吉本荒野:「学校の教師じゃできないからねー。生徒の教育のために家庭環境を変えるなんてサ」沼田慎一「…正気の沙汰じゃない」吉本荒野:「この国自体が歪んでるんだからしょうがない。今の時代に、まっとうな教育なんか通じるわけないんだよ」沼田慎一「勝手なこと、言うなよ。俺たちはこの国も今の教育も間違ってるなんて思っちゃいない」吉本荒野:「hahahaha…ホントにそう思ってるのか?考えることを放棄して、周りの意見に流されてるだけじゃないのか」沼田慎一「ふっ、だったら、歴史の事業を例に取ってみよう。人類の誕生から初めて俺たちに身近な近代史はなぜか三学期に駆け足で終わらせる。100年も経っていない首相の暗殺事件でさえ、教科書ではたったの数行でしか語られない。どんな背景があって、どんな思いがあって殺されたのか、本来ならそういうことを学ぶべきなんじゃないのか?だけど誰もそれをおかしいとは思わない。何故なら、そんな詰め込み式の教育でも社会がそれなりに機能していたからだ。だがその歪みはアイデンティティの喪失として表れた。自分のルーツを曖昧にしか理解していない俺たちは、自分に自信が持てなくなり、戦うことを恐れて他人と同調するようになった。メディアに踊らされて一方的な意見で物事を括りたくなるのがその最たる例だ。俺たちはいつの間にか個性を奪われて、誰かに依存しなければ生きていけない骨抜きにされているんだよ。」沼田慎一「……な、何言ってるんだよ。そんな話、俺たちにカンケーないから」吉本荒野:「あるんだよ。カンケーあるんだよ!そんな教育を受けて平和ボケに浸かってる人間が、無意識のうちに、悪意だと感じない悪意で、穢れなき弱者を、追い詰めているんだ」
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家族ゲーム/アイデンティティ難民を生んだ戦後教育
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