セックス離れ 若い男性、性の「絶食化」 3000人調査
毎日新聞 2月5日(木)1枚目/2枚中セックスに「関心がない」「嫌悪している」合わせた回答者の割合若い男性の「セックス離れ」が進んでいることが、一般社団法人日本家族計画協会がまとめた「男女の生活と意識に関する調査」で分かった。夫婦の約半数がセックスレスという実態も判明。専門家は「男性は『草食化』どころか『絶食』傾向。若年層の労働環境の悪化など、社会背景も関係しているのではないか」と分析している。◇10代後半の3割超
調査は昨年9月、全国の16~49歳の男女3000人を対象に実施し、1134人(男519人、女615人)から有効回答を得た。2002年から隔年の調査で、7回目になる。今回、特に目を引いたのが、29歳以下の男性の性行動を巡る事情だ。性交経験率が5割を超える年齢は「29歳」で、08年の「23歳」、10、12年の「26歳」と比べて一気に高年齢化した。一方、女性は「28歳」で、過去の調査結果(24~27歳)より高かったが、男性ほどの変化はなかった。また、セックスについて、「あまり、まったく関心がない」と「嫌悪している」を合わせた男性の割合が18.3%で過去最高に。特に若年層ほど関心が低く、16~19歳で34.0%▽20~24歳で21.1%▽25~29歳で21.6%--となり、45~49歳(10.2%)も上回った。若い男性のこうした傾向は10年の調査で初めて明らかになった。以降、「無関心」または「嫌悪している」割合が年々高くなり、今回は08年に比べほぼ倍増した。「草食男子」だった10代が20代半ばになっても草食のままで、かつこうしたケースが珍しくなくなってきたのかもしれない。なお、女性の場合、08年に比べすべての年齢層でセックスへの無関心・嫌悪の傾向が広がった。◇学歴・収入負い目?
なぜ若い男性の草食化が進んでいるのか。調査を分析した医師の北村邦夫・同協会理事長によると、異性との関わりを面倒と感じたり、結婚に利点がないと考えたりしている男性に、その傾向が強かったという。「相手との関係を築くには相応の時間とお金と労力がかかる。セックスに至るまでのコミュニケーションを難しいと感じる男性が増えているのではないか」。北村さんはこう話したうえで、「一般的に男性は相手より優位に立ちたいと考えがちだ。学歴や収入面で同年代の女性に負い目を感じれば、結果的に関わりを避けるのかもしれない」と分析している。非正規で余裕なく
一方、夫婦の間で1カ月以上セックスのない、いわゆる「セックスレス」の割合は44.6%(男性36.2%、女性50.3%)で、年々増え続けている。セックスに消極的な理由は、男性では「仕事で疲れている」(21.3%)、「出産後何となく」(15.7%)、女性では「面倒くさい」(23.8%)、「仕事で疲れている」(17.8%)の順に多かった。「趣味など他にセックスより楽しいことがある」といった前向きな理由を選んだのは、男性4.5%、女性5.9%で少数派だった。北村さんによると、前回の調査では、1週間の労働時間が計49時間を超えるとセックスレスになる傾向が顕著だったという。また、総務省などによると、若年者(学生除く15~24歳)の3分の1、30~34歳の既婚男性の4分の1が非正規雇用に就いているというデータもある。「若年層を中心に非正規雇用が増え、精神的な余裕のなさも関係しているのではないか。男女ともにワーク・ライフ・バランスに配慮するなど労働環境の見直しが必要だ」と指摘する。◇ピル避妊使用、少なく
調査は、出産や中絶、避妊などについても聞いた。医学的な出産適齢期は35歳ごろまでとされているが、「最後の子どもを出産する理想年齢」を尋ねたところ、最も多かったのが「30~34歳」で男性34%、女性41%だった。しかし、「35~39歳」も男性25%、女性18%に上り、理想の年齢と適齢期の間にずれがあった。中絶経験率は、2002年は17%だったが、今回(14年)は13%と減少傾向だ。中絶の理由は「経済的余裕がない」(24%)、「相手と結婚していない」(23%)、「相手が出産に同意しない」(10%)などが続いた。中絶時の女性の気持ちは、胎児に申し訳ない46%▽自分を責めた15%などで、半数以上が否定的な感情だった。避妊している女性は、「コンドーム」の使用が86%で最多だった。認可から16年たつ低用量経口避妊薬(ピル)は5%で、認知度は02年67%、14年65%と横ばいだ。「使いたくない」は71%に上り、副作用が心配51%▽毎日飲むのが面倒9%などが理由だった。避妊に失敗した時、性交後72時間以内に緊急避妊ピルを飲んで妊娠を防ぐ「緊急避妊法」の認知度は、04年の21%から年々増え、今回は39%だった。また、日本では未認可だが、世界57カ国で承認されている「経口中絶薬」は、22%が「あれば使いたかった」と答えた。北村さんは「中絶手術より女性の体にダメージが少ない経口中絶薬の認可へ向け努力したい。また産婦人科医はピルの効果をきちんと説明し、性感染症はコンドーム、避妊はピルという意識を定着させなければならない」と話す。「恋愛に無関心」って本音?
毎日新聞 2015年02月04日 東京夕刊時まさにバレンタイン商戦花盛り。だが、今や男女を問わず、恋愛に消極的どころか、人を好きになったり、恋愛したりすることに関心がない若者が現れているらしい。5人に1人が「片思いすらしたことがない」との調査も。人を好きにならないって、ホントにあり得るのか。◇コスパが悪い
断っておくが、記者(男、39歳、既婚)は今も昔もモテない。だから訳知り顔で恋愛論を語ることなどおこがましいと自覚している。それでも、だ。結婚情報サービス大手「オーネット」が1月に公表した新成人600人を対象にした調査にはのけぞった。やっと20歳になる若者だから、交際経験が「ゼロ」が47・8%(男50%、女45・7%)というのは分かる。理解できないのは「片思いを含む恋愛経験」がゼロ、つまり人を好きになったことがない人が、19%(男16・7%、女21・3%)もいるという結果だ。しかも、2009年は16・3%で、増加傾向にあるようなのだ。顧みれば初恋は小学生のころ。以来、常にだれかしら女の子を好きになっては、フラれていた。だからハタチまでだれも好きにならない、というのはどうにも解せない。東京都内の百貨店でバレンタイン特設コーナーをのぞけば、甘いチョコレートの香りと女性客の熱気が渦をまく。「恋愛に関心ない」なんてウソでは、と思いきや「ハート形などラブラブ感あふれる本命チョコより、自分や友達、家族で楽しむ味わい重視のものが人気」(販売店員)という。恋愛に消極的な「草食系男子」という言葉を世に広めたマーケティングライター、牛窪(うしくぼ)恵さんが振り返る。「『草食系男子』の取材を始めたのは06年ごろですが、当時から『恋愛に関心がない』との20代女性も多かった。恋愛離れは男女共通の現象と言えます」牛窪さんは「実際『ゆとり世代』と呼ばれる27歳ぐらいまでの男女を中心に、結婚に至らない恋愛は無駄だ、と考える人が多い」と見る。彼らの親はおおむね1960年代生まれ。入社数年後にバブル崩壊、その後の不況に遭遇した。「ゆとり世代は、親からの教育も周囲の空気も『無駄なことをせず、効率的に』だった。だからとにかく先の見えないことやリスクを避ける意識が強い」と分析する。その結果、不確定な恋愛に時間やお金をかけるのは「コストパフォーマンス」(コスパ)が悪い、だから結婚に至らない恋愛はしたがらないし、恋愛意欲も弱い、という流れのようだ。実際、記者の知人でゆとり世代の少し上、29歳の会社員男性は、顔立ちも服装もシュッとしていてモテそうだが「カノジョ? いや、いたことないです」。中学・高校と男子校で、大学も会社も男が圧倒的に多い。「だから周囲に交際歴がない人が多いし、焦りもない。正直、風俗店には行きますが、恋愛はいらないし、好きになる女性もいないなあ。だって2年、3年と付き合って別れたりしたらすごく『損』じゃないですか」。結婚願望はあるから、いずれ「婚活」をする、という。◇自分にウソ
「『恋愛に関心がない』というのは本心か疑問です。僕は自分をだますウソだと思う」と指摘するのは早稲田大の森川友義教授。専門は政治学で、少子化対策の一環として恋愛行動の研究を始め、今や「恋愛学」の授業を開く。心理学に「認知的不協和」という考え方がある。達成したい目標があるのにできない。ストレスになる。この矛盾を埋めるために自分を正当化する言い訳を考える、というものだ。「好きな人がいる、交際したいという欲求はあるが、実現できない。だから『恋愛に興味がない、めんどくさい』と自分を納得させる言い訳をする。なくなったのは恋愛への関心ではなく、口説いて恋愛する能力、男女間のコミュニケーション能力と、恋愛にかける時間、金、労力です」背景には、近年のスマートフォンなど「便利で面白い機器の普及」があると見る。国の「出生動向基本調査」では、性交渉未経験率(18〜34歳、未婚者)は90年代から低下傾向だったが、05年に男性31・9%、女性36・3%で底を打ち、10年に男性で4ポイント以上も上昇した。「そうした機器に1日何時間もかじりついていれば、口説きの能力なんて磨かれないし、恋愛に必要な時間もお金も投資しなくなるのは当然。恋愛やセックスに関心がない人が増えている、とは思いません」と言い切る。◇虐待の痛みも
結局、恋愛に興味がない人は増えているのか。心の専門家に聞こうと精神科医の高橋和巳さんを訪ねた。「昔の男は酒席で『僕、お酒飲めません』とは言えなかったが、今は言える。それと同じです」とあっさり。つまり、昔から恋愛や異性にがつがつしない男女はいた。でも結婚するのが当然の社会では「興味ありません」なんて言い出せなかった。それが今や、恋愛にも仕事にもがつがつしない生き方が許され、口にもできる。だから「恋愛に興味がない」人が増えたように見えるというわけだ。「ただし」と高橋さんが真面目な顔で付け加える。「例えば仲むつまじいカップルを見てもうらやましさを全く感じない、あるいは、なぜうらやましいのか分からない、という人は要注意です。本人に認識がなくても、幼少時の虐待が強く疑われるからです」普通の親子関係ならば、子供は自然に他者に愛情を持てるようになる。しかし虐待を受けると、他者への「恐れ」だけがある。大人になっても人を好きになることがないし、恋愛とはどういう気持ちか、「片思い」がどういうものかも分からず、性欲すら湧かないというのだ。高橋さんは、クリニックでの治療経験などから「こうした虐待経験者は人口の5〜10%はいると考えています。90%の人にとっては恋愛への関心の濃淡の問題ですが、虐待経験者は恋愛そのものができない」と話し、虐待問題に詳しいカウンセラーを訪ねることを勧める。半年から2年ぐらいで、問題を乗り越えることが可能という。「いのち短し恋せよ乙女」とはいうものの、「だれもが恋愛に関心があって当然」というのはどうやら古い考えのようだ。
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近頃の男と女の事情
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