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大阪都抗争/Drama under the bridge 8 大阪都構想より、ホントはこれがしたかった(後)

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橋下の依頼で市職員の組合・政治活動の実態を調査していた野村らの第三者チームは4月2日、最終報告書を発表した。
業務メールのデータ分析や職場への立ち入り、内部告発者への聞き取りなどを基に、数々の問題点を列挙していた。
市長選を巡っては橋下と争った平松の再選を目指し、側近、区役所、労働組合などが一体となって選挙活動にのめり込んでいた実態を浮き彫りにした。
勤務時間中、業務メールを使って平松の選挙活動の打ち合わせや、国会議員との面談の調整を進めていた側近幹部。
「総務的な事務連絡」として、平松の街頭演説の日時を各部局の総務課長に伝えていた秘書部門。
市の広報誌やホームページで、橋下の大阪都構想への反論を掲載した情報公開室――― 。
 
維新が大躍進した11年4月の市議選直後には、当時の副市長が区長を集め、選挙結果を総括していた。
「維新の得票33万票、自民、民主、公明の得票計51万票」などと得票を挙げ、「惑わされなかった人が51万人もいた。その人たちに約束したことを確実に実行していくことが重要。秋までにやりきっていく。どんどん地元に入り、訴えていく」と、市長選を意識して市民に働きかけていたことを示すメモも見つかった。
 
野村は、8年前の職員厚遇問題を受けて清算されたはずの労使蜜月が、その後も維持され、「市長選で現職を支援する風土は非常に根深く、相当洗濯しないと落ないくらい染みついている」と指摘した。
さらに、市長選で橋下が市政全般を厳しく批判したため、「防衛本能が働き、市役所全体で平松支援の選挙活動が展開された」と分析した。
 
抜き打ちの立ち入り調査では、行く先々で問題に出くわした。
野村は、市側の説明を鵜呑みにせず、ひと部屋ずつ確認して回った
「奥は配管があるだけですよ」
ある地下鉄駅の構内では、管理者からそう告げられたが、疑念がわいた。
部屋の奥に進むと、労組の隠し部屋が見つかったという。
労組が地下鉄乗務所の一角などにランニングマシンや、ベンチプレスを置き、組合員の「トレーニングルーム」として利用していた。
市労連傘下の大阪交通労働組合(大交)役員が勤務中に政治活動をした問題をきっかけに、野村とは別に進められた交通局の独自調査では、労使の癒着ぶりが浮かび上がった。
 
管理職238人を対象に行ったアンケートでは、76人が、組合側に人事異動の対象となる候補者の名簿を見せたり、口頭で報告したりしていたと回答し、うち25人は異動について「組合の意見を採用した」と答えた。
職員労組による人事介入を裏付けるものだ。
「組合支部長に事前に(人事情報を)耳に入れることが慣例だと聞かされた」
「組合に異動候補者の名簿を見せ、意見聴取して内容を受け入れた」――― 。
管理職の生々しい証言からは、労使が人事情報をやりとりするだけでなく、労組側の意向が人事異動に色濃く反映していることもうかがわせた。
 
交通局の業務用パソコンからは、「動員増殖中!」「個人演説会開催場所」「駅構内でのビラ配布について」などのタイトルがついたメールが延べ689件も見つかった。
選挙活動への職員の関与を示す内容で、「演説会」(109件)、「動員」(511件)、「電話作戦」(11件)など、市長選との関係がうかがえる件名も多数確認された。
 
次々明るみに出る不祥事に、橋下は「重症だ。ツギハギで改善する状態ではない」と解体的出直しを迫った。
……
4月7日、市長選落選後、公の場での発言を控えていた平松は、久方ぶりに報道陣の前に立ち、報告書への憤りをぶちまけた。
「はじめから結論ありきで誘導された決めつけの調査だ。大阪市が(都構想で)とんでもないことになりそうだと訴えるのは、市長として当然。それを政治活動だというのなら、一党首でありながら、知事や市長をされている方は、どこに線を引くのか」
 
2011年元旦。
橋下が「正月休み返信不要」の断り書きをして、大阪市の全局長、全区長宛てに発信した年賀メールは、およそ新年を祝う趣とはかけ離れたものだった。
 
<維新の会代表である僕と市役所組織の間で選挙を踏まえた一定のけじめをつけましょう。大阪市役所はこれまで組合が擁した市長しか当選できなかったので、政治と行政の区分けが弱かったと思います。
市役所という行政組織が政治的主張をできるワケがありません。
政治的に反論できるのは政治家と市長のみです>
 
……
橋下は、市長に就任するやいなや、平松を支えてきた政策企画室長や情報公開室長、秘書部長ら局長級、部長級の側近幹部6人を、仕事のない待機ポストの「総務局付」に更迭した。
この6人は、HPや広報誌に都構想への反論を掲載したり、区民集会の名を借りて実質的な平松の決起大会を開いたりした担当幹部だった。
橋下は選挙前から、「市職員が政治に首を突っ込むのはおかしい。選挙で(維新が)勝ったときは、一族郎党がどうなるか覚悟しておけ」と、維新主催のタウンミーティングで威圧していたが、それを本当に実行した。
6人は、本庁から南に約6キロ離れた大阪市阿倍野区にある市職員人材開発センター内の一室で勤務する「島流し」を命じられ、月約10万円の管理手当もなくなった。
……
市長就任会見でも、「報復人事」は話題に上った。
橋下は「僕の考えを実現するための最善の人事をした。それ以上でもそれ以下でもない」と否定しつつ、一方で「(自分の当選で)潔く辞める職員もいると思ったが、誰もいなかった。これが役所。府庁時代も、いろいろ言ってきた職員は誰ひとり辞めていない、職員も人間なので、僕に対していろいろ考えるところはあるだろう。面従腹背は大歓迎だ」。
 
半年後、6人はようやく現場復帰することになる。
野村が「明確な法律違反が見つかったワケではなく、懲罰的だ」として、橋下に処遇改善を求めてもいた。
用意されたのは、いずれも橋下改革を推進する中枢ポストだった。
都構想に批判的だったとして閑職に追いやられたのが、一転して都構想の制度設計のカギを握る区政改革などの住職を担うことになり、市役所内では驚きと同時に「従順に尽くせ、と迫っているのでは」との囁きが漏れた。
……
平松時代、大阪都構想に反対の論陣を張ってきた市役所だったが、矢継ぎ早に指示を出す橋下に抵抗する職員の姿はほとんど見られず、急速に「橋下色」に染まっていった。
市長就任後、自らのメールアドレスを全職員に公開した橋下は、内部告発や仕事上の課題を受け付け、独自に情報収集を始めた。
投書を匿名で受け付ける「目安箱」も設けた。
市役所に郵送すると、開封されないまま、橋下に直接届く仕組みになっている。
橋下は「すごくたくさん来ている。しっかり厳正に対処したい」と内部通報ルートの確立に胸を張ったが、「密告奨励」とも言える手法には、「職場がギスギスし始めた」との声が上がり、職員間の疑心暗鬼も招いた。
市長の執務空間も大幅に変わった。
市長室が入る市役所フロア正面にかかった「政策企画室」の看板。
橋下は「政策企画室という一部署の市長と感じる」と指摘し、「市長室」への書き換えを命じた。
廊下の一番奥にあった市長室は「出入りがしやすい」と、出入り口近くの部屋に移させた。
……
政策決定のスピードを重視する橋下が多用するのが、市幹部らに宛てる一斉メールだ。
深夜休日を問わず、思いついたことを一斉送信し、打ち返しを受けて考えを煮詰めるのは知事時代からだった。
……
幹部からのメールの返信に、職員の接近ぶりがうかがえる。
ある幹部は、橋下が休日に配慮して「返信不要」と断り書きした全局長、全区長宛へのメールに、「出勤しておりますので返信させていただきます」と即応した。
橋下はこの返信に対し、「素早い反応ありがというございます」と再返信したが、宛先はまた、全局長、全区長。
反応の良い職責がいることをあえて示し、他の職員をせき立てる効果を生み出している。
逆に、対応が不十分な幹部に対しては「僕の頭では整理できない」「責任感が欠如している」とメールで厳しい言葉を浴びせ、全局長、全区長にも一斉送信する。
メールを媒体とした公開の叱責である。
……
橋下は、市役所で報道陣の質問に答えるぶら下がり取材を、時間が許す限り、質問が切れるまで応じている。
知事時代から続ける登庁時に加え、市長就任後は退庁時も定例化した。
立ちっぱなしで1時間近く熱弁をふるうことも珍しくない。
連日メディアの前に立ち、庁内議論なしで次々と改革の腹案を打ち上げる橋下に、市幹部らは「検討段階のプロジェクトが決定事項のように発信され、反論のいとまもない」と慌てた。
……
走りながら考えるのが橋下の政治スタイルだが、「前言撤回」も多い。
生活保護者が突出している西成区の活性化のため、自身が西成区長の業務も検討するとした発言は、市議会で「法律上できないと部局に言われた」と撤回を表明した。
共産党市議から「もう少し慎重に発言を」とたしなめられると、橋下は「一言一句間違えるなと言われれば(発信という)トップとしての役割がなくなる。取り返しのつかない発言をすれば、市長を辞任する」と反論した。
 
ライフル銃を使った殺人、
葬儀業者からの「心付け」の受け取り、
河川清掃中に拾い集めた金品の着服――― 。
信じがたい話だが、全て大阪市職員の不祥事である。
悪質なだけではなく、数も突出している。
07年度から5年間の懲戒処分者数は計2082人。
同期間で京都市が154人、神戸市が216人だったのと比べれば、ケタ違いに多い。
市長が橋下に変わってからも、不祥事は次々と表面化した。
児童福祉施設の男性職員が、子どもたちに腕の入れ墨を見せたことがあった。
橋本はキレた。
「税金でメシを食う立場になって、遊び半分で入れ墨を入れるなんておかしいですよ。狂ってますよ!」
報道陣を前に怒りをぶちまけ、担当幹部には不祥事撲滅のための「服務規律刷新プロジェクトチーム(PT)」の発足を指示した。
 
知事時代、懲戒処分の報告は、多くても月1回程度だった。
ところが、市長になってからは、月10件以上の処分報告がひっきりなしに入ってくる。
特に目立つのは、市立小中学校の教職員を除く市職員約3万8000人中、32%を占める現業職員の処分だ。
ゴミ収集などで庁舎外にいることが多いため監視が行き届きにくく、公務員意識が薄くなりがちだという指摘もあった。
 
「僕の性格、しつこいですから、やると言ったらとことんまでやる。最後は法廷闘争になってもやむを得ない。そこまでやる」
12年3月21日、PTの初会合。
橋下は市役所の応接室に集まった各部局のトップを睨みつけるように切り出した。
職員側からの控訴も辞さずに「免職、懲戒処分をやっていく」と決意表明する橋下に、居並ぶ幹部たちは一様に険しい表情を浮かべた。
……
そんな中、またも新たな不祥事が起きた。
4月3日、市営地下鉄四つ橋線本町駅の男性助役が、全面禁煙の駅構内で喫煙して火災報知器が作動し、電車4本に最大1分の遅れが生じた。
助役は勤続36年。
交通局の調べに、「駅長室で朝食を取ったあと、つい吸ってしまった」と説明したという。
市営地下鉄では2月、清掃業者のタバコの火の不始末が原因とみられる火災で、御堂筋線梅田駅の倉庫が全焼し、交通局が各駅に全面禁煙の徹底を通知したばかりだった。
……
2日後、橋下は幹部会議で言い放った。
「免責を基準に考えてもらいたいと思っています。この状況は許し難い」。
タバコ一本でクビとなれば、不服申し立ても予想されるが、橋下は「法的に問題があるかもしれないが、司法決着すればいい」と懲戒免職を検討するよう指示した。
禁煙徹底を呼びかけた直後の一服。
しかも、電車を止めるという重大な支障を招いた。
処分は免れない。
ただ、厳し過ぎる処分で訴訟になり、取り消しが認められれば、市への損害賠償に発展する恐れもある。
喫煙を理由に処分した前例がないことも踏まえ、交通部局が出した結論は「停職3か月」だった。
免職に至らなかったものの、幹部らは、不祥事根絶にかける橋下の本気度を思い知らされた。
 
 
 
(『橋下劇場』 読売新聞大阪本社社会部)
to be continues.

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