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大阪都抗争/Drama under the bridge 3 善良なる独裁、口に苦し

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二元代表制。
首長と議員が別々の選挙で選ばれる地方自治は、衆院の多数派から首相が選出される国の議院内閣制に対し、そう呼ばれる。
議会は首長のチェック機関と位置づけられ、両者は「車の両輪」にたとえられる。
首長が率いる政治勢力が議会の多数派を握れば、首長と一体化し、二元代表制は揺らぐ。
首長が強大な権限を持ち、独裁的になる危険性もあった。
元鳥取県知事で総務省知事で片山善博は当時、「車の両輪がくっつけば一輪車になり、コロンと倒れる」と述べ、維新の勢力拡大に警鐘を鳴らしていた。
一方m、橋下は維新結党時、こう語っていた。
「今までは府議会と市議会、知事と市長がバラバラだったから何も動かなかった。同じグループで固めれば何から何まで思い通りに進めることができる」。
維新が首長と議会を押さえた大阪府では、それが現実になろうとしていた。
 
統一地方選2か月後の6月3日深夜、府庁の議員控室にいた松井の携帯電話が鳴った。
「すごいことになってますね」
興奮気味にかけてきたのは橋下だった。
その日は府議的が断続的に開かれていた。
現行109の議員定数を、次回選挙から88人に削減する条例案が、維新府議団から提案されていた。
橋下の電話は議案の採決前。
反対議員たちが議場入口を長椅子でバリケード封鎖し、本会議の開会阻止を狙っていた。
 
橋下「大丈夫ですか」
松井「何とか突破する」
橋下「改正案が通ればいいですね」
 
短いやり取りだった。
直後、数で圧倒する維新議員は、議長に就任していた浅田を囲んでスクラムを組み、議場になだれ込んだ。
翌4日午前3時前、改正案は可決した。
そこに公明、自民、民主、共産4党議員の姿はなかった。
採決時の大量欠席は、府議会では50年ぶりだった。
議員定数の大幅削減は、維新が「議員自ら身を切る覚悟を府民に示す」と、統一選で掲げた公約の一つだ。
議席数は「107万人に議員一人」を目安に、府内人口880万人が算出した。
東京都議会(定数127)に次ぐ規模だった府議会は、削減により神奈川県(同107)、北海道(同104)、愛知県(同103)のほか、人口が300万人以上少ない兵庫県(同89)をも下回ることになった。
総務省の担当者が「これほど大規模な削減は例がない」というほどだ。
 
維新の強行採決劇は、「維新独裁」という批判を巻き起こした。
しかし、当の橋下はどこ吹く風だった。
「数の力」で押し切る手法を報道陣から追及されても、「定数削減は、維新が統一地方選の公約に掲げて有権者に信を問うたワケだから、ここで決着をつけることに民主的なプロセスとして何ら問題はない」と言い切った。
そして6月29日、橋下は、自らの政治資金パーティーで、またも挑発的な発言をした繰り出した。
後に、橋下の心情をストレートに語った象徴的な語録として、「反維新」が批判の的とする「独裁」スピーチである。
過去最多の約1500人を集めた高揚感からか、橋下の舌鋒は冒頭から火を吐いた。
 
「やっぱり政治は力。府民の感覚と政治、行政の感覚に乖離があれば、府民感覚になるべく近づけていく。これが政治だが、とてつもない力が必要だ。メディアからは、そんな力の政治はするな、独走するなとさんざん言われるが、独裁独裁って、ヒトラーに時代じゃない。市議会で多数決やるでしょ」
府議会での強行採決の直前、橋下は反対派のバリケードを破って議場になだれ込んだ維新議員と入れ替わるように、議場の知事席を後にしていた。
ほかの主要会派は全員退出し、議場に残ったのはほぼ維新の会だけだった。
「そこに僕が座っていたら。どういうテレビカメラの映し方になるか、パパッときた。
維新の議員を映し、僕の顔を映し、金正日とカダフィの影像を絶対貼り付けると思った。独裁者橋下、ここに誕生せり、みたいな感じでね」
タレント弁護士出身らしく、テレビでどんな映像になるかを意識して議場から脱出した、と得意げに紹介し、
「僕が議場にいたら、ニュースでわんさかやられる。パッと退席させてもらった。
独裁というが、今の世の中で独裁なんかできるワケがない。メディアの力は大きい。権力をチェックする唯一最強の機関がメディアだ」と勢いづいた。
そして、盛り上がる聴衆を前に、「独裁」発言が飛び出す。
「今の日本の政治で一番重要なのは独裁ですよ。独裁と言われるぐらいの力だ」
物事が一向に前に進まない永田町政治を批判し、強いリーダーシップを重視する意味合いで口にした言葉ではあった。
……
「大阪市が持ってる権限、力、お金をむしり取る。こんなこと、話し合いで決まるワケない。時代が時代なら、弓持って、大砲持って、相手の大将のクビをはねる。しかし、今はそうじゃない。選挙に変わった。話し合いで決着できないことは選挙で決める」。
 
平松は翌日の定例記者会見で、記者から「独裁」発言を聞かされ、しばらく声を出せなかった。
「都構想は中身がない。妄想だ。イリュージョンだと言ってきたが、その通りだったということを自ら認めたのでしょう。市民のためでも府民のためでもない。自分のためだというのが独裁ということなんでしょうから。
今、絶句してしまいましたが、あまりにも価値観が違い、言葉をなくしてしまう…」。
……
 
「ものすごく人気があり、大きな勢力を持っている方への宣戦布告であります」
2時間弱の記者会見は、徹頭徹尾、「反橋下」に彩られていた。
9月19日、平松がついに再選出馬を正式表明した。
ホテル「シティプラザ大阪」(大阪市中央区)に特設された会見場には、平松のキャッチフレーズ「with(共に)」のポスターが張り巡らされた。
対話よりも対決に走りがちな橋下流とは対極の政治スタイルを強調する狙いだった。
……
「この2年近く、橋下代表の攻撃に遭っている。
攻撃の規模や実態を一切示さず、非常に厳しく、きつい文言、口調のみ、で一方的に攻撃される姿勢に対し、非常に不安な風潮を助長する、強い扇動家の姿勢を見ている。
選挙で勝ったら何でもできるという動きには非常に違和感を感じている。
そうした世の中が出現することは、歴史に逆回転を加えることであり、毅然として封じないといけない」
……
妻が「この日のために見立てた」という金色のネクタイを締めた平松は、いつもの紳士的な語り口を捨て、過激な物言いで訴えかけた。
笛の音で子どもたちを操った寓話「ハーメルンの笛吹き男」を引き合いに橋下批判を展開したときは、言葉に怒りがほとばしった。
「多くの人が催眠術にかかっている。大阪都と言っただけで経済が良くなるという、迷信に近いことを信じる人たちが大勢いる。弁護士であり、人気者であり、歯に衣着せぬ物言いが取り柄の方が、毎日、何らかのカタチでテレビや新聞に出ることで巻き起こされた催眠状態。ハーメルンの笛吹きだ。
行き先が見えてますか、市民の皆さん!」
 
都構想に対しては「大阪市の権限と財源をむしり取り、とことん、市を潰すもの」と声を荒げ、「本当に2015年4月に移行できると思っているなら、よっぽどの政治音痴ではないか。いうこと自体が能天気だ」と切り捨てた。
対案として、政令市の権限を広げる「特別自治区」構想を披露し、「大阪市は府の事務をやる実力はある。極論だが、特別自治区になれば市内の府議はいらなくなるし、府民税は士に納めてもらえばいい」と言い切った。
……
就任当初、同名の漫才コンビ名にちなんで「くにお・とおる」と呼ばれ、二人三脚で府市連携を進めてきた二人が、なぜ全面対決に転じたのか。
「橋下さんに裏切られた」と出馬会見で平松が振り返ったのが、2010年に完全破綻した府市の水道事業統合協議である。
二人がトップダウンで統合協議を進め、一度は合意したものの、府内市町村から反発が出ると、橋下は翻意し、「平松市長は大阪全体のことを考えていない」と攻撃に転じた。
平松は当時の心境を「キツネにつままれた気分、この人信じてええんやろか、という思いになった」とこの会見で打ち明けた。
ダメ押しは、橋下が2010年4月に旗揚げした維新である。
「政治は数。重要なのは独裁と言われるくらいの力」と公言し、維新の勢力拡大を図る橋下に対し、平松は「民主主義で一番重要なことは、少数意見をどれだけ組み入れられるかにある」と反論した。
 
高い支持率を誇り、統一選や首長選で無敗を続ける「橋下維新」に勝てるのか。
平松は記者に聞かれ、こう答えた。
「勝算があるのかないのか、やってみなけりゃわからない」。
 
 
(『橋下劇場』 読売新聞大阪本社社会部)
to be continues.

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