転載元: 高橋洋一「ニュースの深層」2012年04月09日(月)
大阪市特別顧問に就任した高橋洋一氏が解説
「消費税は社会福祉目的税化はおかしい」
「消費税は地方に移譲すべき」橋下市長がつぶやく「正論」先週の橋下徹大阪市長の行動に日本中が振り回された。4月4日、石原慎太郎東京都知事がわざわざ大阪に行って橋下市長と会談した。両者ともに、内容は語っていないが、マスコミは内容を探ろうと必死だ。さしで会っているはずなので、その中身はどちらかがばらさない限りもれることはない。今、どんな政治家にとっても橋下氏の動向は気になるだろう。誰に聞いても、橋本氏と近いことをアピールするひとばかりだ。そんな中で、6日、私は大阪市の特別顧問に就任した。特別顧問というが、私以外にも数多くいる。私に対しては、総務省(2005年から2006年まで竹中平蔵総務大臣補佐官)時代の経験に基づく専門知識を生かしてもらいたいとのことだ。橋下市長はいつも話題の中心にいるので、こっちもその余波を受けるが、もちろん、私は専門知識を生かすだけで政治的にはまったく無関係だ。なお、大阪維新政治塾の講師もやるが、こちらはどんな政党に対しても行う通常の講演である。
橋下市長は政局的な動きも派手であるが、政策面でもいろいろと話題を振りまいている。知り合いの閣僚経験者から、橋下市長の発言で困ったといってきた。増税のため自由党時代の小沢一郎を抱き込んだ財務省
それは、6日の朝日新聞社説への反論をtwitterでつぶやいたことだった。4月6日朝日新聞社説。消費増税と政治「言い訳やめて、本質論を」。良い社説だ。朝日新聞始めメディアの消費税増税論の矛盾を全て暴きだしている。まさに朝日はじめ大手メディアよ。今こそ、消費税増税論の本質について考え直して欲しい。から始まった。
その中で、こう書いている。消費税を社会保障目的税としている国などない。それは何故か。消費税は所得の再分配に使う税ではないからだ。所得の再分配に使う税は、まさに所得税(法人税を含む)。稼いだ人から、稼ぎの少ない人への再分配。消費税で所得の再分配をしようとするから、逆進性が問題になり低所得者対策の話になる。まったく正論だ。こんな正論を政治家に言われては、役所の御用学者は面目がないだろう。この正論は、かつて財務省も主張していた伝統的な正統理論だ。ところが、小沢一郎氏が自由党で勢力のあったころ、財務省は社会保障を人質にとって消費税引き上げをもくろみ、彼に消費税の社会保障目的税化を言わせた。それ以来、税の正統理論を捨てて、消費税率引き上げだけを目的として、社会保障目的税化を財務省は言ってきた。
マスコミは本質的な議論ができず、財務省の「口パク」なので、いつしか消費税の社会保障目的税化は当たり前と思い込むようになった。国の財政規模が小さいヨーロッパの国々
橋下市長は、やはりtwitterでこう主張する。地方分権を進める。国のかたちを変える。そのためには地方の税源を整備する必要がある。消費税こそ地方税にすべき税源だ。国のかたち論、地方分権論の本質をしっかりと理解すれば、国税のかたちで消費税を上げろ!という主張にはならない。消費税は地方に移譲すべきという議論になる。
消費税は地域間の偏在性は少ない。そして景気の動向に左右されない。カネのあるなしにかかわらず収める税。とういことは、地域の行政サービスを受ける対価と位置付けるのが一番本質論に沿う。だから地方税にすべきなのである。所得の再分配は、稼ぎに左右される所得税・法人税を充てるべき。
この部分も正論だ。しかし、これは財務省の口からは出てこない。というのは、彼らは地方分権には基本的には反対だからだ。もし、地方分権をしようと思えば、三ゲン(権限、人間、財源)を中央から地方へ委譲することが必要だ。アバウトにいえば、人数で20万人、財源で20兆円程度の委譲である。となると、消費税は委譲対象にしないと地方分権はできない。しかも、橋下市長がいうように、消費税は安定財源なので、地方の基礎的サービス(これは景気変動があってもやめられない)をまかなうのには適切だ。
実際、地方分権されている国では、消費税は地方の一般財源であることが多い。なお、財務省がいつも例に出すヨーロッパは確かに消費税が国税で税率が15~25%となっている。しかし、日本で言えばひとつの地方程度の規模で、地方ごとに消費税率を決めていると思えば、違和感はない。
財務省でも、この程度のことは知っている。しかし、地方分権の流れが出てきて、地方分権が進展するとともに消費税を地方に取られることを心配して、社会保障目的税化をいって国税に固定化しようとしたのだ。
橋下市長は大手新聞は地方分権に熱心なのに、消費税の地方税化をいわないのは、本質的な議論をしていないからだと批判する。これには大手新聞もグーの根もでないだろう。
OSを変えるのか、バージョンアップで済ますのか
さらに、橋下市長は、地方交付税はいらないという議論をしている。これは総務省が大弱りだ。なにしろ省がいらなくなってしまうからだ。地方分権すれば、総務省の旧自治省は要らない。世界を見ても、旧自治省みたいな中央官庁はまずない。しかし、そうした正論も官僚の前にはかき消される。そこで、地方交付税がなくなると地方の格差が広がるという反論がすぐ出てくる。
これも世界をみればすぐに答えが見つかる。地方財政調整制度だ。学者であれば、世界的にみて今の日本の交付税は財政調整より過大になっているのを知らないがはずない。また、私が総務省にいたとき、竹中総務大臣の下で、望ましい財政調整制度のために、客観基準による新型交付税を作った。それは、総務省の権益をそぐものとして、総務官僚は徹底的に抵抗したものだ。新型交付税でなくても、地方の間で財政調整制度を考えることもできる。
こうした消費税の本質論が中央の政党からでなく、地方から出てくることが、今の政治の貧困をあらわしている。今頃になっていわれて、ともに財務省の言いなりになっていた民主党も自民党も困っているだろう。
おそらく、マスコミは財務省に反論を聞きにいくはずだ。それで出てくるものは技術的な話ばかりだろう。実際、消費税を地方に委ねて、交付税がほとんどない国もあるので、技術的な批判話は、実はただやりたくないだけという「価値観」でしかない。
中央集権という今の国の形をそのまま修正していくか、一から地方分権から作りかすかという選択の問題だ。同じOSのバージョンアップで対応するか、新しいOSに入れ替えるか、価値観の問題であり、これこそ有権者がどちらを選ぶかなのだ。消費税増税ではこういう本質論を国会でぜひ行い、国民の信を問うべきだ。橋下市長は、民主党の消費税増税は国民との公約違反であり、それを代表戦という民主党内の手続きで強行しようとしているのは無効であるといっている。まさしく国民の気持ちを表している。
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高橋洋一/参戦!大阪都抗争
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