現代ビジネス
大阪都構想:隠された真実を考える
~なぜ、大阪市民の税金は、市『外』に流用されるのか?~
文/京都大学大学院教授 藤井聡
2015年02月11日(水)
「現代ビジネス」2月9日公開、高橋洋一氏原稿に藤井聡氏から反論が寄せられた
住民投票で一番大切なのは、必要な事実を共有すること
現大阪市長と私藤井との間の、いわゆる大阪都構想(以下「都構想」と呼称)を巡るバトルが、俄にネット、メディア上で取り上げられた。事の発端は、当方が購読者3万人程度の小さなネットメディアにて、「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/)なる記事を本年1月27日に公表したことだった。
しばしば、藤井は「都構想」について刺激的な発言をしたと思われている様だが、上記記事をご覧いただければすぐにご了解いただける様に、その論調は至って淡々としたものだ。そもそもこの記事は、「賛否はさておき,(投票)判断に向けて大切な,いくつかの『事実』の情報を提供したい」と明記してある通り、「都構想」を頭ごなしに否定するようなものではない。
にも関わらず、大阪維新の会からは幹事長(つまり大阪府知事)名義で、当方に対して「激しい憤りの抗議」を表明すると同時に、党代表(つまり大阪市長)と「公開討論」を要請する文書が送られてきた。そしてその前後から、大阪市長のツイッターや記者会見等での当方に対する粘着質な罵倒が繰り返され、挙げ句に本学総長や国会にまで問いただすと宣言するまでに至った。
こうした状況に対する当方の対応は既に、HP『権力による言論封殺には屈しません』(サトシフジイ ドットコム:http://satoshi-fujii.com/)にて公表しているのでそちらをご参照願いたい。今、大阪で何が起こっているのかを、是非、知っていただきたいと思う。
それはさておき、こうした騒動がメディア上で「過激なバトル」として様々に取り上げられたが、今回の一連の「騒動」の発端となった『7つの事実』の原稿は、そうした騒動の過激さからはほど遠い程に穏やかな内容だ。それはただただ、「都構想」の住民投票に関連する次の様な7つの「事実」を淡々と指摘するものだった。
事実1:今回の住民投票で決まっても、「大阪都」にはなりません。
事実2:今の「都構想」は、要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです。
事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。
事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。
事実5:特別区の人口比は東京は「7割」、でも大阪では「たった3割」
事実6:東京23区の人々は、「東京市」が無いせいで「損」をしています。
事実7:東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく、「一極集中」の賜です。
これらの事実は、それをメリットと見るかデメリットと見るか、どう解釈するかは人それぞれだが、知っているかどうかは「都構想」の投票判断に直接間接に影響を及ぼし得るものばかりである。
例えば、都構想の住民投票で都構想が認められても、大阪府の名称は大阪都に変わるわけではない(事実1)が、この事実を知らない大阪の方は実に多い。しかも、この事実を伝えた時の多くの方の反応が「えっ?そうだったの。なぁんだ。」という反応だ。しかしこれは事実なのだから、これを未周知のままでは当然フェアな投票はできない。
事実2は、区割りの問題だ。数年前には周辺自治体も含めて再編を行い広いエリアで「特別区」を設置する構想だったのだが、現時点は大阪市「だけ」を五分割するものとなっている。この点をして、しばしば今回の「都構想」は「大阪市五分割構想」と言った方がわかりよいのではないかという声もある程だ。言うまでも無くこの事実は、投票者全員に共有されねばならない。ただし最新のアンケートによれば、知っている大阪市民は実に53%しかいないという。この事実の周知は絶対必要だ(なお事実5,6,7については本稿では触れないが、またの機会に詳しくお話したいと思う)。
「大阪市民へのサービスは変わらない」という説明を鵜呑みにしてはならない
さて、これら7つの中でもしばしば論争となるのが、「事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。」「事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。」の二つである。この前者の方はその趣旨を否定する論調は聞こえてこないが、特に論争となるのは後者の事実4だ。
言うまでも無く筆者は、この事実4は、紛う事なき事実であると確信している。その根拠は既に、先に紹介したインターネット記事の翌週に公表した「大阪都構想(2)」の記事の第二部『なぜ,大阪市民の税金が,大阪市「外」に使われるのか?』の中で子細に論じている(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/02/03/fujii-129/)。
ただし、この記事はまだ知られていないようで、この「事実4」の正当性は、未だ広く周知されていないようだ。
例えば、現在、大阪市特別顧問をお勤めで、大阪都構想の検討段階でもアドヴァイスをしてこられた(そして、筆者もよく存じ上げている)高橋洋一教授が、この「事実3」「事実4」について論じている。そして、それらは「問題無い」(厳密に言うと、「事実4」は起こりそうにない)と指摘している。なぜなら、「住民が受けるサービス自体には変化がない」からだという。そしてこの点を持ってして、「橋下市長より藤井教授のほうが分が悪い」と指摘している。(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42011)
しかしそれは残念ながら誤解であり、「大阪都構想(2)」で子細に論じた内容にお目通しになる「前」のご判断なのではないかと思う。詳しく理由を述べよう。
確かに、現在の行政が用意した「協定書」では、そのように書かれている(それは、当方の『7つの事実』の原稿でも「行政的にはもちろん,そのように説明されています」という文言で既に指摘している通りだ)。
しかし、そうした行政的説明はあくまでも「タテマエ」にしか過ぎないのであって、行政がどれだけ「大阪市民のサービス自体には変化がありません」と説明したとしても、実際にその制度を運用した時にそのタテマエが実現するかどうかは、全く別問題だ。つまり、そして高橋氏の議論は、あくまでも「タテマエ論」として正当であるに過ぎないのである。
例えば、2007年に郵政が民営化された際、郵便局を複数に分社化してもサービスレベルは悪くならない、むしろ良くなる、と言われていたのをご記憶だろうか? 当時の政府資料にはそういう趣旨のことがいつも明記されていた。しかし蓋を開ければ、ものの見事に、その「タテマエ」の約束は破られた。
事実、国会で「時間外窓口の廃止や遅配が相次ぎ、地域住民の利便性が著しく低下したという現状」(平成二十年十月二十三日衆議院)が問題となっている。なぜそうなったのかと言えば、その郵政改革案が「サービスレベルを下げない」という事を「保証」する程に十分に作り込まれたものではなかったからである。そしてそうなるであろうことは、実は民営化「前」から明白な事実として様々に指摘されていたのだが──当時は、そういう声は全て「無視」され、結果、郵政は民営化され、案の定サービスレベルは低下したのである。
つまり、制度改革の前の「政府のタテマエ」的説明は、鵜呑みにしてはならないのである。それを信ずるか否かを判断するには、その改革の「中身」を詳しく精査しておかねばならない。
そして筆者が協定書に書かれている都構想の仕組みを「精査」した結論こそが、「今、大阪市民に使われている税金の一定部分が、大阪市「外」に使われるようになる」という「事実4」だったのである。
なぜ,大阪市民の税金が,大阪市「外」に使われるのか?
ではなぜ、筆者がそう確信したのか。詳しくは、筆者の原稿(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/02/03/fujii-129/)を精読いただきたいが、ここでは、その要点のみを簡潔に述べてみよう。
まず、都構想が実現すると、現時点では、2200億円の市民の税金が、それに対応する事業と共に大阪府に移される。「行政的説明」では「だから、大阪市民のサービスレベルは変わらない」ということになっている。が、政府の仕組みというのは、それほど単純なものではない。
まず理念的な視点から説明しよう。そもそも、都構想の理念は「ワン大阪」。つまり、「府と市」の境を無くすことである。一方で、「大阪市民の税金が,大阪市「外」に使われないようにする」ためには、当然ながら「府と市」の間に「壁」を作らなければならないが、これはワン大阪の理念に反しているため、「実質上」ワン大阪の理念のこだわる限り、その「壁」は完璧なものとはならない。一方で大阪市と市以外でどちらが豊富な税収があるのかと言えば、言うまでも無く大阪市だ。したがって、市と府の間の「壁」が無くなり、財政上のワン大阪となれば、水が高きから低きに流れるように市のカネが府で使われるようになるのは必定なのである。
──ただし、以上の説明はわかりやすいが、理念的過ぎ、厳密さにかける。ついては以下、制度の話をしよう。
第一に、「大阪市の税金が市外に使われる事を防ぐ」という現在の行政の説明を保証するには、大阪市から大阪府に吸い上げられた税金(2200億円)の使い道を、現大阪市民(特別区民)が「管理」しなければならない。しかし、その2200億円の使い道を管理するのは「大阪府」なのである(協定書に明記されているように大阪府の一般会計に繰り込まれるからだ)。
もうこの時点で、2200億円の市外への流用を食い止めることが難しいことが分かる。そもそも大阪府の議会も知事も、その3割が現大阪市民の付託を受けて選ばれているが、残りの7割は大阪市民以外の府民である。したがって、知事も議会も、現大阪市民の意向「だけ」に基づいて、予算執行をすることなど不可能だ。したがって、うまくロンダリング(転用)さえすれば、おカネに色が付いていない以上は、今、大阪市民のために使われている市民の税金が、他の自治体や、「府の借金返済」に回されていく蓋然性は、すこぶる高いと言わざるを得ない。
第二に、ただしこの2200億円については「特別会計」をつくり、その使い道をチェックするとも説明されている(市議会答弁)。このチェックが完璧で、かつ、違反があった場合に強制できる権限が特別会計側にあれば、流用は避けられる。しかし、肝心の「協定書」にはその特別会計は明記されておらず、もちろんその権限も保証されていない。
第三に、万一仮にそれが保証されたとしても、その特別会計が、大阪府の一般財源という「別の財布」からの使い道を、どこまで調整できるのかといえば、実務的には絶望的に難しい。特別会計にて2200億円を大阪府がどう使ったのかを逐一チェックしていく作業は膨大なものとなり、現有の行政マンパワーを考えれば、実務的にほとんど不可能といって差し支えない。
第四に、その特別会計を司るのは、5つの特別区(つまり大阪市)と大阪府と構成される「都区協議会」である。言うまでも無く、大阪府と各区では、実質上の政治的なパワーは対等でなく、したがって、仮に特別会計をこの協議会で厳密にコントロールすることになっても、そのコントロール主体に強力なパワーを持つ大阪府の意向が強く反映されてしまうことは避けられない。
現在、行政が今、明言しているように「大阪市民の税金の流用を回避する」ためには、中には絶望的に成立不可能なものを複数含めたこれらの条件の「全て」をクリアせねばならないのだが、それは当然、「絶望的」と言える。そもそもそれらの条件はいずれも、法的拘束力のある「協定書」には書かれていないからである。結果、「市民の税金は余所には使われません」という説明は、あくまでもタテマエであって、そう断定できるような制度は整備できそうにないのが実情なのである。
穴の開いたバケツに水を注げば、水が漏れる
──いかがであろうか?
無論、判断は全て読者に任せるが、以上の議論は筆者にとっては明白であるとしか思えない。それは「穴の開いたバケツに水を注げば、水が漏れる」ようなものにしか思えないのであるのだが、いかがであろうか。
いずれにしても筆者は、都構想の投票の開催にあたり、少なくとも筆者が学者として事実だと考えるこの7つの項目については大阪市民、広く日本国民の皆様にはしっかりと吟味いただきたい、と心の底から祈念している。
そしてそれを受けて、その他の要素も総合的に加味しながら賛否の判断を下すのは、誰あろう大阪市民だ。
ただし、学者も政治家も、適正な情報を発信し続けることが不可欠であることは論を待たない。さもなければ、かつての郵政改革のように、目をつむったまま道路を横断するようなマネをすれば大怪我する他ないからである。「後悔先に立たず」、我々は今一度、この言葉をしっかりとかみしめるべきなのだ。
そしてそのためにも、「抑圧の無い自由な議論」は不可欠なのである。
謝辞:「都構想」についての議論は今、小さなネット記事ですら「抗議」の対象に晒される様な抑圧的環境の中に置かれています。そんな中、筆者に「真面目な政策論」についての言論機会を提供いただいた「現代ビジネス」に心から深謝したいと思います。ならびにそのきっかけをいただいた高橋洋一教授にも深謝の意を表します。ありがとうございました。
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平成27年2月7日
権力による言論封殺には屈しません
藤井 聡
「大阪都構想」にいま一番必要なのは議論のための「自由な空気」です。
しかし今、その自由な空気が「大きな権力」によって封殺されようとしています。
詳しくお話いたします───私、藤井聡は1月27日、
「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」
という原稿で7つの事実を指摘しました。
事実1:今回の住民投票で決まっても、「大阪都」にはなりません。
事実2:今の「都構想」は、要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです。
事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。
事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。
事実5:特別区の人口比は東京は「7割」、でも大阪では「たった3割」
事実6:東京23区の人々は、「東京市」が無いせいで「損」をしています。
事実7:東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく、「一極集中」の賜(たまもの)です。
そうしますと2月2日、大阪維新の会からこの文書が送りつけられてきました。
要するに、私が大阪都構想について間違った情報を流し、市民に誤解を与えているというのですが──何度読み直しても、さっぱり意味が分かりません。
第一に、そもそも私の議論のどこが間違っているのか何の指摘もありません。これでは討論を始めることすらできない。
第二に、「憤りを感じ、強く抗議」と書かれているのですが、「憤りながら抗議」するならそもそも、「冷静な議論」は無理です。
第三に、当方の記事発表後から、今日までの橋下市長によるツイッターや記者会見での私に対する執拗な罵倒、例えば、「バカですから」や「チンピラ」等は異常としか言いようがありません。とても自治体の首長の振る舞いとは思えません。
つまりこれは「討論」でなく、「ケンカ」の申し入れなのです。
しかも私は、この申し入れを一種の脅迫と解釈しています。「公開討論という名の『ケンカ』を売られたり、ツイッターや記者会見などで罵倒されたりするのが嫌なら大阪都構想について発言するな!」と脅す、そんな手口なのです。
冷静な議論ならいざ知らず、橋下代表と在特会桜井氏との公開討論を見ましたが、あのようなやり合いが「市民の公正な判断の機会」になるとも、到底思えません。
したがって、大阪維新の会からの公開討論の申し入れには応じません。返答をするつもりもありません。
今回の「根拠を明示しないままの申し入れ」は、大阪府知事と大阪市長、そして、公党代表・幹事長という強大な公権力者による言論封殺と言わざるをえません。
おそらく橋下市長やそのシンパ(信奉者)達は、私が公開討論に応じなかったことをもって「藤井が逃げた!」と叫び、橋下市長の正当性を印象づけようとし、言論封殺を繰り返すでしょう。よろしい、叫び続ければよい。しかし私は、そんな「言論封殺」には屈しません。
私、藤井聡は今後とも、日本、そして何より我が愛する青春の街、大阪のために、大阪都構想に対して発言し続けます。私の言論はいかなる圧力、脅し、あるいは嫌がらせにも、絶対に、屈することはありません。
「都構想」の投票日100日前/平成27年2月7日 藤井 聡
【関連記事】↓
橋下市長(ツイッターより):
京大の藤井教授。
やっぱりでしたが、公開討論に応じないとのこと。
理由はいっぱい付けていますけど。
普段は国が!国民が!と言ってるいるのにね。
彼の主張は、地方行財政学上、でたらめです。
その証拠に、その専門家は、彼のような主張は一切しておりません。
彼は地方行財政には完全な素人。
藤井教授の主張はまとめると、
1、今度の住民投票では「都」にならない
2、大阪都構想になると大阪市民税が大阪市域外に流れるの2つ。
1、は名称の問題。
大都市に特別区を設置して府の広域行政機能を強化することを都制と言います。
名称は次の問題。
名称は、維新の党で法案を出します。
名称だけを「都」にしても、2重行政の解消にならないし、住民自治の充実にもなりません。
実力もないのに内閣官房参与という肩書だけを持っている学者のようなものです。
今回の争点は、大阪の2重行政を解消し、大阪市内の住民自治を充実させること。
名称は関係なく、特別区の設置こそが都制、都構想。
5月の住民投票が可決されれば、大阪は都制になるのは間違いありません。
名称は法律で変えます。
2、大阪市民の税金は大阪市域外に流れません。
これまで大阪市役所が担当していた、大学、消防、港、広域高速道路などの仕事を大阪都庁に担当させます。
その際に2200億円のお金を都に移します。
これまでの大阪市役所が発行した市債の償還財源もこの2200億円に含まれています。
このことをもって大阪市域外に流れると藤井氏は主張していますが、地方行政の現実を何も知らない反対のための反対論。
お金とともに仕事の負担も移るのです。
仕事の担当者替えです。
これまでは大阪市役所や大阪市議会が担当していた仕事を、大阪市議会ではちゃんと仕事ができないから、大阪都議会に移すだけです。
市民にとっては何の影響もありません。
そしてこのお金と仕事のチェックは、特別会計で管理します。
都区協議会がチェックします。
大阪市民の税金が市域外に流れるって、熱烈反橋下、反維新の非専門家が言うならまだしも、一応京大の教授ですからね。
地方行財政学の学者からは、藤井氏の主張のようなバカな主張は全く出ていません。
この人土木専門なんですから、その範囲で意見を言っていた方が良いですよ。
いずれにせよ、藤井教授は、僕との公開討論から逃げてしまいました。
コメンテーターも、ジャーナリストも、メディアの論説委員も、もっと言えば自民党、公明党、民主党、共産党の誰でも僕と公開討論をやってくれたらいいのに、反対派は誰も僕とは公開討論をしません。
民主主義のためにならないですね。
『高橋洋一(嘉悦大)@YoichiTakahashi
大阪都構想の算数。
BEFORE,AFTERでみて、府民税+市(区)民税は同じ、
府+市(区)の必要予算は二重行政排除で減少。
これから、府と区の役割分担をやれば、府民+区民の受益は必ず増加する。
府と区の役割分担は東京を参考にすれば東京よりうまくできる。
反対するのは二重行政の利権者だ。』
Retweeted by 橋下徹
『高橋洋一(嘉悦大)@YoichiTakahashi
大阪都構想の算数(2)。
必要予算が減少・税負担が同じなら浮いた分で新規事業が可能で府民+区民の受益は必ず増加する。
こういうのはパレート最適といい少なくとも今より損にならない。
細かい話はあっても方向性は間違いない。
二重行政排除で住民受益を増やすか、二重行政維持で既得権擁護かの問題。』
Retweeted by 橋下徹
高橋洋一「ニュースの深層」
橋下徹・大阪市長vs.内閣官房参与の
大阪都構想めぐるバトルが、案外面白い
2015年02月09日(月)
高橋 洋一
著者プロフィール&コラム概要
橋下徹・大阪市長の都構想をめぐるバトルが面白い photo Getty Images
ISIL(いわゆる「イスラム国」)のテロはみていられないが、国内での政策議論は非暴力であり、大いに結構である。大阪都構想について、5月17日に住民投票を行う方向となっており、それに向けて、関西で面白いバトルが展開されている。
橋下市長より藤井教授のほうが分が悪い
筆者は東京生まれ・育ちなので、大阪人の行動スタイルは、言い方が悪いかもしれないがとても興味深い。以前の大阪の地下鉄では、誰も並ばずに、ドアが開くと、アメフットボールでオフェンスとディフェンスがぶつかり合うように、電車から出る人と入る人がぶつかり合う光景に驚いたものだ。最近では、東京のように行儀よく列に並んでいるので、大阪らしさがなく、ちょっと残念だ。
大阪都構想について、これまで刺激的な発言をしてきた内閣官房参与を務める藤井聡・京都大大学院教授に対し、橋下徹・大阪市長は公開討論を申し入れていたが、藤井教授が拒否してしまった。
筆者は両人ともに個人的によく知っているだけに、おおいに公開討論を期待していたが、本当に残念である。藤井教授の言い分は、「権力による言論封殺には屈しません」ということで、自身のサイトに公表されている(http://satoshi-fujii.com/)。
藤井教授は、「討論ではなくケンカの申し入れで一種の脅迫」としているが、テロのように命が取られるわけでないのだから、関西のノリで橋下市長との公開討論がみたいと思っている人が多いだろう。
橋下市長と藤井教授のやりとりは、ネット上でわかるが、いささか両者ともに口が汚かったと思う(関西人なので、これもありかと思う)。ただし、内容について政策論の観点からいえば、正直いって藤井教授のほうの分が悪い。
特に、藤井教授がいう「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/)のうち、財政に関する「事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。」と「事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。」を取り上げてみよう。
「政府」と住民の関係は変わらない
大阪都構想については、大阪都構想特設サイト(http://oneosaka.jp/tokoso/)、大阪府・大阪市特別区設置協議会の開催概要(http://www.city.osaka.lg.jp/toshiseidokaikakushitsu/page/0000207789.html)などに詳細な資料があるので、それらを参照すれば、ほとんどわかる。
なお、筆者は、大阪府知事・大阪市長による府市再編に関する有識者ヒアリング(http://www.city.osaka.lg.jp/toshiseidokaikakushitsu/page/0000239980.html)の第3回(2014年1月28日)に出席して、東京都における都と区の役割分担の意見を述べている(2014年2月3日付け本コラム「橋下市長の辞職・出直し選を機にあらためて問う。「大阪都構想」の何が問題か?」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38258)。また、大阪都構想を実現させるための立法を政策提言したこともある。
まず、大阪都構想は、大阪市の代わりに5つの特別区を作ることだ。それまでは、一人の市長を選挙で選び、その市長が24人の行政区長を任命していたが、5人の特別区長を選挙で選ぶことになる。
行政区とはいえ、大阪市に24区もあるのは、特別区23区しかない東京人からみればちょっとした驚きだ。しかも、大阪に行くと、区長の名前も顔も知らないという。役人行政区長なので、仕方ないのだろうが、公選特別区長が当たり前の東京人からみれば、これも驚きであった。
いずれにしても、こうした市を複数の特別区に置き直すことは、広い意味での政府内組織再編である。広い意味での政府というのは、市を特別区に置き換えても、地方政府であることには変わりない。住民からみれば、市も特別区も地方政府である。しかも、行政区ではない特別区であれば、市と同じ「基礎的自治体」として、地域において重要な役割を果たすことができる。
政府内組織再編であるので、政府と住民との間の関係が変わることはない。これがまず基本である。市から特別区に変わっても、基本的には市民税が特別区民税にかわるだけだ。いずれにしても、府民税+市(区)民税は大阪都構想の直前・直後で同じだ。
藤井教授のいう「税金の流出」は、なさそうだ
行政サービスでは、大阪府と大阪市の枠割り分担が見直され、サービス主体が変わる。東京都の場合でも次のような役割分担が、都と特別区の間である。
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しかし、住民が受けるサービス自体には変化がない。ここでも、府+市民が受ける行政サービスは大阪都構想の直前・直後で同じだ(地下鉄のように民営化があっても、住民が受けるサービスは変わらない)。この役割分担に応じて、府と特別区の間で税金の移転がある。
以上のことからいえば、藤井教授のいう「事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。」と「事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。」には何の意味もない。大阪市から税金が流出しても、その分大阪府が市に代わり行政サービスをするだけだ。このため、住民の税金も、受ける行政サービスも変化がないというのが基本である。
これは、大阪都構想が、広義の政府内組織再編だからだ。ある会社の製品を購入する場合、その会社内で組織再編があり、製造セクションが会社内で変わったとしても、消費者からみれば、同じ製品で同じ価格であるのと同じだ。
ここで、大阪府と大阪市に二重行政がまったくなければ、大阪都構想のメリットは、一人の公選市長から5人の公選特別区長を選び出すという点だけになる。ただし、そうであっても、人口270万に一人の市長より、5人の特別区長のほうが住民の意向は通りやすくなるだろう。その他の点は、政府内組織再編なので、住民には不利益はない。つまり、大阪都構想で住民は悪くならないというわけだ。
大阪府と大阪市に二重行政があれば、上の住民参加のメリットに加えて、財政上のメリットが住民は受けられるようになる。二重行政のムダを省くことによって、行政サービスの水準を落とさずに、必要な予算額を減少させることが出来る。そこで浮いた予算を他の分野に振り向けることによって、同じ税負担であるが、行政サービス水準を向上させることができるのだ。
この点を具体的に考えてみよう。
大阪市立大と大阪府立大
大阪市には大阪市立大学、大阪府には大阪府立大学がある。これは、大阪都構想からみれば、二重行政だ。市が特別区になれば、区立大学はありえない。よって、大阪市立大学と大阪府立大学は統合されて、「新」大阪府立大学になる。その際、直ちにではないだろうが、徐々に、二重部門は統合されていく。
大学の間接管理部門は、遠からず整理・統合されていくだろう。教員もゆっくりであろうが、長い期間をかけて科目統合などが行われるだろう。統合された部門では、外部調達も一本化される。
そうなると、大学の間接管理部門や外部調達の一本化等によって、いずれ不利益を被る人が両大学の内外で出てくる。もちろん、そうした人に個人的な落ち度はないのだが、二重行政によって、住民が余計な税負担をしているのも事実であり、そうした点を長期的に制度改革で直そうというのが、大阪都構想である。
制度が悪いと、知らず知らずのうちに二重行政の既得権者を作ってしまう。個人の段階では悪意がないだけに気の毒であるが、長い目で見てその是正を行うのは政治の責任である。
上で述べた特別区設置協議会サイトにある特別区設置協定書等をみると、府と特別区の役割分担が書かれている。この中で、大学事務の他にも、従来は市の事務が府の事務になるものもある。それは従来の市の事務の12%程度だ。
この分野では、二重行政でなくても、市の職員は仕事が引き続きあるのか不安になり、また外部の取引業者は相手が市から府に代わるので、大阪都構想には消極的になるかもしれない。ただし、二重行政さえなければ、単に看板の掛け替えなので、市の職員も外部の取引業者もそれほど心配することではない。
いずれにしても、大阪都構想は、複数の特別区長を公選する住民参加と二重行政のムダを排除して住民受益を向上させる方向性は間違いない。
これに反対する者は、大阪都構想ではなく現状のほうが住民参加と住民受益を向上させる点で優れているといえるのだろうか。橋下市長は公開討論を厭わないだろうから、どんどんオープンにしたらいい。
橋下市長のツイッター(@t_ishin)や藤井教授のサイト、それに両者のバトルは、これまでにない方法なので、興味深い。最後に繰り返すが、公開討論がないのは本当に残念である。
40歳の日誌 - 箕面市長 倉田哲郎blog
2015年02月08日
「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」をマジメに考える
※ 最近、この手の話はツイッターにしてるのですが(特に理由はないです)、
7つもあって分離するとわかりにくくなるので、今回はブログに書くことにしました。
ニュージーランドから帰国してみたら、京都大学教授の藤井聡氏なる人が書いた「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」なるものが盛り上がっていました。
「ヘドロチック」発言ばかり話題になりますが、そもそも「7つの事実」とやらが(僕は“ヘドロチック”のことを知る前に読んだのですが)、正直、どれも「え?」という内容でしたので、以下、順番にコメントしておきます。
【事実1】今回の住民投票で決まっても,「大阪都」にはなりません.
“大阪府の名称は住民投票では変わりませんよ”って話。
・・・これを一番にもってくる時点で、正直、唖然(@_@)としました。
名称なんてどうでもいいのです。
それは5年前に「『大阪“都”構想』をどう思う?」で、僕自身が「自治体呼称としてのネーミングはやはり『大阪府』が好みですが」と書いたとおり。
中身が大事。
それを「事実1」とか言って最初に大々的に主張されてる時点で、学者さんが書く主張として、あまりにアホらしくてビックリしました。
【事実2】今の「都構想」は,要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです.
そのとおり。
問題の本質は、京都府全域(人口255万人)を上回る異常な規模の「大阪市」(267万人)が、狭いのに「大阪府」と縄張り争いするという構造的歪み。
府・市のどっちかが悪いとかじゃなくて、構造が悪い。
その構造問題の解消手法が特別区化。
今も昔も都構想はまったく同じ。
5年前に「『大阪“都”構想』をどう思う?」で書いたとおりです。
なお、府市・都区の仕事の分担(誰が仕事をするか)が変わるだけで、必ずどこかの部署がこれまでどおりの行政サービスをしますから、大阪市民が○○区民になっても不利益はありません。
むしろ○○区役所は(箕面市役所のように)コンパクトで身近なものになります。
【事実3】年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します.
この不見識には驚きました。
大阪市民も大阪府民でしょう?
住民は、大阪市(区)からでも、大阪府(都)からでも、ちゃんとサービスが充足されるなら、どちらからでもいいはずです。
そして、住民は、民主主義を通じて「市(区)」「府(都)」をコントロールします。
それなのに、今の大阪市の2200億円分のサービスが、どこか大阪市民の手の届かないところへ行って使われてしまうような「流出」という表現。
特別区に権限がないから、大阪市「外」に流出する”という飛躍したロジック。
「都」は大阪市(区)民にはサービスを一切提供しない(区民≠都民)という完全に誤った立場からの説明としか考えられません。
これは、不見識か、作為的か、どちらかとしか言いようがないです。
【事実4】流出した2200億円の多くが,大阪市「外」に使われます.
これは、何回読んでも意味がわかりません。
なにを根拠に言ってるのか、藤井聡氏の書く「都道府県の財政運営の『法的常識』」なるものがいったいなんなのか、誰か教えてほしいです。
・・・というか、京都大学の教授ともあろう人が「7つの“事実”」と称して書くことじゃないでしょう。
だって、文末が「・・・可能性も,十二分以上に考えられるわけです」ですよ。つまり、事実じゃないじゃないですか(笑)。
これはさすがに脇が甘すぎるんじゃないですか。
7つのなかで最もツッコミどころ満載の「事実」でした。
【事実5】特別区の人口比は東京は「7割」,でも大阪では「たった3割」
当たり前です。
密集する都市部では、人口は面積に比例します。
23区の面積は東京都全域の“28%”、大阪市の面積は大阪府全域の“たった12%”ですから、7:3の規模比率もキレイに一致します。
面積が“たった12%”で居住人口も「たった3割」の大阪市に、大阪全域から労働力が流入することで、大阪の経済は支えられています。
従って、藤井聡氏のいう「手厚い行政」は、面積「たった12%」の大阪市域だけでなく、より広域で行われるべきです。
そして、藤井聡氏は “面積12%に重点的に配慮することが大阪のためになる” という考えのようですが、それは違うでしょ。
大阪の場合、富を生み出すエリア(都心)を、いかに12%以上に広げて、関西全体の人たちを受け止めて発展できる都市インフラを構築できるか?を考えなければダメでしょう。
もう少し将来を考えてほしいところです。
【事実6】東京23区の人々は,「東京市」が無いせいで「損」をしています.
最後のほうになるにつれ、無理やり感が高くてイヤになってきます。
「もしも『東京市』だとしたら,東京都心はもっとさらに強烈な集中投資が進んでいる」とか書いてあるんですが、現実的に、これ以上なにを東京都心部に投資しろというんですかね。
要するに “大阪市内に住んでる人だけが得をすればいい” 、 “富が余っても絶対に周辺に投資はしないぞ!” という主張なわけですが、面積12%しかない狭い大阪市だけでどう発展しようというのか?と問いたいです。
【事実7】東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく,「一極集中」の賜(たまもの)です.
これには驚きました。
・・・これは書くべきじゃなかったと思います。
言うに事欠いて、“大阪は努力せず諦めろ”ってことでしょう?
誰も、行政組織が「都」に再編されたからって、いきなりバラ色になるなんて思ってませんよ。
今までより少しでもマシな仕組みにして、ちょっとでも大阪の停滞を打破しようよって、ささやかな希望だけです。
それなのに藤井聡氏は、
「そもそもの経済規模が全く違うのからなのです」
「人口についても経済規模(GDP)についても,大阪市と東京23区との間には,実に4倍前後のもの巨大な格差があるのです」
「首都東京に,あらゆるモノが一極集中している」
「これが,東京23区の豊かさの秘密です」
などと、一生懸命に東京の凄さを説き、
“大阪には無理だから” 、 “努力しても無理だから” と教えてくださってるようです。
要するに、大阪はどんなに頑張っても無理なんだから、改善する努力すら無意味だから諦めろよ、と。
・・・これはいただけない。
以上、最後のほうは(大阪で政治に携わってる者として)ちょっと腹立たしくなるのが自然だと思います。
万が一、この「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」なる主張に賛同する大阪の政治家がいたら、それは辞めていただいたほうが大阪のためになります。
・・・特に「事実7」の記載はクリティカル。
さて、現在、藤井聡氏は、大阪維新の会からの公開討論の申し入れに対して、
「私の議論のどこが間違っているのか何の指摘もありません。
これでは討論を始めることすらできない。」
と書いています。
正直言って、橋下市長ほか大阪の政治家が、指摘する気すら失せているだろうことは、上記のとおりよくわかります。
・・・それでも誰か書いといたほうがいいかなと思ったので、(僕は大阪維新の会じゃありませんが)大阪都構想に賛同する身として、マジメにコメントしておきました。
是非の議論は大歓迎です。
反論いただけるならどうぞ。
(なお、僕は仕事柄、公開討論などもお受けできますので。)
いずれにせよ、5月17日に向けて、議論が熟す一助となれば幸いです。
posted by 倉田哲郎 at 01:29 | 活動日誌
サルメラ(ツイッターより)
2015年2月01日
@t_ishin 藤井教授のブログ見ました。
1から4は当たり前の話を悪意的に解説してるだけ。
名前なんか、都でもなんでもいいし、
後は否定も肯定もできない話ばかり。
@t_ishin 5については、大阪都構想は東京を反面教師としてマイナーチェンジも施されてる。
そして、それがダメなら、またさらに改善すればいい話。
@t_ishin 6は、認識自体が間違ってる
羽振りが良くなるなんてハナから言ってない
公選区長がワケのわからない金の使い方をしなくなる、と言ってるんだ。
フェスティバルゲートの責任は誰がとった?
UFJは民営化して、大繁盛してるぞ。
これが現実。
@t_ishin そして7は、現状維持派の後ろ向きな、座して死を待つ典型。
大阪都構想:隠された真実を考える
~なぜ、大阪市民の税金は、市『外』に流用されるのか?~
文/京都大学大学院教授 藤井聡
2015年02月11日(水)
「現代ビジネス」2月9日公開、高橋洋一氏原稿に藤井聡氏から反論が寄せられた
住民投票で一番大切なのは、必要な事実を共有すること
現大阪市長と私藤井との間の、いわゆる大阪都構想(以下「都構想」と呼称)を巡るバトルが、俄にネット、メディア上で取り上げられた。事の発端は、当方が購読者3万人程度の小さなネットメディアにて、「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/)なる記事を本年1月27日に公表したことだった。
しばしば、藤井は「都構想」について刺激的な発言をしたと思われている様だが、上記記事をご覧いただければすぐにご了解いただける様に、その論調は至って淡々としたものだ。そもそもこの記事は、「賛否はさておき,(投票)判断に向けて大切な,いくつかの『事実』の情報を提供したい」と明記してある通り、「都構想」を頭ごなしに否定するようなものではない。
にも関わらず、大阪維新の会からは幹事長(つまり大阪府知事)名義で、当方に対して「激しい憤りの抗議」を表明すると同時に、党代表(つまり大阪市長)と「公開討論」を要請する文書が送られてきた。そしてその前後から、大阪市長のツイッターや記者会見等での当方に対する粘着質な罵倒が繰り返され、挙げ句に本学総長や国会にまで問いただすと宣言するまでに至った。
こうした状況に対する当方の対応は既に、HP『権力による言論封殺には屈しません』(サトシフジイ ドットコム:http://satoshi-fujii.com/)にて公表しているのでそちらをご参照願いたい。今、大阪で何が起こっているのかを、是非、知っていただきたいと思う。
それはさておき、こうした騒動がメディア上で「過激なバトル」として様々に取り上げられたが、今回の一連の「騒動」の発端となった『7つの事実』の原稿は、そうした騒動の過激さからはほど遠い程に穏やかな内容だ。それはただただ、「都構想」の住民投票に関連する次の様な7つの「事実」を淡々と指摘するものだった。
事実1:今回の住民投票で決まっても、「大阪都」にはなりません。
事実2:今の「都構想」は、要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです。
事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。
事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。
事実5:特別区の人口比は東京は「7割」、でも大阪では「たった3割」
事実6:東京23区の人々は、「東京市」が無いせいで「損」をしています。
事実7:東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく、「一極集中」の賜です。
これらの事実は、それをメリットと見るかデメリットと見るか、どう解釈するかは人それぞれだが、知っているかどうかは「都構想」の投票判断に直接間接に影響を及ぼし得るものばかりである。
例えば、都構想の住民投票で都構想が認められても、大阪府の名称は大阪都に変わるわけではない(事実1)が、この事実を知らない大阪の方は実に多い。しかも、この事実を伝えた時の多くの方の反応が「えっ?そうだったの。なぁんだ。」という反応だ。しかしこれは事実なのだから、これを未周知のままでは当然フェアな投票はできない。
事実2は、区割りの問題だ。数年前には周辺自治体も含めて再編を行い広いエリアで「特別区」を設置する構想だったのだが、現時点は大阪市「だけ」を五分割するものとなっている。この点をして、しばしば今回の「都構想」は「大阪市五分割構想」と言った方がわかりよいのではないかという声もある程だ。言うまでも無くこの事実は、投票者全員に共有されねばならない。ただし最新のアンケートによれば、知っている大阪市民は実に53%しかいないという。この事実の周知は絶対必要だ(なお事実5,6,7については本稿では触れないが、またの機会に詳しくお話したいと思う)。
「大阪市民へのサービスは変わらない」という説明を鵜呑みにしてはならない
さて、これら7つの中でもしばしば論争となるのが、「事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。」「事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。」の二つである。この前者の方はその趣旨を否定する論調は聞こえてこないが、特に論争となるのは後者の事実4だ。
言うまでも無く筆者は、この事実4は、紛う事なき事実であると確信している。その根拠は既に、先に紹介したインターネット記事の翌週に公表した「大阪都構想(2)」の記事の第二部『なぜ,大阪市民の税金が,大阪市「外」に使われるのか?』の中で子細に論じている(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/02/03/fujii-129/)。
ただし、この記事はまだ知られていないようで、この「事実4」の正当性は、未だ広く周知されていないようだ。
例えば、現在、大阪市特別顧問をお勤めで、大阪都構想の検討段階でもアドヴァイスをしてこられた(そして、筆者もよく存じ上げている)高橋洋一教授が、この「事実3」「事実4」について論じている。そして、それらは「問題無い」(厳密に言うと、「事実4」は起こりそうにない)と指摘している。なぜなら、「住民が受けるサービス自体には変化がない」からだという。そしてこの点を持ってして、「橋下市長より藤井教授のほうが分が悪い」と指摘している。(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42011)
しかしそれは残念ながら誤解であり、「大阪都構想(2)」で子細に論じた内容にお目通しになる「前」のご判断なのではないかと思う。詳しく理由を述べよう。
確かに、現在の行政が用意した「協定書」では、そのように書かれている(それは、当方の『7つの事実』の原稿でも「行政的にはもちろん,そのように説明されています」という文言で既に指摘している通りだ)。
しかし、そうした行政的説明はあくまでも「タテマエ」にしか過ぎないのであって、行政がどれだけ「大阪市民のサービス自体には変化がありません」と説明したとしても、実際にその制度を運用した時にそのタテマエが実現するかどうかは、全く別問題だ。つまり、そして高橋氏の議論は、あくまでも「タテマエ論」として正当であるに過ぎないのである。
例えば、2007年に郵政が民営化された際、郵便局を複数に分社化してもサービスレベルは悪くならない、むしろ良くなる、と言われていたのをご記憶だろうか? 当時の政府資料にはそういう趣旨のことがいつも明記されていた。しかし蓋を開ければ、ものの見事に、その「タテマエ」の約束は破られた。
事実、国会で「時間外窓口の廃止や遅配が相次ぎ、地域住民の利便性が著しく低下したという現状」(平成二十年十月二十三日衆議院)が問題となっている。なぜそうなったのかと言えば、その郵政改革案が「サービスレベルを下げない」という事を「保証」する程に十分に作り込まれたものではなかったからである。そしてそうなるであろうことは、実は民営化「前」から明白な事実として様々に指摘されていたのだが──当時は、そういう声は全て「無視」され、結果、郵政は民営化され、案の定サービスレベルは低下したのである。
つまり、制度改革の前の「政府のタテマエ」的説明は、鵜呑みにしてはならないのである。それを信ずるか否かを判断するには、その改革の「中身」を詳しく精査しておかねばならない。
そして筆者が協定書に書かれている都構想の仕組みを「精査」した結論こそが、「今、大阪市民に使われている税金の一定部分が、大阪市「外」に使われるようになる」という「事実4」だったのである。
なぜ,大阪市民の税金が,大阪市「外」に使われるのか?
ではなぜ、筆者がそう確信したのか。詳しくは、筆者の原稿(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/02/03/fujii-129/)を精読いただきたいが、ここでは、その要点のみを簡潔に述べてみよう。
まず、都構想が実現すると、現時点では、2200億円の市民の税金が、それに対応する事業と共に大阪府に移される。「行政的説明」では「だから、大阪市民のサービスレベルは変わらない」ということになっている。が、政府の仕組みというのは、それほど単純なものではない。
まず理念的な視点から説明しよう。そもそも、都構想の理念は「ワン大阪」。つまり、「府と市」の境を無くすことである。一方で、「大阪市民の税金が,大阪市「外」に使われないようにする」ためには、当然ながら「府と市」の間に「壁」を作らなければならないが、これはワン大阪の理念に反しているため、「実質上」ワン大阪の理念のこだわる限り、その「壁」は完璧なものとはならない。一方で大阪市と市以外でどちらが豊富な税収があるのかと言えば、言うまでも無く大阪市だ。したがって、市と府の間の「壁」が無くなり、財政上のワン大阪となれば、水が高きから低きに流れるように市のカネが府で使われるようになるのは必定なのである。
──ただし、以上の説明はわかりやすいが、理念的過ぎ、厳密さにかける。ついては以下、制度の話をしよう。
第一に、「大阪市の税金が市外に使われる事を防ぐ」という現在の行政の説明を保証するには、大阪市から大阪府に吸い上げられた税金(2200億円)の使い道を、現大阪市民(特別区民)が「管理」しなければならない。しかし、その2200億円の使い道を管理するのは「大阪府」なのである(協定書に明記されているように大阪府の一般会計に繰り込まれるからだ)。
もうこの時点で、2200億円の市外への流用を食い止めることが難しいことが分かる。そもそも大阪府の議会も知事も、その3割が現大阪市民の付託を受けて選ばれているが、残りの7割は大阪市民以外の府民である。したがって、知事も議会も、現大阪市民の意向「だけ」に基づいて、予算執行をすることなど不可能だ。したがって、うまくロンダリング(転用)さえすれば、おカネに色が付いていない以上は、今、大阪市民のために使われている市民の税金が、他の自治体や、「府の借金返済」に回されていく蓋然性は、すこぶる高いと言わざるを得ない。
第二に、ただしこの2200億円については「特別会計」をつくり、その使い道をチェックするとも説明されている(市議会答弁)。このチェックが完璧で、かつ、違反があった場合に強制できる権限が特別会計側にあれば、流用は避けられる。しかし、肝心の「協定書」にはその特別会計は明記されておらず、もちろんその権限も保証されていない。
第三に、万一仮にそれが保証されたとしても、その特別会計が、大阪府の一般財源という「別の財布」からの使い道を、どこまで調整できるのかといえば、実務的には絶望的に難しい。特別会計にて2200億円を大阪府がどう使ったのかを逐一チェックしていく作業は膨大なものとなり、現有の行政マンパワーを考えれば、実務的にほとんど不可能といって差し支えない。
第四に、その特別会計を司るのは、5つの特別区(つまり大阪市)と大阪府と構成される「都区協議会」である。言うまでも無く、大阪府と各区では、実質上の政治的なパワーは対等でなく、したがって、仮に特別会計をこの協議会で厳密にコントロールすることになっても、そのコントロール主体に強力なパワーを持つ大阪府の意向が強く反映されてしまうことは避けられない。
現在、行政が今、明言しているように「大阪市民の税金の流用を回避する」ためには、中には絶望的に成立不可能なものを複数含めたこれらの条件の「全て」をクリアせねばならないのだが、それは当然、「絶望的」と言える。そもそもそれらの条件はいずれも、法的拘束力のある「協定書」には書かれていないからである。結果、「市民の税金は余所には使われません」という説明は、あくまでもタテマエであって、そう断定できるような制度は整備できそうにないのが実情なのである。
穴の開いたバケツに水を注げば、水が漏れる
──いかがであろうか?
無論、判断は全て読者に任せるが、以上の議論は筆者にとっては明白であるとしか思えない。それは「穴の開いたバケツに水を注げば、水が漏れる」ようなものにしか思えないのであるのだが、いかがであろうか。
いずれにしても筆者は、都構想の投票の開催にあたり、少なくとも筆者が学者として事実だと考えるこの7つの項目については大阪市民、広く日本国民の皆様にはしっかりと吟味いただきたい、と心の底から祈念している。
そしてそれを受けて、その他の要素も総合的に加味しながら賛否の判断を下すのは、誰あろう大阪市民だ。
ただし、学者も政治家も、適正な情報を発信し続けることが不可欠であることは論を待たない。さもなければ、かつての郵政改革のように、目をつむったまま道路を横断するようなマネをすれば大怪我する他ないからである。「後悔先に立たず」、我々は今一度、この言葉をしっかりとかみしめるべきなのだ。
そしてそのためにも、「抑圧の無い自由な議論」は不可欠なのである。
謝辞:「都構想」についての議論は今、小さなネット記事ですら「抗議」の対象に晒される様な抑圧的環境の中に置かれています。そんな中、筆者に「真面目な政策論」についての言論機会を提供いただいた「現代ビジネス」に心から深謝したいと思います。ならびにそのきっかけをいただいた高橋洋一教授にも深謝の意を表します。ありがとうございました。
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平成27年2月7日
権力による言論封殺には屈しません
藤井 聡
「大阪都構想」にいま一番必要なのは議論のための「自由な空気」です。
しかし今、その自由な空気が「大きな権力」によって封殺されようとしています。
詳しくお話いたします───私、藤井聡は1月27日、
「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」
という原稿で7つの事実を指摘しました。
事実1:今回の住民投票で決まっても、「大阪都」にはなりません。
事実2:今の「都構想」は、要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです。
事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。
事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。
事実5:特別区の人口比は東京は「7割」、でも大阪では「たった3割」
事実6:東京23区の人々は、「東京市」が無いせいで「損」をしています。
事実7:東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく、「一極集中」の賜(たまもの)です。
そうしますと2月2日、大阪維新の会からこの文書が送りつけられてきました。
要するに、私が大阪都構想について間違った情報を流し、市民に誤解を与えているというのですが──何度読み直しても、さっぱり意味が分かりません。
第一に、そもそも私の議論のどこが間違っているのか何の指摘もありません。これでは討論を始めることすらできない。
第二に、「憤りを感じ、強く抗議」と書かれているのですが、「憤りながら抗議」するならそもそも、「冷静な議論」は無理です。
第三に、当方の記事発表後から、今日までの橋下市長によるツイッターや記者会見での私に対する執拗な罵倒、例えば、「バカですから」や「チンピラ」等は異常としか言いようがありません。とても自治体の首長の振る舞いとは思えません。
つまりこれは「討論」でなく、「ケンカ」の申し入れなのです。
しかも私は、この申し入れを一種の脅迫と解釈しています。「公開討論という名の『ケンカ』を売られたり、ツイッターや記者会見などで罵倒されたりするのが嫌なら大阪都構想について発言するな!」と脅す、そんな手口なのです。
冷静な議論ならいざ知らず、橋下代表と在特会桜井氏との公開討論を見ましたが、あのようなやり合いが「市民の公正な判断の機会」になるとも、到底思えません。
したがって、大阪維新の会からの公開討論の申し入れには応じません。返答をするつもりもありません。
今回の「根拠を明示しないままの申し入れ」は、大阪府知事と大阪市長、そして、公党代表・幹事長という強大な公権力者による言論封殺と言わざるをえません。
おそらく橋下市長やそのシンパ(信奉者)達は、私が公開討論に応じなかったことをもって「藤井が逃げた!」と叫び、橋下市長の正当性を印象づけようとし、言論封殺を繰り返すでしょう。よろしい、叫び続ければよい。しかし私は、そんな「言論封殺」には屈しません。
私、藤井聡は今後とも、日本、そして何より我が愛する青春の街、大阪のために、大阪都構想に対して発言し続けます。私の言論はいかなる圧力、脅し、あるいは嫌がらせにも、絶対に、屈することはありません。
「都構想」の投票日100日前/平成27年2月7日 藤井 聡
【関連記事】↓
橋下市長(ツイッターより):
京大の藤井教授。
やっぱりでしたが、公開討論に応じないとのこと。
理由はいっぱい付けていますけど。
普段は国が!国民が!と言ってるいるのにね。
彼の主張は、地方行財政学上、でたらめです。
その証拠に、その専門家は、彼のような主張は一切しておりません。
彼は地方行財政には完全な素人。
藤井教授の主張はまとめると、
1、今度の住民投票では「都」にならない
2、大阪都構想になると大阪市民税が大阪市域外に流れるの2つ。
1、は名称の問題。
大都市に特別区を設置して府の広域行政機能を強化することを都制と言います。
名称は次の問題。
名称は、維新の党で法案を出します。
名称だけを「都」にしても、2重行政の解消にならないし、住民自治の充実にもなりません。
実力もないのに内閣官房参与という肩書だけを持っている学者のようなものです。
今回の争点は、大阪の2重行政を解消し、大阪市内の住民自治を充実させること。
名称は関係なく、特別区の設置こそが都制、都構想。
5月の住民投票が可決されれば、大阪は都制になるのは間違いありません。
名称は法律で変えます。
2、大阪市民の税金は大阪市域外に流れません。
これまで大阪市役所が担当していた、大学、消防、港、広域高速道路などの仕事を大阪都庁に担当させます。
その際に2200億円のお金を都に移します。
これまでの大阪市役所が発行した市債の償還財源もこの2200億円に含まれています。
このことをもって大阪市域外に流れると藤井氏は主張していますが、地方行政の現実を何も知らない反対のための反対論。
お金とともに仕事の負担も移るのです。
仕事の担当者替えです。
これまでは大阪市役所や大阪市議会が担当していた仕事を、大阪市議会ではちゃんと仕事ができないから、大阪都議会に移すだけです。
市民にとっては何の影響もありません。
そしてこのお金と仕事のチェックは、特別会計で管理します。
都区協議会がチェックします。
大阪市民の税金が市域外に流れるって、熱烈反橋下、反維新の非専門家が言うならまだしも、一応京大の教授ですからね。
地方行財政学の学者からは、藤井氏の主張のようなバカな主張は全く出ていません。
この人土木専門なんですから、その範囲で意見を言っていた方が良いですよ。
いずれにせよ、藤井教授は、僕との公開討論から逃げてしまいました。
コメンテーターも、ジャーナリストも、メディアの論説委員も、もっと言えば自民党、公明党、民主党、共産党の誰でも僕と公開討論をやってくれたらいいのに、反対派は誰も僕とは公開討論をしません。
民主主義のためにならないですね。
『高橋洋一(嘉悦大)@YoichiTakahashi
大阪都構想の算数。
BEFORE,AFTERでみて、府民税+市(区)民税は同じ、
府+市(区)の必要予算は二重行政排除で減少。
これから、府と区の役割分担をやれば、府民+区民の受益は必ず増加する。
府と区の役割分担は東京を参考にすれば東京よりうまくできる。
反対するのは二重行政の利権者だ。』
Retweeted by 橋下徹
『高橋洋一(嘉悦大)@YoichiTakahashi
大阪都構想の算数(2)。
必要予算が減少・税負担が同じなら浮いた分で新規事業が可能で府民+区民の受益は必ず増加する。
こういうのはパレート最適といい少なくとも今より損にならない。
細かい話はあっても方向性は間違いない。
二重行政排除で住民受益を増やすか、二重行政維持で既得権擁護かの問題。』
Retweeted by 橋下徹
高橋洋一「ニュースの深層」
橋下徹・大阪市長vs.内閣官房参与の
大阪都構想めぐるバトルが、案外面白い
2015年02月09日(月)
高橋 洋一
著者プロフィール&コラム概要
橋下徹・大阪市長の都構想をめぐるバトルが面白い photo Getty Images
ISIL(いわゆる「イスラム国」)のテロはみていられないが、国内での政策議論は非暴力であり、大いに結構である。大阪都構想について、5月17日に住民投票を行う方向となっており、それに向けて、関西で面白いバトルが展開されている。
橋下市長より藤井教授のほうが分が悪い
筆者は東京生まれ・育ちなので、大阪人の行動スタイルは、言い方が悪いかもしれないがとても興味深い。以前の大阪の地下鉄では、誰も並ばずに、ドアが開くと、アメフットボールでオフェンスとディフェンスがぶつかり合うように、電車から出る人と入る人がぶつかり合う光景に驚いたものだ。最近では、東京のように行儀よく列に並んでいるので、大阪らしさがなく、ちょっと残念だ。
大阪都構想について、これまで刺激的な発言をしてきた内閣官房参与を務める藤井聡・京都大大学院教授に対し、橋下徹・大阪市長は公開討論を申し入れていたが、藤井教授が拒否してしまった。
筆者は両人ともに個人的によく知っているだけに、おおいに公開討論を期待していたが、本当に残念である。藤井教授の言い分は、「権力による言論封殺には屈しません」ということで、自身のサイトに公表されている(http://satoshi-fujii.com/)。
藤井教授は、「討論ではなくケンカの申し入れで一種の脅迫」としているが、テロのように命が取られるわけでないのだから、関西のノリで橋下市長との公開討論がみたいと思っている人が多いだろう。
橋下市長と藤井教授のやりとりは、ネット上でわかるが、いささか両者ともに口が汚かったと思う(関西人なので、これもありかと思う)。ただし、内容について政策論の観点からいえば、正直いって藤井教授のほうの分が悪い。
特に、藤井教授がいう「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/)のうち、財政に関する「事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。」と「事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。」を取り上げてみよう。
「政府」と住民の関係は変わらない
大阪都構想については、大阪都構想特設サイト(http://oneosaka.jp/tokoso/)、大阪府・大阪市特別区設置協議会の開催概要(http://www.city.osaka.lg.jp/toshiseidokaikakushitsu/page/0000207789.html)などに詳細な資料があるので、それらを参照すれば、ほとんどわかる。
なお、筆者は、大阪府知事・大阪市長による府市再編に関する有識者ヒアリング(http://www.city.osaka.lg.jp/toshiseidokaikakushitsu/page/0000239980.html)の第3回(2014年1月28日)に出席して、東京都における都と区の役割分担の意見を述べている(2014年2月3日付け本コラム「橋下市長の辞職・出直し選を機にあらためて問う。「大阪都構想」の何が問題か?」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38258)。また、大阪都構想を実現させるための立法を政策提言したこともある。
まず、大阪都構想は、大阪市の代わりに5つの特別区を作ることだ。それまでは、一人の市長を選挙で選び、その市長が24人の行政区長を任命していたが、5人の特別区長を選挙で選ぶことになる。
行政区とはいえ、大阪市に24区もあるのは、特別区23区しかない東京人からみればちょっとした驚きだ。しかも、大阪に行くと、区長の名前も顔も知らないという。役人行政区長なので、仕方ないのだろうが、公選特別区長が当たり前の東京人からみれば、これも驚きであった。
いずれにしても、こうした市を複数の特別区に置き直すことは、広い意味での政府内組織再編である。広い意味での政府というのは、市を特別区に置き換えても、地方政府であることには変わりない。住民からみれば、市も特別区も地方政府である。しかも、行政区ではない特別区であれば、市と同じ「基礎的自治体」として、地域において重要な役割を果たすことができる。
政府内組織再編であるので、政府と住民との間の関係が変わることはない。これがまず基本である。市から特別区に変わっても、基本的には市民税が特別区民税にかわるだけだ。いずれにしても、府民税+市(区)民税は大阪都構想の直前・直後で同じだ。
藤井教授のいう「税金の流出」は、なさそうだ
行政サービスでは、大阪府と大阪市の枠割り分担が見直され、サービス主体が変わる。東京都の場合でも次のような役割分担が、都と特別区の間である。
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しかし、住民が受けるサービス自体には変化がない。ここでも、府+市民が受ける行政サービスは大阪都構想の直前・直後で同じだ(地下鉄のように民営化があっても、住民が受けるサービスは変わらない)。この役割分担に応じて、府と特別区の間で税金の移転がある。
以上のことからいえば、藤井教授のいう「事実3:年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します。」と「事実4:流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われます。」には何の意味もない。大阪市から税金が流出しても、その分大阪府が市に代わり行政サービスをするだけだ。このため、住民の税金も、受ける行政サービスも変化がないというのが基本である。
これは、大阪都構想が、広義の政府内組織再編だからだ。ある会社の製品を購入する場合、その会社内で組織再編があり、製造セクションが会社内で変わったとしても、消費者からみれば、同じ製品で同じ価格であるのと同じだ。
ここで、大阪府と大阪市に二重行政がまったくなければ、大阪都構想のメリットは、一人の公選市長から5人の公選特別区長を選び出すという点だけになる。ただし、そうであっても、人口270万に一人の市長より、5人の特別区長のほうが住民の意向は通りやすくなるだろう。その他の点は、政府内組織再編なので、住民には不利益はない。つまり、大阪都構想で住民は悪くならないというわけだ。
大阪府と大阪市に二重行政があれば、上の住民参加のメリットに加えて、財政上のメリットが住民は受けられるようになる。二重行政のムダを省くことによって、行政サービスの水準を落とさずに、必要な予算額を減少させることが出来る。そこで浮いた予算を他の分野に振り向けることによって、同じ税負担であるが、行政サービス水準を向上させることができるのだ。
この点を具体的に考えてみよう。
大阪市立大と大阪府立大
大阪市には大阪市立大学、大阪府には大阪府立大学がある。これは、大阪都構想からみれば、二重行政だ。市が特別区になれば、区立大学はありえない。よって、大阪市立大学と大阪府立大学は統合されて、「新」大阪府立大学になる。その際、直ちにではないだろうが、徐々に、二重部門は統合されていく。
大学の間接管理部門は、遠からず整理・統合されていくだろう。教員もゆっくりであろうが、長い期間をかけて科目統合などが行われるだろう。統合された部門では、外部調達も一本化される。
そうなると、大学の間接管理部門や外部調達の一本化等によって、いずれ不利益を被る人が両大学の内外で出てくる。もちろん、そうした人に個人的な落ち度はないのだが、二重行政によって、住民が余計な税負担をしているのも事実であり、そうした点を長期的に制度改革で直そうというのが、大阪都構想である。
制度が悪いと、知らず知らずのうちに二重行政の既得権者を作ってしまう。個人の段階では悪意がないだけに気の毒であるが、長い目で見てその是正を行うのは政治の責任である。
上で述べた特別区設置協議会サイトにある特別区設置協定書等をみると、府と特別区の役割分担が書かれている。この中で、大学事務の他にも、従来は市の事務が府の事務になるものもある。それは従来の市の事務の12%程度だ。
この分野では、二重行政でなくても、市の職員は仕事が引き続きあるのか不安になり、また外部の取引業者は相手が市から府に代わるので、大阪都構想には消極的になるかもしれない。ただし、二重行政さえなければ、単に看板の掛け替えなので、市の職員も外部の取引業者もそれほど心配することではない。
いずれにしても、大阪都構想は、複数の特別区長を公選する住民参加と二重行政のムダを排除して住民受益を向上させる方向性は間違いない。
これに反対する者は、大阪都構想ではなく現状のほうが住民参加と住民受益を向上させる点で優れているといえるのだろうか。橋下市長は公開討論を厭わないだろうから、どんどんオープンにしたらいい。
橋下市長のツイッター(@t_ishin)や藤井教授のサイト、それに両者のバトルは、これまでにない方法なので、興味深い。最後に繰り返すが、公開討論がないのは本当に残念である。
40歳の日誌 - 箕面市長 倉田哲郎blog
2015年02月08日
「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」をマジメに考える
※ 最近、この手の話はツイッターにしてるのですが(特に理由はないです)、
7つもあって分離するとわかりにくくなるので、今回はブログに書くことにしました。
ニュージーランドから帰国してみたら、京都大学教授の藤井聡氏なる人が書いた「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」なるものが盛り上がっていました。
「ヘドロチック」発言ばかり話題になりますが、そもそも「7つの事実」とやらが(僕は“ヘドロチック”のことを知る前に読んだのですが)、正直、どれも「え?」という内容でしたので、以下、順番にコメントしておきます。
【事実1】今回の住民投票で決まっても,「大阪都」にはなりません.
“大阪府の名称は住民投票では変わりませんよ”って話。
・・・これを一番にもってくる時点で、正直、唖然(@_@)としました。
名称なんてどうでもいいのです。
それは5年前に「『大阪“都”構想』をどう思う?」で、僕自身が「自治体呼称としてのネーミングはやはり『大阪府』が好みですが」と書いたとおり。
中身が大事。
それを「事実1」とか言って最初に大々的に主張されてる時点で、学者さんが書く主張として、あまりにアホらしくてビックリしました。
【事実2】今の「都構想」は,要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです.
そのとおり。
問題の本質は、京都府全域(人口255万人)を上回る異常な規模の「大阪市」(267万人)が、狭いのに「大阪府」と縄張り争いするという構造的歪み。
府・市のどっちかが悪いとかじゃなくて、構造が悪い。
その構造問題の解消手法が特別区化。
今も昔も都構想はまったく同じ。
5年前に「『大阪“都”構想』をどう思う?」で書いたとおりです。
なお、府市・都区の仕事の分担(誰が仕事をするか)が変わるだけで、必ずどこかの部署がこれまでどおりの行政サービスをしますから、大阪市民が○○区民になっても不利益はありません。
むしろ○○区役所は(箕面市役所のように)コンパクトで身近なものになります。
【事実3】年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します.
この不見識には驚きました。
大阪市民も大阪府民でしょう?
住民は、大阪市(区)からでも、大阪府(都)からでも、ちゃんとサービスが充足されるなら、どちらからでもいいはずです。
そして、住民は、民主主義を通じて「市(区)」「府(都)」をコントロールします。
それなのに、今の大阪市の2200億円分のサービスが、どこか大阪市民の手の届かないところへ行って使われてしまうような「流出」という表現。
特別区に権限がないから、大阪市「外」に流出する”という飛躍したロジック。
「都」は大阪市(区)民にはサービスを一切提供しない(区民≠都民)という完全に誤った立場からの説明としか考えられません。
これは、不見識か、作為的か、どちらかとしか言いようがないです。
【事実4】流出した2200億円の多くが,大阪市「外」に使われます.
これは、何回読んでも意味がわかりません。
なにを根拠に言ってるのか、藤井聡氏の書く「都道府県の財政運営の『法的常識』」なるものがいったいなんなのか、誰か教えてほしいです。
・・・というか、京都大学の教授ともあろう人が「7つの“事実”」と称して書くことじゃないでしょう。
だって、文末が「・・・可能性も,十二分以上に考えられるわけです」ですよ。つまり、事実じゃないじゃないですか(笑)。
これはさすがに脇が甘すぎるんじゃないですか。
7つのなかで最もツッコミどころ満載の「事実」でした。
【事実5】特別区の人口比は東京は「7割」,でも大阪では「たった3割」
当たり前です。
密集する都市部では、人口は面積に比例します。
23区の面積は東京都全域の“28%”、大阪市の面積は大阪府全域の“たった12%”ですから、7:3の規模比率もキレイに一致します。
面積が“たった12%”で居住人口も「たった3割」の大阪市に、大阪全域から労働力が流入することで、大阪の経済は支えられています。
従って、藤井聡氏のいう「手厚い行政」は、面積「たった12%」の大阪市域だけでなく、より広域で行われるべきです。
そして、藤井聡氏は “面積12%に重点的に配慮することが大阪のためになる” という考えのようですが、それは違うでしょ。
大阪の場合、富を生み出すエリア(都心)を、いかに12%以上に広げて、関西全体の人たちを受け止めて発展できる都市インフラを構築できるか?を考えなければダメでしょう。
もう少し将来を考えてほしいところです。
【事実6】東京23区の人々は,「東京市」が無いせいで「損」をしています.
最後のほうになるにつれ、無理やり感が高くてイヤになってきます。
「もしも『東京市』だとしたら,東京都心はもっとさらに強烈な集中投資が進んでいる」とか書いてあるんですが、現実的に、これ以上なにを東京都心部に投資しろというんですかね。
要するに “大阪市内に住んでる人だけが得をすればいい” 、 “富が余っても絶対に周辺に投資はしないぞ!” という主張なわけですが、面積12%しかない狭い大阪市だけでどう発展しようというのか?と問いたいです。
【事実7】東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく,「一極集中」の賜(たまもの)です.
これには驚きました。
・・・これは書くべきじゃなかったと思います。
言うに事欠いて、“大阪は努力せず諦めろ”ってことでしょう?
誰も、行政組織が「都」に再編されたからって、いきなりバラ色になるなんて思ってませんよ。
今までより少しでもマシな仕組みにして、ちょっとでも大阪の停滞を打破しようよって、ささやかな希望だけです。
それなのに藤井聡氏は、
「そもそもの経済規模が全く違うのからなのです」
「人口についても経済規模(GDP)についても,大阪市と東京23区との間には,実に4倍前後のもの巨大な格差があるのです」
「首都東京に,あらゆるモノが一極集中している」
「これが,東京23区の豊かさの秘密です」
などと、一生懸命に東京の凄さを説き、
“大阪には無理だから” 、 “努力しても無理だから” と教えてくださってるようです。
要するに、大阪はどんなに頑張っても無理なんだから、改善する努力すら無意味だから諦めろよ、と。
・・・これはいただけない。
以上、最後のほうは(大阪で政治に携わってる者として)ちょっと腹立たしくなるのが自然だと思います。
万が一、この「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」なる主張に賛同する大阪の政治家がいたら、それは辞めていただいたほうが大阪のためになります。
・・・特に「事実7」の記載はクリティカル。
さて、現在、藤井聡氏は、大阪維新の会からの公開討論の申し入れに対して、
「私の議論のどこが間違っているのか何の指摘もありません。
これでは討論を始めることすらできない。」
と書いています。
正直言って、橋下市長ほか大阪の政治家が、指摘する気すら失せているだろうことは、上記のとおりよくわかります。
・・・それでも誰か書いといたほうがいいかなと思ったので、(僕は大阪維新の会じゃありませんが)大阪都構想に賛同する身として、マジメにコメントしておきました。
是非の議論は大歓迎です。
反論いただけるならどうぞ。
(なお、僕は仕事柄、公開討論などもお受けできますので。)
いずれにせよ、5月17日に向けて、議論が熟す一助となれば幸いです。
posted by 倉田哲郎 at 01:29 | 活動日誌
サルメラ(ツイッターより)
2015年2月01日
@t_ishin 藤井教授のブログ見ました。
1から4は当たり前の話を悪意的に解説してるだけ。
名前なんか、都でもなんでもいいし、
後は否定も肯定もできない話ばかり。
@t_ishin 5については、大阪都構想は東京を反面教師としてマイナーチェンジも施されてる。
そして、それがダメなら、またさらに改善すればいい話。
@t_ishin 6は、認識自体が間違ってる
羽振りが良くなるなんてハナから言ってない
公選区長がワケのわからない金の使い方をしなくなる、と言ってるんだ。
フェスティバルゲートの責任は誰がとった?
UFJは民営化して、大繁盛してるぞ。
これが現実。
@t_ishin そして7は、現状維持派の後ろ向きな、座して死を待つ典型。