転載元: 『現代ビジネス』安倍政権は実は国民の支持を得ていない
長谷川:基本的に安倍政権の基盤は弱いんですよ。この政権は非常に弱い政権だ、というのがまず基本の認識です。私もそう認識しているし、安倍総理自身もそう認識しています。それには三つくらい理由がありまして、まず一つは、安倍さんは自民党総裁選において、地方票では2位だったし、国会議員票でも2位だった。決選投票で逆転したので総理総裁になったわけですが、この経緯をきちんとふまえると、自民党のナンバーワンじゃないんです。私は毎月地方に行っていて、地方で自民党の方々の話を聞くことも多いんです。それで、ハッキリ言って地方の皆さんは「なんで安倍なの? 本当は俺たちは石破を選んだつもりだぜ、おかしいじゃないか」と怒っているんですね。要するに、安倍さんが党内のナンバーワンではない、ということが一点。二点目は、国会が衆参でねじれていますから、野党が反対したら法案が一本も通らない。三点目は、これは皆さん意外に思われるかもしれないんですが、ズバリ言うと国民が安倍政権を支持していないんですよ。これは総理自身もそういう認識です。それがいちばん出ている証拠は、総選挙の投票率です。10%も下がっているでしょう。これは大変なことだと私は思っていて、どのくらいか大変かというと、2011年の3・11で東日本大震災と福島第一原発事故があった。これは戦後最大の惨事ですよね。その後、国民は日本の政府や政治に対してものすごく感性を高めた、それはもう間違いないです。つまり、「この政府は私たちを守ってくれるの? いやそうじゃないでしょう。ひょっとしたらあのSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報隠蔽のように、この人たちは自分たちの責任逃れのために国民を犠牲にすることもある政府なんじゃないの?」と疑い始めた。そういうこともあって、金曜日の官邸前デモがあったり、政治に対する感性というものがものすごく高まっている。それにもかかわらず、10%も投票率が落ちてしまった。しかも、自民党自体の得票率は伸びたかというと全然伸びていない。だから、この300議席以上も政権与党が獲っているというのは、選挙制度の綾(あや)みたいな話。09年の総選挙で民主党に政権交代したときに比べてさえも、今回のほうが白けていますね。さらに加えて言うと、私の見るところ、道路財源の特定財源問題なんかに象徴的に出ていると思うんですが…(自民党は税制改正大綱で、自動車重量税を「道路特定財源」にする方針を打ち出したが、政府側が押し戻した結果、「一般財源」にすることになった)やっぱり自民党の中に岩盤のように既得権益勢力のような人たちがいる。でも、そういうものを押し退けてやっていこうぜ、と思っているのは、安倍総理、菅義偉官房長官、あとはチョロチョロくらい。少数派なんです。そういう状況のなかでも、とりあえずアベノミクスの金融緩和プラス拡張的財政政策、これで絶対景気は上がりますね。景気はそこそこ上がってくるのは確実だと僕は思うんだけれども、問題なのは「三本の矢」の三つ目の「成長戦略」…そんなものはないんですけれども、規制緩和みたいな話がどれくらいできるかな、と…私自身が政権に入っちゃったから頑張ってやるつもりではいますけれども、どの程度できるのか、と。新しくできた産業競争力会議とか規制改革会議を見ても、本気になってガチでやるぞ、という人は少数派です。古賀:私は気分的には安倍さんは改革派だと思うんですね。ただ、気分的改革派というのは多いんですよ。民主党にもたくさんいたんですよ、「気分は改革派」という人たちが。だけど、実際に政権をとると、やっぱりいろいろな誘惑もあればさまざまな圧力もある。そういうなかで、それでも改革をバカみたいにやるしかない。「バカみたいに」と言うと語弊がありますが、改革はバカみたいにやらないとできないんです。しかし、それができる人はなかなかいない。だから、安倍さんがそういう人になれるかどうか、ということなんです。それは参議院選挙次第で、参議院選のあとにどういう政権の枠組みができるかということによるのかな、と。僕は「自民党の五つの大罪」ということを言っていて、そのうちの一つが外交・安全保障なんですね。民主党がめちゃくちゃにしたというのはそれはたしかなんですが、その前の時代にも自民党が何もしていなかったというのは、これは大きな罪があって、いま頃になって「強気でいくぞ、民主党は弱腰だったからこんなにバカにされている」と言っているんですが、僕はそう思っていないんです。自民党がこんなにしちゃったからみんなにバカにされるようになっているんだと、そういう認識なんですね。そこをどういう優先順位で考えているのかな、というのが非常に気になるところです。とにかく日本のいまの現状は、20年から30年かけて経済をもう一回成長軌道に戻さない限り、中国とまともにやり合っていくなんてことはできなくて、それができるようになるのはもっと先だと思います。だから、いま国を守るためにも領土を守るためにも、いちばん大事なのは経済力の回復でしょう。いま中国と何かをやろうと思っても負けるだけです。国土を守る、そのために戦うという勇気があるんだったら、一生懸命自衛隊を増強するとか、自衛隊を国防軍に変えるとか、そういう話じゃないでしょう。「中国と戦うぞ」なんて勇ましいことを言ったって、実際に戦うのは自衛隊だし、血を流すのは国民ですから、自分は絶対に死なないですよね。政治家にとって死ぬということは、物理的に死ぬということ以外に、議席を失うということでもあります。既得権と戦うというのは、議席を失う、死ぬ可能性がありますから、これは政治家にとっての、本当の命がけの闘いです。既得権と戦う成長戦略というものが、いまいちばん求められていて、本当の勇気がある政治家にはそれをやってほしい。安倍政権は7月の参院選を乗り越えられるのか
長谷川:まさに、政治家の闘いとは何かというと、既得権との闘いなんですね。私は06年の第一次安倍政権のときに割と近くで見ていて、そのときに得た教訓というのは、力がついていない状態のまま既得権との闘いに突っ込んでいってしまったということなんですよ。06年9月に政権ができていちばん最初にぶつかったのが、11月の下旬に道路特定財源の一般化問題というのがあったんです。これはいまよりもっと道路族が強い時代のことですから、自民党の牙城みたいなもので、核の部分ですね。それと戦うというのは、政権が壊れるかどうかというくらいの大きな問題なんですが、そんなことを政権ができてわずか2か月ちょっとで手がけてしまったんです。これを誰がけしかけたかというと、大田弘子経済財政担当相だったんですが、大田さんは非常に改革のマインドが高い方で、「総理、これはぜひやりましょう」と膝詰め談判で迫ったんですね。そうしたら、総理はちょっと考えていたんだけれども、「よしわかった、やりましょう」と言ったわけです。これをやるといきなり自民党のど真ん中に手を突っ込むことになる。私や橋洋一君(当時は内閣参事官として官邸内で活躍、現在は嘉悦大学教授)なんかはこれを外から見ていて「これは政局だな、これはもう完全に倒れるかもしれない」と思っていたわけですね。案の定、1か月やったけれども、結局「必要な費用を使って、もし余りがあったらその部分だけ一般化する」という、骨抜きの形でしか実現できなかったんですよ。この話をまとめたのは、財務省出身の坂篤郎内閣官房副長官補で、今度日本郵政の社長になる方ですが、これで自民党内がどういう雰囲気になったかというと、「安倍政権は大したことはないな、改革と言っているけれでも、できなかったでしょう、結局骨抜きになっちゃったじゃないか」と。役人たちや守旧派たちはみんな安倍さんをナメちゃったわけですね。それから年が明けて渡辺喜美さんが公務員制度改革をやると言った。そうしたら、そのときにはもう完全にナメられていますから、的場順三官房副長官(事務)が渡辺さんを閣議室に入る前に呼び止めて「渡辺さん、本気で公務員制度改革をやるの? そんなことをしたら倒閣運動が始まるよ」と言って脅かすんですね。それで彼がすぐ私に電話をかけてきまして、それを私は雑誌に書きましたが、霞が関は「この政権が本当に公務員制度改革をやるんだったら、ことによっては潰してもいい」と、そういう感じだったと思います。そのあとさらに、霞が関による政権打倒が本当に実現してしまうのは、消えた年金5000万件問題ですよ。あれは当時の中川秀直幹事長が「これは要するに自爆テロだ」と見抜いたとおりなんです。社会保険庁を日本年金事業団にして3000人くらいリストラしようと思っていたんだけれども、その大リストラを潰すために自分たちがいかにデタラメな仕事をしていたのかということを裏で事細かに民主党に流して、政権側には何の情報も渡さずに国会で立ち往生させた。この作戦が見事に成功して、結局安倍さんは体調を崩されて政権は倒れました。第一次安倍政権の失敗というのは、やりきるだけの力量もないのに正しいことをやろうとしてしまった、ということなんです。正しいことをやるのに、正しいことを言っていればできるかと言えばそんなことはなくて、やりきるだけの実力がなければいけないんですね。これを学んだということが、第一次安倍政権の最大の教訓だったと私は見ているし、安倍総理も多分同じなんじゃないかな、と思いますね。そういう経験を踏まえると、冒頭で申し上げたように、今回も安倍政権は弱いんです。大したことができないし、改革派が多数派じゃないんですね。そういうなかでやれることをやって、まず地力をつけてコツコツと実績を上げ、7月の参議院選の結果を見て、それからだな、と、こういう滑り出しだと思います。じゃあいまやれることは何かというと、僕の見るところでは二つしかなくて、一つはデフレ脱却、景気回復で、もう一つは日米関係の再構築。これは結論から言うと僕はできると思います。デフレ長期化は金融政策に原因があったわけですから、金融緩和を徹底的にやる、ということで、物価安定目標つきでやればこれは効きます。景気回復についても、あんまり心配していない。日米関係についてもあんまり心配していなくて、訪米は2月になりましたが、ちゃんと話はできるでしょう。・・・・・・古賀:維新の会は去年の夏くらいまでは相当よかったし、ものすごく盛り上がっていて、バブルの要素はあったんですが、ハッキリ言って橋下徹さんが石原慎太郎さんといっしょになったところで非常に大きなミスを犯したと私は思っています。その後、私はしつこくしつこく「早く石原さんと別れてください」と言っていて、Twitterでそういうことを言って、メルマガで紹介したら最初の3日でリツイートが1000件くらいいったんですが、その後もどんどん増えて2000から3000件くらいまでいったんですね。かなり爆発的な反響がありました。どこへ行ってもみんな言っていますよ。「なんで維新が石原さんなんかと組むんだ」と。まあ、石原さんはまだいいけど、片山虎之助さん(元総務大臣)とかね、ああいう人たちとなんでいっしょにやるの、ということを言われていて、それで第三極全体に相当大きなダメージを与えました。そのせいで「第三極なんていったって、結局信用できないじゃないか」という感じになっていますので、そこら辺がどうなるのかな、と。橋下さんという人は、どういう力があるのか、それともないのか、そこら辺は長谷川さんはどんなふうに見ておられますか?to be continues.
↧
古賀茂明 × 長谷川幸洋 / 新政権は日本を再生できるか
↧