【橋下氏慰安婦発言】
道徳的に容認できない 中央大教授 広岡守穂
軍隊が歴史的に性的欲求のはけ口を求めてきたのは事実で、国家的な強制があったのなら反省しなければならないというのもその通りだ。だから日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長の発言は、何も言っていないに等しい。ただ、文脈から読めば、慰安婦となった女性は自発的だったと聞こえる。これは挑発的な発言としか言いようがない。女性を性的奴隷として扱ったかどうかが、慰安婦問題の最大のポイントで、国際社会はそれがあったという見方でほぼ一致している。国際的に見て「なかった」というのは通らないだろう。性欲を抑制するのは無理だと考える人にとっては、一連の橋下発言に留飲が下がるのかもしれない。ただ、それは性犯罪を発生させる危険があるから、売春関係の施設をちゃんとつくった方がいいという発想につながる。女性からみれば、これは人権じゅうりんの考え方と言われても仕方がない。今の時代には合わない話だろう。(でも、今の時代もあるんですけど/サルメラ)個人同士が自由意思によって性行為を行い、そこに金銭の授受があった場合、法的には罰せられないとしても、公序良俗の観点から考えれば、それが道徳的に容認されるような話ではない。日本の法律で認められた風俗業を利用せよというのも、政治家が言う発言ではないのではないか。考え方の筋そのものが違うと思う。政治の品が悪くなっているようで、非常に悲しい。政治家のこういう挑発的な発言は、政治に関わらない一般の人同士の対立をあおり、問題をめぐって殴り合うような危険な状況を誘発する可能性がある。自分の言い分をきちんと主張するけれど、落としどころを見つけていくのが政治であり、そういう姿を見せてほしい。橋下発言が国際社会に与える影響も出てくるだろうし、歴史認識をめぐる安倍晋三首相の発言における近隣諸国の反発もあり、外交関係の悪化が心配だ。ジャーナリズムやアカデミズム が、真面目に国益を考え、批判すべき点をきちんと批判することがこれから重要になる。
人権感覚疑う 弁護士 打越さく良(女性)
旧日本軍の従軍慰安婦問題については、日本維新の会共同代表という政治家であり公人の立場にあるなら軽々に言えないはず。「(慰安婦問題は)勉強したから、こうだ」と簡単に言うが、謙虚さに欠ける。そもそも人権侵害に対する見識を疑う。私の周辺の友人も憤っているし、ネットにも多くの批判が書き込まれた。「慰安婦になってしまった方には、心情を理解して優しく配慮していくことが必要だ」との発言にも、〝優しい言葉を掛けなきゃ〟という上からの目線を感じる。(それが揚げ足取りというんだ/サルメラ)元従軍慰安婦で心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えている方々にとっては、心に塩を擦り込む発言だと思う。人権を侵害されて被害を受けている人に対する「お情け」の物言いは、日本国の責任を全く度外視した筋違いなものであり、侮辱的だ。強制的に(従軍慰安婦に)された、強制的ではなかった、というのも問題の本質が分かっていないナンセンスな話だ。橋下氏は、慰安婦制度は、今は認められないが、風俗業は必要だと思うと語った後に、沖縄の米軍司令官に対し「もっと風俗業を活用してほしい」と述べたという。軍隊にある以上は、男性が「性的エネルギー」のはけ口として風俗を利用するのは当然だという感覚が信じられない。男性の〝攻撃的な部分〟を維持するための〝道具〟として女性を見ている。男性の性は攻撃的で、女性の人権を侵害しても当然だと言っているようなもので男性の性を下劣なものと見ている。男性に対しても失礼だ。(笑:サルメラ)性暴力をあたかも男性の「自然」な、「本能的」なエネルギーの発散かのように考えていることも問題である。橋下氏は、日本維新の会共同代表という、選挙で議員数を伸ばして首相を目指す責任ある立場にある。そういう立場を目指すのであれば、国際社会の中で人権や歴史的責任に対し鋭敏な感覚を持つべきだ。私も弁護士で、橋下氏も弁護士。弁護士は人権に対しとりわけセンシティブ(鋭敏)であってほしいのに、今回の発言はお粗末で衝撃的だった。13日の午前に発言して、午後にも発言している点に確信的なものを感じる。ある種の人たちに「本音を言う人」とでも思ってほしいのだろうか。
「橋下発言」はアメリカからどう見えるか
ニューズウィーク日本版 5月16日(木)冷泉彰彦(作家・ジャーナリスト)所用でニュージャージー州外に行っていたのですが、その間にこの問題がどんどん拡大していたのには驚きました。現在の事態は、この欄で過去に申し上げた「管理売春は現代の基準では性奴隷」という指摘、また「国境を越えたコミュニケーションでは理念型の発信しか通用しない」というコメントが生かされなかった点、何とも残念に思います。以下は、とりあえず、現時点で気づいたことを箇条書きにしておこうと思います。(1)アメリカなど欧米諸国はキリスト教国だから性的なタブーの強い「偽善的な国」だという主張があります。もしかしたら問題の奥の背景にはそうした宗教やカルチャーもあるのかもしれません。ですが、アメリカがいい例ですが、買春行為に対して社会が厳しい目で見ているのは宗教や文化のためではないと思います。核家族のイデオロギーが確立する中で、買春行為というのは、妻と子への裏切りであり、社会の最小単位である核家族を破壊し、自分以外の家族のメンバーの幸福を奪う行為だからです。(2)同時に買春行為というのは、売春をする側の女性の尊厳を金銭を背景とした暴力で踏みにじる行為だとも言えます。勿論、価値観の多様化の中で自身の意志でそうしたビジネスに関与する女性も存在するわけで、そうした人々への不必要な蔑視はなくなっていますし、こうした問題に厳しいアメリカでも州や都市によっては規制の緩い場所もあります。ですが、本人の意志に反して行われた場合は、社会的には厳しい指弾を受けるのが通常です。(3)この点に関しては、日本のいわゆる「風俗産業」に関しては、芸能活動や通常の接客業と偽って採用した女性に、借金を背負わせたりする中で売春行為を事実上強制するということが根絶できていないようです。このうち、対象が外国人の女性となるケースに関しては、例えば米国の国務省が「事実上の人身売買行為」として監視対象に入れています。(4)日本人の場合は国内問題であり、米国国務省は特に言及していませんが、今回の「発言」のような要人の「不規則発言」が続くようですと、国連の機関などが調査に乗り出す可能性はあると思います。改めて確認したいのですが、「自己破産を妨害して風俗営業に女性を送り込む」というような行為が、仮に現在でも横行しているのなら、それは現代の国際的な常識であれば人身売買であり、そうした行為や産業の存在は許されるものではありません。(5)この問題の報道ですが、アメリカに関して言えば、橋下市長の個人的な問題という文脈で語られるだけだはありません。むしろ「安倍政権には超国家主義者(ウルトラナショナリスト)的な懸念がある」ということがあり、その延長で「アジア諸国との関係が悪化している」という問題と絡めて解説されることが主です。その場合には、この「橋下発言」と「高市早苗自民党政調会長の村山談話否定コメント」が同列視された上で、日本の保守派の「ホンネ」だとされ、全体としては安倍政権への疑念という形に集約されています。(6)(7)略(8)いずれにしても、今回の一連の経緯により、売買春に関する価値観という問題と、第二次大戦の評価という問題で、日本という国のイメージは大きく傷ついています。今回の「飯島訪朝」問題もこれに絡む可能性があり、これからの日本の外交は選挙を控えて難しい局面に向かう可能性があります。
.これ以上慰安婦問題で騒ぐ事は止めたほうがいい
天木 直人 / 外交評論家
2013年5月16日「米国から見れば、(安倍)首相も日本維新の会の橋下徹さんも同じように見られるだろうなあ。あと高市早苗さんも。まずいよな、これは」。この言葉はきょう5月16日の毎日新聞に掲載されていた公明党幹部の言葉である。そしてこの言葉はそっくりそのまま私がきのう5月15日の日刊ゲンダイの電話取材に応じて語った言葉である。それはきょう5月16日午後に駅前やコンビニで発売される日刊ゲンダイの安倍批判記事となって読者の目にとまることになる。実際のところ、歴史認識や慰安婦問題についての日本国内の騒ぎは、いい加減止めたほうがいい。米国は、いや世界は、日本の事などほとんど知らない。そんな中で慰安婦問題を騒ぎ続ける日本は、売春問題に取りつかれた気色の悪い国としか映らないだろう。橋下氏も愚かだ。あっさり非を認めて沈黙すればいいものを、今でも自己弁護を繰り返す。もっとも慰安婦問題を国際問題化した張本人はもちろん安倍首相である。そのイメージはいくら本人が否定しても橋下氏や高市氏と重なる。これ以上政治家もメディアも慰安婦問題で騒ぐのは止めたほうがいい。日本の恥を世界にさらし続けることになる。(その考え方が、いつのまにかこの国が「性奴隷の国」呼ばわりされることを容認してきた/サルメラ)
↧
橋下慰安婦舌禍騒動/米国にとっての不都合な真実Ⅱ
↧