期決戦では調子が良い奴から使うもんやしな。すると、ほとんど実戦で投げずに日本に帰ってきた投手は、その後の調整が難しくなるし、シーズンに悪影響が出るってわけやね」
―― そうなると代表選手が多い巨人には不利に働くかもしれません。阪神の優勝の目もあるんでしょうか?
「いやぁ、そら優勝は巨人よ。俺が思うに、今年は〝馬なり〟でええねん。中日やヤクルトも戦力の上積みはなさそうやし、普通にやってたら3位くらいは難しくない。優勝は目指さんでエエよ。ホンマに監督やったら、こんなことよう言わんけどな(笑)」
↧
岡田が語る
↧