また、第3部ではスタートダッシュに成功した安倍政権が抱えている死角についても触れておきました。アベノミクスが成功して日本再生を実現するためには、どこに注意しなければならないか――ここで指摘した落とし穴にはまらないよう、国民も厳しい目でチェックしなければなりません。
ともあれ、10年以上にわたって訴え続けてきたリフレ政策が、第2次安倍政権の登場によってようやく日の目を見ることになりました。現実には、大胆な金融緩和の方向性を打ち出しただけで、まだ実際にリフレ政策が動き出してはいないのですが、すでに円安が進み、株価も上がっています。本書で詳しく説明していきますが、期待に働きかける政策が市場を動かし始めたということです。マーケットはアベノミクスを歓迎し、景気の潮目は間違いなく変わったのです。黒田日銀総裁のもとで金融緩和が本格的に行われるようになれば、半年程度でインフレ予想が高まり、それに伴って実質金利が低下します。そうすると、多少のタイムラグはあるものの、企業が設備投資におカネを回すようにもなります。円安効果で輸出は早くも増えていますし、株高による資産効果で消費も活発になってくる。そこに設備投資の伸びが加われば、輸出、消費、設備投資はGDPを構成する主要項目ですから、GDPが増加します。デフレに苦しんできたこの20年間、日本の経済成長はすっかり止まってしまいました。たとえば、中国のGDP(ドルベース)は、20年前には日本の11%にすぎなかったのに、直近時点では108%になってしまった。日本にとってはまさに停滞の20年です。この20年間、日本が先進国並みの名目経済成長である4%程度を維持できていたら、みなさんの給料はいまごろ2倍以上になっていたはずです。名目経済成長率はこの間、先進国のなかでは断トツのビリで、日本が失った付加価値総累計額は5000兆円以上にのぼります。国民一人あたりにすれば、じつに4000万円以上! 改めてデフレを放置し続けてきた政府・日銀に対する憤りが湧いてきませんか?でも、新総裁のもとで日銀が「インフレ目標」達成のためにしっかりと金融緩和を続ければ、20年近く国民を苦しめてきたデフレは必ず終わります。停滞によって失われた富を取り戻すときがやってきたのです。アベノミクスで日本経済は復活し、大きく飛躍するのです。
日銀金融緩和
「2%」達成へ決意見せた 黒田流の発信力を評価する産経新聞「社説」2013.4.5日銀が黒田東彦総裁就任後初の金融政策決定会合で量的・質的緩和を導入した。黒田氏は会合後の記者会見で、「現時点で必要と考えられる措置は全て投じた」と語った。2年間で物価上昇目標の2%を達成する決意を金融政策で示したことを評価したい。さらに、新たな金融緩和で供給する資金量は「常識を超えて巨額だ」とも述べた。物価目標とデフレ脱却という重い課題を達成するには、あらゆる手法を動員し、一刻の猶予も許されないという危機感、切実感が伝わってくる。≪歓迎したい「方針転換」≫
軸となるのは、効果を見ながら徐々に緩和を進めてきた日銀の方針の大転換だ。氏は、それまでの日銀の緩和策を「不十分」で「量的にも質的にもさらなる緩和が必要だ」と述べていた。その考えをかたちにしたといえる。今回のメニューは多様だ。金融緩和目標を無担保コールレート翌日物の金利をゼロ近くに抑えることから、日銀の市中への資金供給量(マネタリーベース)を昨年末の138兆円から2年間で約2倍の270兆円まで増やすことに変更した。同時に白川方明前総裁時代に金融緩和目的で国債などを買い入れるために設置された基金を廃止し、日常の金融市場調節で使う国債購入と一本化した。このほか、日銀が購入する長期国債の対象を全種類とし、「満期まで平均3年弱」から「7年程度」に広げた。元本割れリスクのある上場投資信託や不動産投資信託などの購入も大幅に増やす。指摘したいのは、今回盛り込まれた施策は、黒田氏や岩田規久男副総裁が国会や記者会見などで幾度となく、それも明確に言及していたことだ。例えば、長期金利の上昇を抑える目的で、購入国債の範囲を拡大し、満期までの残存期間を限定しないことや、金融緩和姿勢をわかりやすくするために日常的な金融調節での国債購入と基金での国債買い入れを統合することについて国会で発言していた。このように総裁や副総裁が金融政策の狙いや具体的手法を決定前に語る例はこれまでほとんどなかった。市場の思惑が生まれるのを防ぎ、サプライズ(驚き)効果を狙ったからだ。しかし、近年のデフレ局面で、こうした手法はほとんど効果を生まなかった。それどころか、市場に日銀の意図が浸透するまで時間がかかり、狙いが伝わる頃には、緩和効果自体が薄れることも多かった。白川氏が常に緩和策のリスクを注意喚起していたことと相まって、市場が日銀の真意を測りかねる場面さえあった。それが今回は、あらかじめ黒田氏らが考えられる緩和策やその狙い、効果などを積極的に語ったため、日銀の意図や狙いが十分伝わっていたといえる。≪成長戦略がより重要に≫
緩和策が、事前の発言から大きく踏み込んだものではなかったにもかかわらず、株価は上昇した。国債も値上がりして長期金利が過去最低水準まで低下するなど市場が好感したのは、黒田日銀の「市場との対話戦術」が奏功したといってよいだろう。もちろん、毎回こうした手法が有効とは限らない。ただ、今回のような新体制発足直後はさまざまな思惑が生じ、市場の波乱要因となりかねないだけに、事前の情報発信には大きな意義があった。黒田日銀は順調に船出したといってよい。今後、物価上昇目標達成に向けて日銀がどんなシナリオを描くのか、早急に国民に示し、逐次検証していく必要がある。強調したいのは日銀の積極緩和姿勢が際立つだけに、政府の役割が一段と重要になっている点だ。日本経済はアベノミクス効果や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加表明などで景気回復期待が高まっている。しかし、それも、まだ円安、株高といった市場頼みの域を脱していない。今月1日に公表された日銀企業短期経済観測調査(3月短観)で大企業製造業の設備投資計画が前年度比マイナス、鉱工業生産は早くも一服感が出ている。実体経済への波及の遅れを解消するには、民間需要を掘り起こし、企業の国際競争力そのものを強化するしかない。そのカギとなるのは、やはり政府が策定を進めている成長戦略である。
成長戦略もだろうが、
湯水のごとく公共投資に使う自民党政治に後戻りすれば、金融緩和は「族議員の打ち出の小づち」となる。
そうなったら、この国はホントにヤバくなる。